昔から近江商人の哲学に「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」というのがあるのですが、僕らが生産者から直接食材を買って消費者に提供する、そこに世間、つまり地域での店舗展開が入って、地元食材をしっかり使う店が増えれば地域も潤うし、win-win-winになれる。ですからいい店づくりは町づくりということを、とても意識しています。この思いは創業当初から今に至るまで一貫しています。
そういう思いもあって、東京のターブル・オー・トロワだけでなく、弊社が滋賀で展開している6店舗でも、しっかり地元の食材を使っています。ただ、地元の食材を地元の店で出すことには、ジレンマもあります。来てくださるお客様には地元愛がありますし、弊社もおいしい食材を選び、料理には喜んでいただけていますが、やはり食材面で「わあ、珍しい!」「見たことない!」という驚きにはつながりにくいのです。
地元食材は言ってみれば地元のスーパーでも当たり前に売られている食材です。それこそ、田舎にいけば自分のおじいちゃん、おばあちゃんが作っている野菜は顔の見える生産者ナンバーワン食材やないですか。そこには絶対に敵わないんですよね。
だから「地元の食材」というのはあくまで付加価値のひとつで、それよりもターブル・オー・トロワと同じように、料理と、接客と内装も含めた、トータルの雰囲気作りで「また来たい」と思っていただける店を作ること。さらにそれを地域にひとつずつ増やしていくことが、結果的にいい町づくりにつながるのかなと思っています。
【Q】居酒屋甲子園の理事長としては、2017年の居酒屋業界はいかがでしたか?
2017年、特に居酒屋業態というカテゴリを俯瞰的な視点で捉えた時に感じたのは、やはりこの業界の地位向上が必要だということでした。数年前から、ブラックな業界だとバッシングされ、居酒屋甲子園が報道番組にややネガティブに取上げられたこともあります。ネット上でも居酒屋は厳しい労働環境の下、従業員に「やりがい」だけを求めていると批判が集まりました。
しかし今となってはその報道があったからこそ、どの店も労働環境への問題意識が高まったと感じていますし、ここ数年で少しずつ改善もされてきたと思います。
また、国レベルでも「働き方改革」という言葉が生まれ、業界の意識全体も大きく変わってきたと実感しています。
ただ意識改革が進んだとはいえ、居酒屋のアルバイトの子が、どんなにいきいき働いてくれても、就職まではしてくれないというのが居酒屋の現状です。僕は理事長として全国の居酒屋をまわり、たくさんの店長や経営者の方と話しましたが、みんな言うことは同じで、「人が足りない」ということでした。
少子高齢化で学生の数自体も減っていますが、一方で居酒屋の求人には全然人が集まらないのに、カフェ・レストランなら応募が殺到するという話もあります。業界の意識が変わりつつあるとはいえ、やはり、これまでの低賃金で長時間労働などの悪いイメージはまだ変わらないのだな、と痛感した1年でした。