インバウンド市場の概観と飲食店の役割
インバウンド観光客の現状、インバウンド対策をすべき理由を解説する。
インバウンド観光客の現状と市場特性
引用:日本政府観光局JNTO「訪日外客数(2024年4月推計値)」
日本政府観光局JNTOの「訪日外客数(2024年4月推計値)」によると、2017年に200万~250万人程度だった訪日外客数が、2024年には300万人を超えている。新型コロナウイルスの影響により一時期は低迷したものの、2024年3月の訪日外国人客数は、過去最高を記録した。円安が続く現在、今後も訪日外客数は増える可能性があるといえるだろう。
インバウンド観光客には、以下のような特性がある。
● 日本のチェーン店への高い関心がある
● メニューの豊富さ・価格の安さ・利用のしやすさが人気の理由
● SNSを情報源としている
YOLO JAPANの「[調査] 在留外国人に人気なレストラントップ10!」によると、在留外国人に人気なレストランの1位は「サイゼリヤ」、次に「すき屋」「ミスタードーナツ」「スシロー」と続き、10位までのすべてがチェーン店であった。また、在留外国人がレストランを選ぶ際に重要視することの理由は、「料金が安い」が1位(82%)、次に「食事が舌にあう」が79%、「立地/行きやすさ」「メニューが豊富」が58%と続いた。
日本には、全国どこでもおいしく、安定した品質で食事ができるチェーン店が多くある。特に東京では、世界各国の料理が食べられる環境が整っており、観光客にとって魅力的な食の目的地となっている。
引用:国土交通省観光庁「訪日外国人の消費動向(2023年 年次報告書)」
観光庁のデータを見ると、インバウンド観光客のほとんどが旅行の情報源としてSNSを利用していることがわかる。例えば、「焼肉ライク」の一人焼肉は、SNSを通じて外国人に人気になった事例の一つだ。また、TikTokをきっかけに、地方の小さな蕎麦屋に観光客が殺到した例もある。
外国人観光客ニーズの理解と重要性
引用:国土交通省観光庁「訪日外国人の消費動向(2023年 年次報告書)」
観光庁の「訪日外国人の消費動向」を見ると、2023年の訪日外国人の消費額は、宿泊費に次いで買物代、次に飲食費が22.5%と高い割合を示している。また、訪日前に期待していたこと・最も期待していたことは、どちらも「日本食を食べること」が1位であった。
外国人観光客は日本人とは文化や習慣が違うため、ニーズが異なるのが当然だ。インバウンド観光客が増えており、さらに消費目的の大半が日本食を食べることにあるならば、飲食店において外国人観光客のニーズや好みを理解することは必須だといえる。
日本の人口減少が問題になっている今、多くのインバウンド観光客に利用しやすいような対策をすれば、売上アップはもちろん、ビジネスチャンスの拡大も期待できるだろう。
ターゲット設定とメニュー開発
飲食店のインバウンド観光客への重要な、ターゲット設定とメニュー開発の対策について解説する。
ターゲット設定(自店舗の立地で来やすい外国人、または来てほしい外国人を設定)
インバウンド対策をする始めのステップとして挙げられるのが、ターゲット設定だ。ターゲットを決めないままインバウンド対策をしても、獲得したい顧客への的確なアプローチはできない。
インバウンド観光客とひとくくりにしているが、出身国も目的も違っており、ニーズが異なるからだ。まずは、自店舗の立地で訪れやすい外国人を把握し、ターゲットとして設定しよう。
国別観光客の嗜好とメニューのカスタマイズ
よく訪れるインバウンド観光客の各国の食文化を把握し、どのような嗜好を持つのかを理解しよう。各国の食文化への理解がなければ、外国人に刺さるメニューはつくれない。
国別の観光客の好みにあわせ、メニューをカスタマイズしよう。また、メニュー以外にも、心地よく来店してもらうためにも、文化の違いを意識したサービス対応も欠かせない。
多言語・特別ニーズ対応メニューの提供
メニューは、多言語で表記しよう。まずは、英語のメニュー表を作成したうえで、来客の多い国の言語を作成すると良い。さまざまな国の観光客が来るからといって、全言語へ対応しているときりがない。具体的な言語としては、英語の次に中国語、韓国語に対応していくのがおすすめだ。
多言語対応のメニュー作成が大変な場合、東京都の「多言語メニュー作成支援ウェブサイト」を利用しよう。サイトを利用すれば、12言語に翻訳されたメニュー表を無料でつくれる。
また、インバウンド観光客が、提供された料理の食べ方がわからないケースも考えられる。外国人のニーズに対応できるよう、メニューには食べ方もあわせて記載しておくと良い。さらに、以下で解説する特別ニーズ対応のメニュー提供も欠かせない。
ハラール、ベジタリアン、食物アレルギー配慮
外国人のニーズに対応するために、ハラールやベジタリアン・食物アレルギーにも配慮しよう。ハラールとは、イスラム教で許されたもののこと。ハラールでは、豚肉が禁止されているだけでなく、イスラム法の手順に沿った処理をしていないものも食べられない。
