飲食店の人材採用に欠かせない、組織作りと募集のポイント

飲食・宿泊2022.06.29

飲食店の人材採用に欠かせない、組織作りと募集のポイント

2022.06.29

飲食店の人材採用に欠かせない、組織作りと募集のポイント

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飲食店が新規出店するには、店長や副店長などの人材確保が必要だ。しかし求人広告を出しても応募がないというところは多いのではないだろうか。コロナ禍以前から慢性的な人手不足の状態が続いている飲食業界だが、現在は求職者が求める条件に変化が見られ、人材採用ができている飲食店とそうでないところの差が開いているという。

外食企業の人事業務を専門にコンサルティングする株式会社ラフテルズの道下 隆氏に、飲食業界の現状や採用できている企業の人事・採用戦略、成功事例などについて話を伺った。

目次

飲食業界の人材採用は、明暗が分かれる

株式会社ラフテルズ
取締役 道下 隆 氏

現在の飲食業界では、外食企業の多くは募集をしても人材が集まらない。株式会社ラフテルズの道下隆氏に、原因と対策を聞いた。

「外食企業120社2,000店舗以上の人事戦略をコロナ禍以前から見てきましたが、きちんと採用ができている会社とできていない会社に分かれている印象です。コロナ禍が落ち着いた現在、明暗がさらに分かれ始めているようです」(株式会社ラフテルズ 取締役 道下隆氏、以下同)

全国的に期待どおりの採用活動ができている企業とそうでない企業の違いは、エリアと労働環境のふたつがあるという。

「東京では、2021年9月に緊急事態宣言が明ける以前から比較的早い段階で日常に戻りつつありました。しかし、地方ではまだ日常には戻りきれていない面があるように感じています。コロナ禍に対する警戒感が都市部と地方によって違い、採用が連動しているのではないかと思います。次の要因が、労働環境の整備をしているかどうかです」

採用できている企業の人事・採用戦略

外食企業が応募者に対して、明確なキャリアアップや労働環境を提示できるかどうかも採用に影響するようだ。社会的に働き方改革への注目が高まり、労働環境を重視する求職者が増えていることへの現れなのではないかと道下氏は語る。

「採用活動を成功させる要因はひとつではありませんが、飲食業界で働こうとする求職者が減っている中で、キャリアアップや労働環境をしっかりと打ち出せている企業は成功していると感じています。社会的に働き方改革への注目が高まり、労働環境を重視する求職者が増えていることの現れなのではと考えられます」

飲食業界において持つべき感覚は、企業としての意識

これからさらに多くの店舗展開を経て企業を成長させていきたいと考えている経営者においては、「企業としての形」を意識した制度づくりが求められるようになっているという。

「飲食店の経営者においては『飲食店に就職させる』というよりも『飲食企業に就職させる』という感覚になってもらうことが大切です。例えば5店舗前後を展開している飲食企業では、きちんとしたホームページがある会社の方が有利です。求人サイトで気になる企業があっても、ホームページがないと、それだけで求職者にとって離脱要因になりやすいためです。ほかにも、エリア毎に相場を見て給与をいくらくらい出すのか、休日が年に何日あるかを考える必要があります」

求職者が企業に求める要件

(1) 給与(エリアでの給与相場と比較)
(2) 月8日休み(年間休日110~120日)
(3) 残業時間の削減
(4) 福利厚生の充実
(5) 昇給・賞与(年2回以上/支給月も明記)

「“会社の拡大”=“社員のメリット”を明確に説明することがポイントです。従来は『頑張ったら給料は上がるよ』と言いながら、具体的にどのように頑張れば給料が上がるのか示していない外食企業が多くありました。従業員は、自分の将来が分からないままだと不安を抱き、離職の原因になります。求職者もどうすれば昇給・昇格できるかが不明確だと入社をためらいます。

企業は具体的に何をどれほど頑張ったら給料が上がるのか、店長になれるのかを示す評価制度を提示する必要があります。従業員が将来的なキャリア形成を理解し、昇給・昇格昇進・昇給するメリットを把握しながら日々の業務に取り組める環境を示せている企業は、順調に成長しています」

順調に成長していくには、ナンバー2の存在が必要

少数店舗を運営する企業では、経営者が店舗からなかなか離れられないケースも多い。このような企業では早急にナンバー2を作ることが大切だ。

「業界問わず、ナンバー2がしっかりしている会社は成長していく傾向にあります。最初の3~5店舗までは社長のマンパワーだけで通用することが多いですが、社長ひとりが管理できる範囲には限界があるので5店舗以上となると難しいケースが見られます。店舗数が増えるにつれ経営者と従業員で意識の乖離があり、ここが噛み合わなくなって従業員が辞めてしまうことも起きます。そうすると出店が止まったり、出店と閉店を繰り返したりしがちです。ナンバー2が経営者の考えを落とし込む必要があるのです」

また、ナンバー2のほかにも出店が10店舗以上になるとエリアマネージャーも必要になる。

「優秀なナンバー2がいると10店舗程度までは展開しやすくなります。しかし、それ以上の展開をしようとする段階では、エリアマネージャーが育っていないと店長不在店が生まれるなどして、展開が難しくなります。そこで3ヵ年の事業計画を立て、『10店舗展開できたときに、店長を生み出すためには従業員が何人必要なのか』『どのように評価するのか』を議論し、前に進んでいくことが重要です」

