1冊の本との出会いが「缶つま」を生み出した
「もともと缶詰の市場は縮小しており、商品ラインナップも果物や水煮など定番のモノしかありませんでした」国分の「缶つま」が生まれる以前の缶詰マーケットについて聞くと、森さんはこう切り出した。
「価格競争も非常に厳しく、取引先との商談でも中身よりも『価格を安くしてくれ』という要望ばかりでした。今、生鮮品は流通インフラが整備され、冷凍食品やレトルトなど様々な形態の保存食品もあります。さらにコンビニや宅配サービスなどでいつでもどこでも食品が手に入る時代ですから、長期貯蔵する商品への需要もそこまで高くありません」
常に厳しい価格競争にさらされ、成熟しきった缶詰マーケット。だからこそ「安いモノばかり売っていていいのか、缶詰そのものに何か付加価値を持たせられないか」と考えていたという。そんななか出会ったある本が、新たな缶詰文化を生むきっかけとなる。
「2009年に世界文化社 から発売された『うまカンタン! 缶詰で作る酒のおつまみ 缶つま』という本の中で、当社の缶詰商品が使われることになり、商品サンプルを提供していました。その本ができあがって実際に手にしたときに、一瞬にして 『これだ!』と思ったんです。“缶詰を使って、酒のつまみを作る”という提案をうちの缶詰の販促にそのまま使えないかと」
森さんは、その日のうちに世界文化社に連絡を入れ、編集長に「国分の缶詰を使った缶つま本を作って欲しい」と直談判をしに行った。そうして2010年に販促用の本ができあがるのだが、このとき森さんの部下が漏らしたひと言によって、話は販促本にとどまらず、さらに大きく別の方向へと舵を切ることになる。
「せっかく本を作るのなら、うちでも『缶つま』というブランドのオリジナル商品を作りましょうよ」
このアイデアを聞いた森さんは、すぐに動き始めた。こうして、いまやシリーズで全70種類(秋発売の新商品を含む)を数える大ヒット商品「缶つま」が誕生するのである。
缶詰売り場依存からの脱却と、新たな売り場開拓
「缶つま」の商品例を挙げると、「広島県産 かき燻製油漬け」「厚切りベーコンのハニーマスタード味」「鹿児島県産 赤鶏さつま炭火焼」など、これまでの缶詰では見かけなかった新しい食材や国産のこだわりの食材を使っていることがわかる。そして、スタート時からブレていない最大の特徴が、“酒のつまみ”になることに徹底している点だ。
「とにかく、男性でも女性でもお酒を飲む人に特化して、お酒を美味しく飲みたいというお客さん向けに商品を作ろうと。ご飯のおかずになる缶詰は絶対に作らないと決めていました。今でも商品決定の判断基準として、「ごはんに合う」ではなく「酒のつまみになる」を キーワードにしています」
ターゲットを“お酒を楽しむ人”に搾った商品コンセプトは、同時にこれまでの缶詰とは違う売り方や販売チャネルをも作り出すことになる。