「表現の場」を求めて。1年に1店舗のペースで新規出店を続ける原動力とは?~株式会社等白

飲食・宿泊2023.12.28

「表現の場」を求めて。1年に1店舗のペースで新規出店を続ける原動力とは?~株式会社等白

2023.12.28

「表現の場」を求めて。1年に1店舗のペースで新規出店を続ける原動力とは?~株式会社等白

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飲食店の直営やプロデュース、物販を手がける株式会社等白。『二甲料理店』は、その出店第1号として2020年4月に大阪市の区新町にオープンした。洗練された空間と、ユニークなドリンクメニュー、それでいて本格料理を提供する店として、食通や高感度な人々から注目を集める店として開店当時から話題となっていた。

以降、2021年には1号店の近くの路地裏に立ち飲みの『お料理 横目』をオープン。2023年には二甲料理店を突如閉店し、直後の6月、跡地に既存のそば店を母体とする新たな酒場『喫酒オルタナ』をプロデュースした。さらに同年9月には、大阪阿波座に二甲料理店をよりカジュアルな立ち飲みスタイルに進化させた『二甲立食店』をオープン。2024年以降も、京都、名古屋、福岡への進出を見据えているという。

人気店を継続的に出店できる理由や、その工夫やこだわりポイントを同社代表取締役の前田貴紀氏に伺った。

目次

個人のポテンシャルで楽しい場所を創造する

株式会社等白 代表取締役・店舗プロデュース 前田 貴紀 氏
株式会社等白
代表取締役・店舗プロデュース
前田 貴紀 氏

株式会社等白 代表取締役 前田氏(以下同)「飲食業は、生産者からはじまり消費者まで、いわば川上から川下までもっとも分かりやすく体現しているし、目の前で完結している商売は他にないと思うんです」

前田氏に飲食業との関わりを聞くと、開口一番にそんな言葉が返ってきた。父母や祖父母が飲食に携わっていて、親戚もみな自営業という環境下に育ったこともあり、飲食業は親しみやすい職業だったという。

「それ以上に学歴も資格も関係ない。個人のキャラクターとそのポテンシャルだけで、楽しめる場所を作れるという点に魅力を感じ、飲食の世界でゼロから何かを作りたいと考えていました」

前田氏は京都の大学で経済学を学び、卒業後は京都の飲食店に就職。その後、大阪にある飲食店経営および外食産業関連のコンサル会社に再就職した。

「ここで5年間、じっくりと飲食店の勉強をさせてもらいました。思いもかけずに裁量権を与えていただき、キャラクターを活かした店舗開発などにチャレンジしていく過程で、様々な業態を学び、『ヒト、モノ、カネ』のうち、ヒトの部分がもっとも大事だということも勉強しました」

この頃に、現在の相方であり、かつ料理を担当する東田氏と出会い意気投合したという。そして、30歳で前田氏は会社を辞め独立。その後、1年半ほど開店準備の期間を経て、第1号店のオープンへと至っている。

2店舗の連続出店が大阪・新町の人の流れを変える

二甲料理店
二甲料理店

住宅地にも近い新町エリアの路地裏にひっそりと佇む『二甲料理店』。隠れ家的な本格割烹の趣だが、店に行けばラグジュアリーな空間に、ヒップホップが流れ、長髪のオーナーが迎えてくれる。それでいて料理は洗練されている。見慣れない店名の由来についても聞いてみた。

「出店は相方である東田のメニュー発表の場という認識だったので、2人で始めたところから『二』の文字は必須でした。2文字目は縁起のいい文字を選びたくて、甲乙丙…の最初の文字でもあり、亀の甲羅の意味もある『甲』になりました」

めでたい船出としたかったが、出店と合わせてコロナ禍がやってきた。

「出店時は日本でも猛威をふるい始めた頃でした。不安に感じていたのは確かです。ただ、今となっては逆にチャンスだったとも思っています。実績もない2人が自粛のタイミングにオープンしたことで「なんやその店、興味あるけど行かれへんかな」という機運が高まったと思うんです。そのためか、再開時には予約が一気に入ってきて、捌ききれないほどでした」

