「居酒屋ではじまった2007年当時、お客様の平均年齢は30代でした。それから12年を経て、若手サラリーマンだったお客様も結婚して子供が生まれるライフステージへ進んでいます。
ですから他にも、お子様連れでも気兼ねなく過ごせるカフェ食堂や、40代以上の大人向けおでん屋といった業態を展開し、我々もお客様に合わせて成長しているんです」
高級食材も、ムダを省いてリーズナブルに提供
料理の質は大前提というだけに、 食材と調理へのこだわりも生半可ではない。美味しいものを美味しいうちに。という理念のもと、北海道・羅臼産の海産物や赤城牛など、希少な食材を数多く仕入れている。にもかかわらず、原価率は33%と平均的。その秘密は、徹底して食材の無駄を省く管理方法にある。
たとえば、赤城牛はもともと群馬県の契約農家から仕入れた塊肉を分配し、各店舗の職人が切り分けていた。すると、どうしても細かな誤差が生じ、ロスにつながってしまう。試行錯誤の末、塊肉にこだわらず100グラム単位の真空パックで仕入れることにした。そうすれば切り分ける際のロスがなくなり、貴重な赤城牛を余すところなく使い切ることができる。
「生産者がどれだけ苦労して作ったかを考えると、ひとつの食材もムダにはできません。そのため市場から一括で大量に仕入れた食材は、セントラルキッチンで保管しています。とにかくロスをなくす工夫を考えているんです」
もともと郊外にあったセントラルキッチンは、十分な調理スペースを確保できた2店舗目の物件に機能を移設。近場の大型冷蔵庫に保管することで輸送の手間を減らし、食材を分配する効率が大幅に上がった。
「各店舗の日替わりメニューはSNSツールを使って店舗間で共有しあい、買った分はすべて売り切るようにしています。ざっくり適当に仕入れるのではなく、発注数は厳しく管理していますよ」
毎月1回行う試食会では、食材の新しい提供方法を考える。日替わりメニューを充実させることで、大量に仕入れた食材も3日でおおかた消費するという。
「食材を『BtoBプラットフォーム受発注』を利用してデータ発注できるようになったのは大きいですね。9店舗がそれぞれ違う業態だと取引先も多いので、すべての発注がFAXではミスが生まれます。それに、少ない坪数の店舗はFAXを置くスペースすら惜しいんです。システムを使ったデータ発注で、さらにムダが減らすことができました」
セントラルキッチンを活用した一括仕入れと、SNSによるメニュー共有で、食材を使い切る工夫やITを活用したムダの排除。こうした流れができているからこそ、原価の高い海産物や肉も、リーズナブルに提供できる。美味しいものが安く食べられるとあっては、顧客の評判も上がるだろう。
「この街に、この店があってよかった」と思っていただける店づくり
今後の展開に、地域の期待も大きいに違いない。だが一歩一歩としては、サービスと味の維持も考え、無理に店舗を増やすことは考えていないという。
「個人的にも、飲食店の従業員としてというより、人として、地域のお客様とのつながりを大切にしていきたいですね。これからも、この街に、この店があってよかった。と思われるような店を目指して、地道にかつ確実に取り組んでいきます」
北千住の『美味しい』を牽引する、『かいだんのうえ』。そのサービスと食へのこだわりは今後も、地域の人々とともに成長し続けるだろう。
かいだんのうえ(株式会社一歩一歩)
住所:〒120-0034 東京都足立区千住3-35シルクビル201
お話:総料理長 萩野谷 瞬 氏
公式HP:https://www.ippoippo.co.jp/