福利厚生の条件は3ヵ年計画を基準に決めていく

求職者は、就職の際にはホームページで給与や福利厚生、働きやすさなどを情報収集している。従業員の満足度を向上させるためには、会社のビジョンを人事制度の項目として落とし込むことが重要だ。

「当社の人事コンサルティングでは、福利厚生を30個作ることを提案しています。分類は『手当・休日・イベント・その他』の4つです。

福利厚生の項目内容
手当家族手当や住宅手当など
休日年間110日で、有給奨励をいつするのかなど
イベントフォーラムや社員旅行など
その他健康診断など

 

近年、飲食企業は連休を取れるかどうかが採用に影響し、例えば夏季や冬季、GWに3日ずつ連休が取れることはアピールポイントになるという。また、給与の条件面の設定も重要だ。

「まずは自社が定めている役職の階層を認識してもらうことが大切です。階層構造をはっきりさせることで、自分がどこまで上がれるのかが分かります。飲食企業の従業員の多くが「自分の将来は店長か独立しかなく、その上はない」と考えているため、出店に合わせてエリアマネージャーというポストが生まれることを指し示すことが大切です」

条件がない求人票は検索から除外される

近年では、求職者の求める条件に合わせて求人情報サイトの検索条件も多様化しており、良い条件を用意しなければ求人原稿を読んでもらえるチャンスが格段に減少する。そのため、適切な条件を整えてから求人情報サイトに掲載することも重要だ。

飲食店求人サイトにある検索項目の例

給与□ボーナス・賞与あり
□昇給あり
□寮・住宅手当あり
□交通費全額支給
□家族手当
□資格手当・スキル手当
□インセンティブ制度
□退職金
□日払いOK
□扶養内OK
休日・勤務時間□日曜定休
□月8日以上休み
□ランチのお仕事
□産休・育休
□夏季休暇
□年末年始休暇
□GW休暇
□特別休暇
□終電考慮
□ダブルワークOK
□フルタイム歓迎
待遇・メリット□まかない・食事補助あり
□社会保険完備
□制服貸与
□海外研修
□生産者訪問
□資格取得支援
□バイク・車通勤OK
□社員登用制度
□履歴書不要
□髪型自由
特徴□未経験者歓迎
□独立希望者歓迎
□オープニング
□個人経営
□小さなお店(20席未満)
□新卒歓迎
□シニア・ミドル活躍
□駅チカ(徒歩5分以内)
□ミシュラン・ビブグルマン掲載店
□急募
□注目求人

 

「ある求人媒体では、2~3年前は選択条件が10個くらいのチェックボックスしかありませんでした。ところが今では選択肢の数が格段に増えています。例えば『月8日の休み』『家族手当』『住宅手当』のチェックを付けると、東京都で掲載されている求人2,221件のうち175件に絞られます。つまり、約2,000件がそもそも求人票すら見られないことになるのです。まずは条件を改めてから掲載するほうが望ましいといえるでしょう」

労働時間削減やシステム整備も重要

労働条件を整備するには、そのための店舗運営が重要だ。道下氏によれば、ラストオーダーを早めたり、ITツールを導入したりする施策も有効だという。

「数年前までのように根性論で業務を進めていくやり方では、採用活動は成功しにくくなってきています。労働時間削減では、終電までには従業員を帰すなどの施策も大切です。例えば23時半に設定していたラストオーダーを23時にするなどして、なるべく早く帰れるようにするといった試みです。

また、閉店後の発注作業にかける時間を減らすために受発注システムを導入するなども有効でしょう。当社が人事面でコンサルティングした企業の中には、これまで挙げた組織改革をしたことで、マネージャークラスになりたいという社員が増え、10店舗から100店舗以上を抱えるまでに成長した企業があります」

飲食業界の人材戦略は、経営者の意識改革が不可欠

コロナ禍で以前の外食市場規模には戻らないという見方が残る飲食業界。人材戦略においては、経営者が時代に合わせた意識を持つことが重要のようだ。

「働き方改革でいうと、最低賃金も毎年上がっていくと考えられます。同時に、給与の相場も上がっていくでしょう。これまで店長で月給30万出せば人材が集まっていたのが、近年では30万円だと来るか分からない印象になってきています。給与テーブルとしては、33~36万円程度で応募が増えているのが現状です。また、大手の外食企業では年間120日の休日を提示する例が出始めています。昔は飲食で月8日休みというと1%ほどしか該当しませんでしたが、現在では休日を増やすのがスタンダードになりつつあります。

かつては飲食が好きな人が集中的に求人に応募していましたが、今の時代、『飲食業界で働きたい人が勝手に集まってくるだろう』という意識で採用活動を行っていては、理想の人材を採用することはできません。

人材を確保できなければどんなに良い業界やビジネスモデルであっても成功することは難しいため、経営者はビジョンのほかに給与や福利厚生、条件面を通して『企業としての想いを言語化できているか』を意識することが重要なのです」


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株式会社ラフテルズ

本社所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷 1-22-6 松山ビル3F
事業内容:飲食特化型 組織・人事構築(顧問サービス)
代表者:代表取締役 井上 高司
公式ホームページ:https://laftels.com/

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