チェーン店でありながら接客マニュアルはつくらない
冒頭、江橋部長のこんなひと言から取材は始まった。
「うちの会社は普通っぽくないですし、お店もチェーンのレストランというよりむしろ食堂といった感じですが、それでもよろしいでしょうか?」
確かに、1都6県で175店舗を展開する一大チェーンの幹部から発せられる言葉としては“普通”ではないように思える。
「一般的な企業経営を考えた時、会社の規模がある程度大きくなればシステマティックに経営を進めるための仕組みを作っていくと思います。しかし、山田うどんの店舗にはこれといった接客マニュアルがありません。簡易的なものはありますが、『こういう時には、こうする』といった細かな部分は店員の臨機応変さに託しています。つまり、もともと持って生まれてきたその人の“味”で接客しているわけです」
チェーン店なのに接客マニュアルがなく、いわばスタッフの人間性に委ねているとは…。それこそかなり思い切った“仕組み”ではある。
ベテランスタッフは女性中心に構成されている
「そうした接客は個人の資質に頼る部分が大きく、教え込んで作れるものではないのが難しいところです(笑)。新しく入ったスタッフも先輩たちの接客を見よう見まねで取り入れていきますから、お店ごとに連綿と引き継いだ独自の接客サービスが出来上がります。そこには、マニュアルで画一化されたものとはひと味もふた味も違う魅力があります。ですから、スタッフのファンになって通って下さる顔なじみのお客様が多いですね」
最近は「女性の社会進出」ということもよく言われているが、山田うどんの女性の積極登用は30年も前から始まり、この接客術の成功に一役買っている。
「弊社では昭和59年(1984)12月から女性の管理職登用を積極的に取り入れました。それまでは男性の店長も多くいましたが、大きく方向転換したわけです。現在、店舗スタッフの約9割が女性で、中年以上の女性スタッフが山田うどんらしい接客を身につけて頑張ってくれています。おばちゃんらしいというか(笑)、若い世代よりもコミュニケーションに長けているからかもしれないですね」
メニューに追加するならさぬきうどんよりラーメンを
山田うどんの魅力を語るうえで、メニューの多さは欠かすことができない大切な要素だ。
「うどん屋の看板を掲げていますが、100種類以上あるメニューの中でうどんは17種類ほどです。その他はご飯ものやサイドメニューで、店によってはラーメンやパスタなどもあります。」
メニュー数が増えていった背景には、高度成長期の社会情勢も関係しているという。
「昭和50年代に入るまではうどんがメインで、他にはせいぜいライスがあるぐらいでした。その後、日本が高度成長期に突入すると、建設現場で働く人やトラックドライバーなど肉体労働に携わるお客様が増えていきました。その当時はファミリーレストランも急速に増え出した頃ですが、肉体労働の方は作業着ですからファミレスには入りづらかったんですね。そんなお客様から『ご飯ものも食べたい』という声が挙がり、それに応えるためにカレーライスやチャーハンを始めて、うどんとのセットメニューも導入しました。そこから少しずつメニューを増やしていった結果、現在のような数になりました」
客層の特徴とニーズを的確に捉え、その要望に最大限応えようとする柔軟な姿勢が見て取れる。しかし、メニューが増える一方でうどんだけはずっと変わらないという。その理由が端的に示されたのが、さぬきうどんブームへの対応だった。