-●おいしい魚を見分けるには、熟練の目利きが必要ですよね?
もちろんです。一般的に鮮度を見分けるというと、目が澄んでいるとか、ぬめりが少ないとか、いくつかあります。脂ののった魚は、腹がたっぷり肥えていると言われているのもそうです。そこまでは、ある程度慣れている人間であれば、簡単に判別できるんです。
し かし、実際に干物にするとなると、その目利きだけでは通用しません。鮮度はいいけれど脂が足りないんじゃないか、脂が強すぎて塩が負けてしまうのではない かなど、適した魚の良し悪しを、過去の経験と先代からの教えを元に選別しています。私の魚の目利きは、先代の社長からたたきこまれました。元々、干物屋を 始める前は、弊社は魚の仲買人だったこともあり、強い自信がありました。毎日市場に通い、魚を見て触って、仕入れた魚で干物を作る。どういった魚がおいし い干物になるか一心不乱に研究し、取得しました。
-●製造時のこだわりをお教えください。
こ だわりは大きく二つあります。一つ目は、干物の味を左右する塩水の漬け込み。水道水ではなく弊社専用の井戸に沸く、天然水を使用していることです。二つ目 は、干物製造の要となる乾燥の工程で、私が必ず手で魚の乾き状況をチェックすることです。長年の勘から、魚種や季節により乾燥する時間を変えていますが、 一番重要なのは乾燥後に一つ一つ触って確認すること。言葉では上手く言い表せませんが、触っただけでわかる程、ベストな状態を手が覚えています。
-●御社の歴史をお教えください。
明治43年に初代が天秤棒を担いで魚の行商を開始したのが、商売の第一スタートです。その社長の下で働いていた私の父は、魚の目利きを継承し、仲買人となりました。その後、小田原で水揚げされた鮮度の良い魚で特産品の干物を作りたいと、1971年に干物屋を開業し、私で三代目となります。
-●先代から変わらぬ味があればお教えください。
昔と今の干物では、作り方も味も大きく違うため、完全に変えていないという商品は正直ありません。
しかし、「丸干し」は昔ながらの製法の干物です。「丸干し」とは、濃い塩水にたっぷり漬け込み、魚本来の風味を損なわず、丁寧にじっくり乾燥させる。かなりしっかりした歯ごたえと、独特の塩辛さがあり、作っている私自身が大好きな商品です。
現在は、ヒイラギ、マアジやイワシで製造しています。継続して購入してくださるお客様も多数いらっしゃいますし、最近では居酒屋などの飲食店からもひきあいがあり、懐かしい味に昔も今も根強いファンがいることを実感し、嬉しく思っています。
-●今後の展望をお聞かせください。
「干物=焼く」という観念を覆すような、幅広いジャンルの料理に活用してもらえる干物を作りたいです。最近では、サバの干物を食べやすい一口サイズにカットした「サバ干物チップス」を考案しました。フライや、サラダにマリネ、さらにパスタやチャーハンの具材など、多様な料理に使用していただける自信作です。
また、自分の子供たちに「父ちゃんの作る干物が一番おいしい」と言ってもらうことも、大きな目標です。もちろん、自分の子供だけでなく世の中の子供たちにも、子供のうちからお腹いっぱいおいしい干物を食べてもらい、干物を通してもっと魚を好きになってもらいたいと思っています。そのために、どんどん新しい干物作りに挑戦していきたいですね。
有限会社山市湯川商店
お話:代表取締役社長・湯川仁様