幾度となくリニューアルを繰り返し、市場に適合
先の吉澤氏の話にもあるように、1960年代は高度経済成長期まっ只中で大量生産・大量消費の黎明期。キューちゃんは、そんな時代を象徴する漬物として瞬く間に全国の消費者へと広まっていった。
しかし、そのあとの半世紀の道のりは決して平坦ではなかった。
「華々しくデビューを飾ったキューちゃんですが、売上は下降したり回復したりの繰り返しで、決して順風満帆にきたわけではありません」
そう坂本さんが言うように、浮き沈みを繰り返しながら息の長い商品として勝ち残ってきたのだ。それを支えたのが、商品のリニューアル、つまり改良である。
「白いご飯をおいしくする」にこだわったキューちゃんの真骨頂は、他にはないパリポリ食感と本醸造醤油の豊かな風味。それを頑なに守り受け継ぎながらも、実は幾度となくリニューアルが繰り返されている。
その中で、最も大きく変わったのは塩分濃度だ。時代の流れとともに食生活の変化や健康志向の高まりなどが進む中、同社では塩分が生命線となる漬物で、徹底的な低塩化に取り組んだ。
「発売当初は10%だった塩分は、少しずつレシピ改良を重ねることによって、現在は4%程度となっています。キューちゃんならではの醤油のおいしさを決して変えることなく、少しずつ時間をかけて塩分を落としてきました。実は、現在のキューちゃんは製造工程で食塩を加えていません。塩分はほとんど醤油由来です」(長野さん)
1998年には、合成着色料や保存料の完全不使用化も実現。時代の流れと消費者のニーズに細かく対応して変えるべき部分は変えながら、キューちゃんという商品の本質は頑なに守りぬく。商品の改良はロングセラーには常に付きまとう宿命のようなものでもあるが、キューちゃんは見事にそれを全うしているといえるだろう。
この春は消費者の声をカタチにした新商品を発売
「ただ、うまくいかなかったこともあります…」と、坂本さんが苦い思い出を話してくれた。
「家庭では醤油の使用量が減っていてその代わりにダシが増えているというトレンドを捉え、2012年にかつおだし風味という新しいバリエーションを発売しました。しかし、定着はしなかった…。私たちにとってはこれまでにない新しい試みだったのですが、お客様にとっては似たようなキューちゃんがもう一つあることに価値はなかったんですね」
そんな中、今春はファンからの声をカタチにした新商品がお目見えするという。
「今回投入した『こつぶキューちゃん』は、おにぎりなどのメニューにキューちゃんを使いたいというお客様の声をもとに開発した刻みタイプです。さまざまな食べ方提案をすることで、キューちゃんの食シーンをもっと広げることができるのではと考えました」(坂本さん)
「ただ、刻んでもキューちゃんらしい食感とおいしさを実現するのには随分苦労しました」(長野さん)
長野さんによると、単に刻めばよいというわけではなかったようだ。