成功後、すぐに次の出店準備に入ったという。1年半後には2店舗目のオープンを果たしている。この早い出店ペースについてはこう話す。

「緊急事態宣言明けに予約が入るようになり、徐々に認知されていく過程で、もう1店舗やってみようかという話になりました。というのも、『二甲料理店』は店名の通り食事がメインです。売上構成的にも料理7割、飲料3割という具合。そうなると今度は、逆の構成比で別の業態がやりたくなりました。そう思って街を見回すと、意外に立ち飲み屋が少ないことに気づき、勝算が見えたと感じました」

具体的にはどんなビジョンが見えたのだろうか。

「まずは新町というエリアでした。最初は飲み屋が多くなく、面白みのない街だと感じていました。ですが僕ら30代より上の世代の人たちが、老舗の飲食店を目当てにタクシーで来て、飲んだら次は新地にタクシーで繰り出していく。つまり回遊するお客様がいない町だったんです」

気軽に立ち寄れる店があれば、もうすこし回遊人口を増やせると前田氏は踏んだのだ。

「元々、上の世代の人たちが古くからある飲食店を目的として来る町ということで、客単価を上げても成り立つエリアではないかと考えました。そしてちょうど紹介していただいた物件が1階路面で30人くらい収容可能で、『二甲料理店』とは500メートルも離れていない。この2店舗のうちどちらか一方を拠点にして、歩いて町を回遊する動きが生まれるんじゃないかと思ったんです。そうなると、僕らもハッピーですし、周りのお店もハッピーじゃないですか」

こうして前田氏は2店舗目となる『お料理 横目』をオープンさせ、みごと新町エリアに新たな人の動線を作り出している。

出店は発表の場、次のチャレンジをしたい

お料理 横目
お料理 横目

2店舗目出店と同時期に、事業主体を法人化させた。すなわち『株式会社 等白』の誕生だ。

「会社組織にした方が、従業員を増やすための説得力になります。働く人を守ってあげられる体制を早く作りたくて。遅かれ早かれ法人化するつもりでした」

前田氏は、SNSで日々発信を続けているが、その文面にはかならず従業員募集の一文を添えている。

「そこで待遇や条件、福利厚生などを堂々と謳うことが可能になりました。法人化する以前より、その言葉に重みがあると思うし、その分の責任を負うことができているのが最大の効果じゃないでしょうか」

『喫酒オルタナ』出店の経緯にも、前田氏ならではのユニークな思想があったようだ。

「3店舗目は新規事業プロデュースですが、きっかけは『そばよし』代表の千春さんとの出会い。2店舗目の『お料理 横目』の時に出会いました。千春さんは新しいことにチャレンジしていく方で、新しいそば業態ができないかと模索されていたので、検討を始めました」

結果、人気店の『二甲料理店』を3年でクローズして、直後に『喫酒オルタナ』をオープンさせた。どんな狙いがあったのだろう。

「狙いというわけではなく、そもそも2人で二甲料理店を開業したときも『最初の数店舗は自分たちの発表会』という意識が濃厚でした。その発表会をいつまでも続けるつもりはなく、3年と当初から考えていました。それで人の輪も広がり、二甲料理店は役割を果たしたので、次のチャレンジがしたいと思っていたところでした」

そこで『そばよし』代表との出会いがあった。『そばよし』は古き良き物を大事にされており、さらに活気づけられる表現ができるのではないかと考えたという。

「そういうお店を自分たちのアイデアで再生させたかったんです。それがプロデュースという新事業に踏み出す第一歩でした。思い立ったらすぐ実行と、店舗を売却して、2年契約で業務を受託する形で人員を集め、運営にも携わることにしました。その2年間でなんとか結果を出すことが、当面の目標です」

現時点での手応えはどうなのだろうか。

「幸いにも『二甲料理店』がお客様に好評いただいていたこともあり、『二甲料理店』のお客様に『オルタナ』のことを好きになってもらう方法を必死に考えました。そこはいまも課題ですが、それでも『二甲料理店』のお客様に来ていただいています。そばを大胆にアレンジしたメニューと二甲料理店を踏襲した一品メニューや空間が光っているのだと思います」

売上目標についても伺った。

「営業時間も違うし、席数も異なりますが300~350万円の売上を目標としています。今後、伸ばすならランチのてこ入れだと思います。ランチがうまく回り始めたら、月500万円は見込めます」

人手不足は気にならない。能動的であれば誰でもウェルカム

喫酒 オルタナ
喫酒 オルタナ

飲食業界では、人手不足が盛んに叫ばれているがどう感じているのだろうか。

「最初の出店の時も、『オルタナ』出店時にも人手が集まるのかと心配する声は多かったのですが、僕は気にしていませんでした。飲食店は面白いもので、すごく裾野が広いと思います」

