崖っ淵から売上4倍増のV字回復
東京都千代田区のJR神田駅西口で30~40代のサラリーマンを中心に賑わいをみせる、鳥料理が自慢の居酒屋「有鳥天酒場」。連日引きも切らないお客の目当ては、100円で唐揚げ食べ放題というユニークなシステムだ。最初にドリンクと一品料理を注文すればプラス100円で唐揚げが食べ放題になり、お替わり一回ごとに2個ずつ揚げたての唐揚げが運ばれてくる。
今や押しも押されもせぬ繁盛店となっているが、2010年9月のオープン当初は鳴かず飛ばずの状態が続き、半年後には東日本大震災に見舞われる。経営が崖っ淵にまで追い込まれる中、「こんな時だからこそ飲食店として何か出来る事はないか?」という思いから、赤字覚悟で唐揚げ食べ放題を導入。1週間限定のサービスだったが、予想をはるかに上回る反響を呼び、現在まで継続されている。
赤字必至の突飛なサービスにも関わらず、店の売上は導入前に比べ4倍に。それを実現したのは、単品食べ放題にすることで食材の大量仕入れによって調達コストを抑えたことが大きい。さらに、2回お替わりしたお客には他の料理の注文を勧めるなど、食べ放題をひとり歩きさせないための地道な努力が伺える。また、食を通じて神田の町と日本を元気にしたいという店側の思いを、意気に感じて詰めかけたお客との信頼関係も大きな要因だといえるだろう。
食べ放題を高級イメージの銀座で
一方、高級食材の一品食べ放題をコンセプトに掲げているのが、銀座に店を構えるイタリアンバル「BAL PINOLO 銀座」だ。高級食材として名高いイタリア・パルマ産の12ヶ月熟成生ハムを、60分間1人500円で好きなだけ食べられる。皿が空くとストップをかけるまでお替わりが運ばれるスタイルが好評で、平日は近隣のオフィスワーカー、土日は買い物帰りのカップルなどを中心に人気を集めているという。
最近ではカジュアルなお店が増えたとはいえ、まだまだ高級なイメージが強い銀座。ワンコイン食べ放題というインパクトのあるサービスは、そんなロケーションを逆手に取った好例だといえるだろう。しかし、それは単に一個店としての話題作り戦略に留まるものではない。同店は、同系列の高級イタリアン店「IL PINOLO 銀座」の味を、バルスタイルでリーズナブルに提供するために展開された姉妹店だ。食べ放題のパルマ産高級生ハムや980円で飲み放題の樽ワインなど同店の看板となる素材調達にも、そんな既存店とのネットワークが活かされている。
生ハム以外の料理が出なくなるのではないかという当初の不安も、サラダやチーズ、タパスなど生ハムに合う料理を求めるお客のオーダーによって杞憂となっているようだ。
一過性のブームに留まることなく、リピーターを増やし続ける一品食べ放題。紹介した2店には、異なるスタイルの中にも共通点が見受けられる。それは、単なる「出血大サービス」で終わらせず、それをフックにして他料理へのオーダーへ繋げ採算を確保していること。また、食べ放題用に「質より量」の料理を用意するのではなく、店一番の自信作を対象メニューに据えている。
一品食べ放題のカギは、食べ放題を売りにしながらもそれに特化させないスタンスを貫く、絶妙なバランス感覚にあるのかもしれない。