「これまでの豆腐は、四角くて水の入ったパックに入っていて、水を捨てて、お醤油をかけてお箸で食べていました。おしゃれな要素がまるでない。そこで、カップの豆腐ができないかと『プレミアム』を作ったわけです。実はこれ、技術的にはものすごく難しい。豆腐の製造の常識を全部覆すようなものでした」
製造についての一例を挙げると、通常の豆腐はパック内に水を満たす満量充填が基本だが、2015年に発売したカップ入りの「マスカルポーネのようなナチュラルとうふプレミアム~ハチミツ×プレーン~」では、フタを開けるとカップ上部にヘッドスペースというソースを入れられる空間がある。水を切ったり皿に移したりすることなく、外出先でも手軽に食べられるようにしたのだ。
さらに、添付したハチミツをかけて食べるスタイルで、スイーツ感覚を訴求した。豆腐が、外でも手軽に美味しく食べられて、しかもおしゃれなアイテムへと生まれ変わったのである。
実際に、その後開催されたファッションショーでは、モデルが「プレミアム~ハチミツ×プレーン~」を持ってランウェイを歩き、鳥越社長の念願は叶うことになる。大型ファッションショーで恒例となった相模屋の出展は、来場者の女性たちから「次は何が出てくるんだろう?」という期待を持たれるほどになっている。
「豆腐売り場を活性化させたい」という思い
「ナチュラルとうふ」のヒットは、実は「木綿」や「絹」といった従来品の売り上げも後押ししているという。
「スーパーさんにとっては豆腐、牛乳、パンといえば“白物3品”と呼ばれる売り上げを稼ぐ重要な商品です。でも、豆腐売り場でお客様は、ほぼ選ばずにいつも買う豆腐をサッと取って立ち去るだけでした。それが、『ナチュラルとうふ』が出て以降、スーパーさんには『豆腐売り場に立ち寄る人が増えた。しかも選んで買ってくれている』と言われました。これまで豆腐を買われなかった方が、『ナチュラルとうふ』を見つけて、ついでに『木綿も買っていこうか』という感じで買われていくんですね。私どもはお豆腐業界のリーディングカンパニーとして、豆腐売り場を変えていきたい、もっと豆腐を面白くしたいという目的がありましたから、とても嬉しいことでした」
“被害者意識”を捨てることでヒットを生む
ここで、改めて鳥越氏にヒット商品を生み出すために必要なこと、特に伝統的ですでに完成された商品で、ヒットを生むことについて聞いた。
「視点を変えるということでしょうか。さらに厳しい言い方をすれば、“被害者意識”をやめるということ。例えば、豆腐は伝統食品ですから、もうこれ以上はどうしようもない、ずっとやってきたんだから変わりようがないという視点では何も始まりません。せいぜい価格を下げることぐらいしかできない。でも、逆に豆腐は誰もが知っているんだから、こんなチャンスはないという、伝統食品であることのビハインドを取ることで、まったく新しい視点が生まれてくるんだと思います」
「視点を変える」とは多くの人が口にすることだが、凝り固まった頭では実際に取り組むのは難しいことでもある。豆腐に「木綿」と「絹」に加えて、「ナチュラルとうふ」という新たなジャンルを作ることに成功した相模屋食料。この先も、固定概念を覆す商品を提供してくれることに期待をせずにはいられない。
相模屋食料株式会社
住所:〒371-0131 群馬県前橋市鳥取町123
電話:027-269-2345(代表)
事業内容:大豆加工食品(豆腐・油あげ・厚揚げ等)製造および販売
公式HP:http://sagamiya-kk.co.jp/
お話:代表取締役社長 鳥越淳司さん