卸・メーカー2014.07.04

生産が追いつかない・・・!静岡の飲料メーカーが生みだす大ヒットドリンク~ダルマサイダー(木村飲料)

2014.07.04

一見のお客様こそが、うちのお客様

“神社でお祓いをしてもらったサイダー”という突拍子もないアイデアは、同社が飲料事業の他に学習塾の経営も行っていたことも関係している。この提案を受けた木村社長は、「面白い!」と即決で採用した。

「ただ、お祓いをしてくれる神社がなかなか無くて…。36ヵ所に断られ続けながら、ようやくある神社が引き受けて下さって実現したんです。それで、『ダルマサイダー』が地元の新聞に取り上げられたことから火がついて、全国から注文が殺到しました。1月から2月上旬の受験シーズン約1ヵ月だけで50万本が売れました。たった1ヵ月で会社全体の5%を売上げたことになります」

その後、受験の必勝を祈願した菓子なども大手メーカーから多数発売されるのを見て、「中小メーカーのアイデアを大手メーカーが真似することもある」と木村社長は感じたそうだ。

「次に出したのが『わさびラムネ』です。元々、地元産の素材でラムネを作りたいという思いはありました。伊豆半島の名産であるわさびを使ってラムネを作ったんですが、これが実にマズかった…。当社の営業マンからは、『こんなもの売れるか!』と大反対されました。ところが、10軒に1軒ぐらいが面白がって店に置いてくれたんです」

ここで「わさびラムネ」が思いもかけない売れ行きを示す。
「通常、ラムネは夏が終わると売れなくなって冬眠する商品なんですが、『わさびラムネ』は冬でもコンスタントに売れ続けました。売れている店舗を分析してみると、観光客が立ち寄るサービスエリアなどで伸びている。そこで気づいたんです。“一見のお客さんこそ本当のお客さんではないのか”と」

さらに翌年、インパクト絶大な同社商品の真骨頂ともいえる「カレーラムネ」が世に出る。
「この商品は、60年代半ばの私の小学生時代に食べた給食のカレースープが忘れられなくて、どうしても再現したくて作ったものです。私と同年代の方に懐かしんでもらおうと思っていたのですが、その世代はそもそも炭酸飲料を飲まない。でも、10代、20代、30代といった若い世代の方が『こんなマズいラムネ飲んだ!』と面白がってくれたんです。なんというか、“意外性の真実”というのか思わぬところで当たり、ネットやブログを通じて一気に広がりました」

全国から注文が殺到して工場の生産ラインが追いつかず、最終的には容器業者の製造が間に合わないというほどの売れ行きだったが、それでも県内の注文だけはなんとかこなした。そこには、地域性を大事にしたいという木村社長の思いがあった。

ヒット商品は、自分の体験や昔の思い出が生む

実は「カレーラムネ」を発売する際にも、社員から「わさびラムネ」以上の反対の声が上がったという。
「『2年も続けてマズい商品を出したら、今度こそうちは潰れてしまう!』と、60人いた社員の全員から大反対されました。それでも、私の中にはある確信めいたことがあったんです。それは、『中小メーカーが生き残るには、100人のうち2人が飲みたいと思う商品を作る』ということです。多くの人に受け入れられる商品は大手さんが作ればいい。うちは2%のお客さん向けに作るんだと」

猛反対のなか発売された「カレーラムネ」だったが、前年に「わさびラムネ」を置いてくれたお店ではすんなりと販売が決まり、両商品を並べて陳列してくれた。このことも話題性を生むきっかけとなっていった。その後、ユニークな商品作りで認知度が高まったことで、様々なコラボレーションの機会も生まれた。

木村飲料株式会社、木村英文社長

「静岡県のお土産としての位置づけも見えて来ていましたし、実際よく売れるのはサービスエリアやお土産屋さんでした。そこで、以前からやりたかった地元産の素材を使ったラムネ作りを本格的に始めました。わさびの老舗・田丸屋本店さんとコラボした『WASABIジンジャエール』や、静岡の温室組合が認定したマスクメロンを贅沢に使った『静岡マスクメロンサイダー』などです。今後も地元の飲料会社として、特産物のオリジナルジュースでブランド化のお手伝いをしたり、生産者の方々が受け継いでいる先祖代々の物語を商品に盛り込んだり、伝統や文化も発信していきたいですね。やれることはまだまだありますよ」

最後に、木村社長がどのようにユニークな商品を生み出しているのかについて聞いてみた。
「以前は、ヒット商品というのは大手メーカーにいるとても頭のいい人が作っているんだろうと思っていました。しかし、本当に売れるものは自分の足元にあるのではないかと思います。これまで体験したことを思い出し、それをブラッシュアップすることで未来のヒットが生まれてくる。そして、広くたくさん売れることだけが成功というわけではなく、少量でもいいからわざわざ買いに来てくれるお客さんがいるということが、とても大切なのではないかと思っています」

大手メーカーとの共存共栄も、この辺りに大きな鍵が隠されているように感じる。生き生きとした語り口で、楽しそうに商品開発のことを話す木村社長が次にどんなヒットを飛ばしてくれるのか。“地場の力”が楽しみだ。

木村飲料株式会社

住所:〒427-0044 静岡県島田市宮川町2429
電話:0547-35-1505
事業内容:炭酸飲料、果汁飲料、健康飲料の製造・販売。ベンダー用缶飲料の販売。酒類の製造販売と酒類小売。茶道具の販売
公式HP:http://www.kimura-drink.net/
お話:代表取締役社長 木村英文様

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