その時代、ある先輩経営者の方に相談に乗っていただき、「売りたいものを売る」のではなく「売れるものを売る」という言葉をいただいたのです。
受け売りではないですが、その言葉を大切にして、もう一度何の店をやるのか考え直して生まれたのが、釜焼鳥本舗おやひなやの「骨付鳥」でした。
あとは、その時の数字管理の甘さを反省して、経費の管理を徹底することを重視しています。経費節減という意味では、今でも本社機能を備えた事務所は構えていません。大体パソコンがあれば、仕事なんてどこでもできますし、会議も店舗でやればいいと考えています。
【Q】「釜焼鳥本舗おやひなや」は25店舗まで拡大し、骨付鳥というメニューを定着させました。成功の秘訣は何だったのでしょうか?
骨付鳥というのは、要するに『焼鳥』の一種ですから、もともと地域を限定せず、日常食として根強いニーズがあります。つまり仮に大ヒット業態に育てることはできなかったとしても、大きく外れることもない。そういう意味で「ちょっと変わった日常食」は定着させやすいんです。
仮にまったく新しい料理を考えだして、0から世の中に定着させるとしたら、簡単なことではありません。むしろそれは、自分の苦手分野だと自覚しているところでもありまして(苦笑)。ですから、私が飲食経営で「さぁ、何を売ろうか?」と一から考える時は、「日常食の中で、ちょっと変わったモノ」というところから出発します。
一品力を持つ「ちょっと変わった日常食」とは
【Q】話題のピンサというメニューは、どのように決められたのでしょうか?
これも骨付鳥と同じロジックですね。ピンサも日本ではまだ珍しいですが、ローマでは庶民が口にする国民食みたいなものです。
まぁ、見た目はピザみたいなものですが、ピザと違って生地に小麦粉のほか、脂質の低い大豆粉、米粉を使用しているので、低カロリーです。また、生地に含まれる水分量が多いため、外側はカリッと、中はもっちりした食感に焼き上がります。
たくさん食べてもお腹にもたれないし、何よりおいしい(笑)。初めてピンサを食べた時に、これなら日本人にも受け入れられると確信しました。
【Q】ピンサに絞った業態に、勝算を感じられたのはなぜでしょうか?
飲食店を手がける上で、私が意識しているのは「一品力」です。一度食べれば、それだけで再来店につながるような目玉料理。もっといえば「昨日何を食べたか」パッと思い出せるくらい印象に残る料理というのが大切でした。「ピンサ」にはそれに足る十分なインパクトを感じました。
また、一品で勝負するためには、見た目や味のインパクトだけでなく、その料理にストーリーがあるかどうかも重要です。