新山社長にとって、提供する商品というのは、お客が再来店するときのひとつのきっかけに過ぎない。お店を繁盛させるためには、“人が作ったものを人が食べる”や“人が人に会いに来る”というのを意識すべきだ、と熱く語る。
「これは僕も他から学んだことなので受け売りですが、無関心な接客をされたお客様の二度と来店しない確率は86%だそうです。満足した場合であっても50%程度、半分は二度と来ないんですね。でも、感動した場合は97%が再来店してくれるそうです。感動といっても、飲食店ができるのは映画のように涙を流すようなものではなく、小さな気遣いのことなんです」
“小さな感動の提供”は、お客が店内に入る前から始まっている。麺屋はなびも人気の高まりとともに、食べる前には、まずは列に並ぶところから始めなければならない。ピーク時で30~40人。店の外には長蛇の列ができる。
一般的に忙しければ忙しいほどスタッフの気持ちは店の中だけに向いてしまうものだ。しかし「麺屋はなび」のスタッフは列で待つお客に対して、夏場は扇風機や冷水が飲めるサーバー、冬場はブランケットや熱いお茶を提供する。さらに雨天の時は傘、炎天下の時は日傘まで差し出している。
「接客が甘い飲食店は、店内にいるお客様だけにニコニコして、店外で並ぶお客様への接客を忘れてしまうんですよ。待っている時はストレスが溜まりやすく、緩和してもらうためにも、“忘れていませんよ”というアピールが必要なんです。スタッフには、列の一番後ろに並ぶお客様の所にまで行って接客をしてね、と僕は常に言っています」
順番が回って来て席に座ると、店内は清潔で居心地が良い。そして、自慢の『台湾まぜそば』を食べ終わって帰ろうした時、小さな感動をまた味わうことになる。
「お見送りのタイミングが、顧客満足度を上げる大きなチャンスだと思っています。スタッフは店内で頭を下げて終わりではなく、お客様と一緒に店を出て、お店を離れてふたりだけの空間になった時に“ありがとうございました。またお越しください”と感謝の気持ちを丁寧に伝えます。そこまでしなくて良いよ、とお客様は言いますが、やっぱり喜んでくれるんですよね」
これは単純な精神論の話ではない。お客は、店舗を出た時にお店の満足度を頭の中で評価する。そのタイミングで小さな感動があれば、評価は上がりやすい。お見送りのタイミングに好印象を与えることは、効率が良いのだ。