「大衆」であることを基本に据える
『大衆ビストロ ジル』の代表である吉田裕司さんと店長の菅原さんは、ともにグローバルダイニング出身。料理長を勤める熊谷祐樹さんとは、ミュープランニング時代に同僚となった。この3人が独立を目指し、吉田さんを中心としてコンセプトの設計から単価の計算を作り込んでいったという。
「オープンにあたり都内の有名ビストロを何軒も回ったんですが、海外のビストロとは感覚が違って単価が高く、どちらかというとレストランに近かったんですね。それこそ、テーブルにはフォークとナイフが揃っていて、『ワインはどうなさいますか?』といった感じで。とてもじゃないけど『ハイボールください』とは言えない雰囲気でした(笑)」
客単価で見ると8000円から9000円の店が多くを占めるようで、そこに大衆感覚はない。
「僕らは、客単価3500円を越えない範囲で、月に1~2回、会社帰りにふらっと寄ってもらえるような日常使いの店を目指しました」
確かに、ビストロに行って3500円で楽しめるとあれば、気軽に立ち寄ることができる。ただ、リーズナブルな価格とビストロに期待される料理のクオリティとのバランスを保つのは、決して容易ではないだろう。
「料理は、グランドメニューに加え季節感のある旬のオススメを毎月決めていて、全部で40から50品を揃えています。なかには、『たまご焼き』『塩辛じゃが』『なめろう』といった居酒屋使いをする人には馴染み深いメニューもあり、価格も300円~と安めに設定しています。ただ、例えば『塩辛じゃが』なら、ジャガイモの代わりにニョッキを使い、その上に塩辛をクリームで回したソースをかけて洋風のエッセンスを盛り込むなど、どのメニューにもビストロっぽさを出すようにしているのです」
安くて馴染みのあるメニューでありながら、あくまで洋風であることを忘れさせない。同時にビストロとしての本領が問われる肉料理についても、最大限の努力と工夫が見られる。
「メインを張る肉料理ですが、A4クラス以上の高級肉を美味しく仕上げるのは、さほど難しくはないんです。僕らとしては高価な肉でなくても、調理技術やアイデア次第で美味しくなるんだということを味わってもらいたい。ですから、肉料理は2000円を越えない価格で提供しています。その甲斐あって、お客様から『来月の肉は何?』という形で次の予約をいただくことも多いんですよ」
「男気のある女性」を取り込みたい
大衆ビストロという新ジャンルを開拓した『ジル』が狙う客層について、「自分たちが誰をお客様として呼びたいのかを明確にしました」と話す菅原さん。
「男性のお客様には、2軒目3軒目として暖簾をくぐる居酒屋感覚で気軽に使ってもらえればいいなと。そのためのメニューも300円から用意しました。女性については、フォークとナイフがなくちゃイヤとかタバコ臭いのはダメという人はターゲットにしていません。我々の中では“男気のある女性”と定義していますが、引き連れて来た部下と一緒にワインをガブ飲みしながらワイワイ楽しむような女性がピッタリかと(笑)」
確かに、一般的なビストロのイメージよりも大衆感覚にあふれているし、見定めたターゲットを外してはいないようだ。女性は話題のお店が好きで移り気だと言われるなかで、オープン以来女性客の割合は45%をキープしているという。