「ターゲットを絞ると売れない」と言われ続けてきた豆腐
「他のあらゆる業界では、ターゲットを絞るのは当たり前のことですが、豆腐はむしろターゲットを絞ったものは売れないと言われ続けてきました」
そう話すのは、相模屋食料株式会社・代表取締役社長の鳥越淳司氏。しかし、2012年に発売したある商品が、豆腐業界で古くから言われていたこの“常識”を覆すことになる。
それが、アニメ「機動戦士ガンダム」に登場する人型兵器「ザク」を模した、枝豆風味の「ザクとうふ」だ。
「私はガンダムが好きで自分のご褒美のために作ったので、正直、売れるか売れないかは重要ではありませんでした」
ところが、「ザクとうふ」は30代、40代のガンダムファンというニッチな層に刺さり、豆腐における空前のヒットとなる。鳥越氏はこのヒットをまぐれ当たりにはしなかった。
「『ザクとうふ』が売れたことで、改めて気づかされることがいくつもありました。まず、豆腐はものすごく裾野が広く、商品の認知度が高いということ。日本人なら誰もが食べたことがあり、しかも嫌いな人がほぼいないということを感じました。実際に市場規模は6000億円と言われ、とても大きい。けれど、あまり注目されてきませんでした」
もうひとつの大きな発見は、ターゲットを絞っても売れるということだ。
「オールマイティーで、全方位オールレンジでなければならなかったお豆腐が、ニッチなところでヒットするんだ、セグメンテーションしていいんだ、と」
そこで考えたのがF1層をターゲットにした商品だった。
豆腐のイメージをおしゃれに覆す
鳥越氏は当初、F1層はあまり豆腐を食べないものと思っていたそうだが、実は彼女たちはダイエットや体型維持のために豆腐を食べていたのだ。
「大豆たんぱくが豊富でプロテインも豊富、でも糖質が低いという、豆腐の機能面だけがF1層には求められていました。それこそ、“我慢して食べるもの”という位置付けでした。そこで、それが突然すごくおいしくなったらどうか、と考えました」