料理や接客を勉強したい人、いい服を着たい、音楽を極めたい…飲食だけでなく、それ以外にも好きなものや光るものを持っている人が働けるのが飲食店だと前田氏は考えているという。

「スタッフ同士のコミュニケーションや接客の中で生まれる会話などが、そうした欲求を満たしてくれるかも知れません。数ある飲食店から『等白』の店を選んで働いていただくには、何かひとつ誇れるものがあることが大切だと思うんです。『二甲』の場合は、本格的な料理や店のコンセプトが誇れるところだと考えています」

実際に、人材募集の際に応募は多いのだろうか。

「他と比較はできませんが、応募数に対する採用の人数は少ないかもしれません。能動的な人、つまり自分で考えてお客様のニーズを知り、前もって準備をする人は『等白』に合っていると感じることが多いです。お客様に言われてからでは、後手後手に回ってしまい、“やらされている感”が出てしまいがちです。人材教育については、マニュアルは一応ありますが、書いてあることが当たり前にできれば平均より力を持った組織になる、ということを中心に書いています。ですが、マニュアル通りにしかできないなら僕はその人でなくてもいいと思ってしまいます。僕はスタッフに『あなたじゃなきゃ駄目です』と言いたいし、スタッフも言われたいはずなんです」

だからこそ面談で、様々なことを話し合うようにしているという。

「漠然でもいいから、『等白』で何をしたいのか。何を勉強しに来たのかを明確に持っている人と一緒に働きたいですね。人生において大切な若い時のある期間を一緒に過ごすのだから、その期間をできるだけ濃いものにしてあげたい。だからこそ、スタッフにも貪欲な何かを持っていて欲しいと考えています」

熱い人材が、熱い場所に集まっていく。そんな姿が目に見えるようだ。

チャレンジの継続こそが業界の発展に繋がるのでは

左:前田氏、右:東田氏
左:前田氏、右:東田氏

今後の展望について尋ねてみた。

「1店舗ずつを見たとき、売上を上げていく具体的な目標はあるべきだと思うし、それなりのことを考えてもいます。ですが、そこはあんまり重視していません。それよりも周りに刺激を与えられるお店にしていきたいんです。何か面白いことを、他ではやらないことを追求していきたい。その延長線上で、会社がやっていきたいこととリンクしているのが最高の形です。『あの会社、何するかわからないけど楽しそう』、そういうミステリアスで、魅力的な会社でありたいなと思います」

前田氏の真骨頂ともいえる一言だが、具体的な展望もあるという。

「京都、名古屋、福岡への出店を決めています。既存店を含めてこの6店舗がうまく回り始めたら、直営店舗の新規開店をいったんはお休みして、プロデュース事業や食物販、FCを進めていきたいと思っています。また人のライフスタイルに何か刺激を与えられたり、衣食住を通して、複合的に事業展開できたりすることが目標です。」

最後に、前田氏がある思いについて話してくれた。

「1つはモノの値段、とくに大阪での飲食の値段が極端に安いと思っています。これだけ海外の人が来ていて原材料費が上がる中、たこ焼き300円を400円に上げるのに汲々としている。これっておかしいと思いませんか。大阪で普通に売られているたこ焼きやお好み焼きなら、1,000円の価値はあると思っています」

さらに熱い想いは続く。

「飲食店には、似たような店が多すぎると感じます。独立というのは、自分を表現する手段の1つだと僕は思うんです。他にもあるような店を無難に選択するなら独立する必要もありません。もっとチャレンジしていかないと、次に進むことなんかできません。僕はそのつもりで、飲食事業を発展させていくつもりです」

そして飲食業の次には、衣食住のうち『衣』や『住』にもフォーカスを当て、ライフスタイル全般にアプローチをかけていきたいと、前田氏のチャレンジへの想いは尽きない。今後の飛躍が楽しみだ。

株式会社等白

設立:2021年11月
事業内容:飲食店経営、飲食店プロデュース
公式ホームページ:https://www.touhakuinc.com/
公式SNS(Instagram)
お料理 横目:@oryori_yokome
喫酒オルタナ prod. :@kissa_alterna
二甲立食店:@nikoh_risshokuten

 

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