引用:観光庁:「ベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイド 資料編」
観光庁のガイドによると、訪日旅行者数20の上位に入るインドは、ベジタリアン等の比率が日本の4倍だ。現在アジア人のベジタリアン比率が高いが、最近では、欧米でもベジタリアンが増えている。
もう一つ忘れてはならないのが、食物アレルギーだ。食物アレルギーは、命にかかわるケースもある。メニューに食物アレルギーを引き起こす可能性の高い食材を記載する・お客様が食べられないものを確認するなど、安心して食事ができるような対応をする必要がある。
また、ハラールやベジタリアン、食物アレルギーの方向けの特別メニューを提供できれば、より多くの旅行者が訪れやすくなるだろう。
接客と安心の提供
外国人の接客では、外国語を話せない場合に伝えたいことが上手く伝わらないこともあるため、不安を持つ方もいるだろう。安心して接客できるよう、トレーニングをすることも大切だ。
スタッフの言語トレーニング
インバウンド対策のために、スタッフの言語トレーニングをしよう。外国人の応対では、注文を取るのはもちろん、アレルギー対応や周辺のおすすめ情報を聞かれることもある。
外国語を完璧にできるようにする必要はない。飲食店でよく使われるフレーズを集中的にトレーニングすると良いだろう。また、外国語対応ができるスタッフを採用することも一つの方法だ。
文化的違いへの理解と適応
スタッフに、インバウンド観光客の文化的な違いを理解してもらえるような研修を実施しよう。インバウンド対応についてのパンフレットを公開している自治体や事業者もあるため、それを利用するのがおすすめだ。例えば、以下のような資料がある。
東京都産業労働局:訪都外国人旅行者インバウンド対策ガイドブック
農林水産省:飲食事業者のためのインバウンド対応ガイドブック
デジタルマーケティングと予約システム
インターネットを利用し、訪れる飲食店を決めるインバウンド観光客は多い。ここでは、ネットでインバウンド観光客の利用を増やすためにできることを解説する。
SNSとオンライン露出の最適化
もうすでに、SNSを運用している飲食店もあるだろう。投稿の際には、「日本語と一緒に英語訳を載せる」「英語のタグをつける」といった工夫により、外国人の利用者が増える可能性がある。
冒頭で解説したように、SNSから飲食店への来店を決めるインバウンド観光客は多い。SNSアカウントがない場合は、この機会に店舗のアカウントを開設してみると良いだろう。
ビジュアル戦略とリアルタイム情報の活用
料理や店の雰囲気を写真や動画で見せることで、観光客の興味を引きやすくなる。特に、動画の活用がおすすめだ。音や動きと共に、料理や店舗内の雰囲気を伝えられるため、SNSを運用する場合には、積極的に動画を活用しよう。
SNSにはXやInstagram、TikTokなどがあり、それぞれ特性が異なる。例えば、Xでは短いテキスト・画像を使ったリアルタイムな情報を発信できる。
Instagramはビジュアルに強く、短いリール動画でも情報発信が可能だ。TikTokは、短い動画を投稿できる比較的新しいツールで、世界でも多くの利用者がいるためインバウンド観光客を呼び込む手段として活用できる。
Webページの多言語対応
SNSで情報を得たあと、より詳しい店舗情報をWebサイトで調べる方もいるため、Webサイトは多言語対応にしておくと良い。英語で表記してあれば、インバウンド観光客は「外国人も安心して利用できる店舗なのだ」と認識できる。特に英語表記すると良い項目には、以下のようなものが挙げられる。
● アクセス方法
● 営業時間
● 店舗の概要
● おすすめのメニュー
● 料金の支払方法
多様な決済方法とデジタル決済の導入
海外では、日本よりもキャッシュレス化が進んでいる。現金対応のみだと、支払い時に日本円が不足している場合、飲食店の利用を諦めるしかない。クレジットカードやスマホでのキャッシュレス決済を導入すれば、より多くのインバウンド観光客に店舗を利用してもらいやすくなる。
また、インバウンド観光客への対応目的以外にも、キャッシュレス決済ならスタッフがおつりを渡す際の渡しミスなども減らせるメリットもあるため、積極的に検討すると良いだろう。
まとめ
外国からの観光客が増えている今、提供メニューを外国人の食文化に対応できるようにしたり、メニュー表の多言語表記やキャッシュレス決済を導入したりするなどのインバウンド対策をすることは、店舗の売上を上げるためにも重要だといえる。しかし、外国語や国外の文化に親しみのない場合は、その対策をするのも大変だ。
観光庁や自治体のなかには、インバウンド対策に参考になる資料やサイトを公開しているところも多い。そのような資料も利用しつつ、できることから対策していこう。