改正旅館業法、12月施行。泥酔・不当な要求などのカスハラ客を宿泊拒否に

法令対策2023.12.06

改正旅館業法、12月施行。泥酔・不当な要求などのカスハラ客を宿泊拒否に

2023.12.06

改正旅館業法、12月施行。泥酔・不当な要求などのカスハラ客を宿泊拒否に

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旅館業法では、特定の理由なしに宿泊したい者を拒否してはならないと定められていた。しかし、コロナ禍において感染症対策を求めても協力しない客が出たことや、不当な割引や契約にない送迎など過剰なサービスの要求、従わない場合の脅迫、謝罪などで土下座を強いるといった迷惑客が注目されたことから、旅館業法が改正されることになった。2023年12月13日から施行される。

事業者はどのような場合に宿泊拒否できることになったのか、詳しく見ていこう。

目次

検討会を重ね、改正旅館業法が2023年12月に施行へ

旅館業法における宿泊拒否の規定

旅館業法は、宿泊事業者の健全な発達を図るとともに、施設の公衆衛生を保ち宿泊客の需要に合わせたサービス提供を促すことで国民生活の向上を図ることを目的として、昭和23年に施行された。

宿泊拒否については旅館業法第五条に規定されている。改正前の旧旅館業法では、事業者側に宿泊拒否できる権利はあったものの、迷惑行為を行う宿泊客に関しての明確な規定がなく宿泊拒否することはむずかしかった。これが12月13日施行の改正により以下のように規定される。

改正前改正後
(2023年12月13日~)
第五条 営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
第五条 営業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。
二 宿泊しようとする者が賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき。
三 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求とし厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。
四 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
2 (略)

[引用]e-GOV法令検索「旅館業法(施行日:令和五年七月十三日)」
[引用]e-GOV法令検索「旅館業法(施行日:令和五年十二月十三日)」
[参照]厚生労働省「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会とりまとめ(令和5年10 月10日)

旅館業法が改正された背景

旅館業法が改正に至った背景について、旅館やホテルに対して行われた調査結果と具体的なカスハラ(カスタマーハラスメント)の例を解説する。

旅館やホテルに対して行われた調査結果

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会が行った令和4年8月の調査結果では、新型コロナ感染拡大防止の観点で宿泊客の対応に苦慮したと答えた旅館やホテルは23.4%であった。また、カスタマーハラスメントに関しては、旅館やホテルの半数近い46.4%が苦慮していたことがわかった。

[出典]厚生労働省「旅館業関係の現状

他の宿泊者はもちろん従業員の安全確保も含めて適切に施設運営ができるよう、令和5年7月から10月まで「改正旅館業法の円滑な施行に向けた討論会」が行われ、法改正へと至ったのである。

旅館業法の改正で宿泊拒否できる場合

今回の改正で示された宿泊拒否の規定について解説する。

特定感染症の患者の場合

第五条 営業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。
二~四 (略)

[引用]e-GOV法令検索「旅館業法(施行日:令和五年十二月十三日)」

旧旅館業法では、感染症患者への宿泊拒否を「伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき」としており、確定診断等により明らかに伝染病の疾病であると認められる場合を指していたが、伝染性の疾病の明確性に欠けていた。 改正法では、「宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき」としており、特定感染症についても、「一類感染症・二類感染症・新型インフルエンザ等感染症・新感染症及び指定感染症」と具体化されている。

[参照]e-GOV法令検索「旅館業法(施行日:令和五年十二月十三日)」

特定要求行為を繰り返した場合

第五条 営業者は、次の各号のいずれかに該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一、二 (略)
三 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。 四 (略)

[引用]e-GOV法令検索「旅館業法(施行日:令和五年十二月十三日)」

厚生労働省令で定めるものを「特定要求行為」といい、以下のような例が挙げられている。

● 宿泊料の不当な割引、不当な慰謝料、不当な部屋のアップグレード、不当なアーリーチェックイン、契約にない送迎など、過剰なサービスを繰り返し求める行為
● 泊まる部屋の上下左右に他人を宿泊させないことを繰り返し求める行為
● 特定の従業員のみに応対をさせる・特定の従業員を出勤させないことを繰り返し求める行為
● 土下座による謝罪を繰り返し求める行為
● 泥酔している者が、長時間にわたり介抱を繰り返し求める
● 対面・電話・メールなどにより、長時間にわたって、または叱責しながら不当な要求を繰り返し行う行為
● 宿泊しようとする者が、宿泊サービスに従事する従業者に対し、要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が不相当なものを繰り返し求める行為

[参照]厚生労働省「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会とりまとめ(令和5年10 月10日)

繰り返しでなくてもアウト。迷惑客のカスハラ行為

迷惑行為が繰り返し行われない場合でも、迷惑客は「賭博その他の違法行為又は風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき(法第5条第1項第2号)」に、旅館側は宿泊を拒むことができる。以下のような行為が挙げられる。

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、従業者や他の宿泊客に接近して殊更に咳を繰り返す、つばを吐きかける、つかみかかる、突き飛ばすなどした場合(暴行罪の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、業務を妨害する意図で大声で罵倒、怒号する、コロナ感染者だと吹聴して感染症対策の作業をさせる(威力業務妨害罪の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、相手の同意なくまたは同意の表明が困難な状況でわいせつな行為を行った場合や公衆の目に触れる場所で殊更に裸体を見せつける場合(不同意わいせつ罪、公然わいせつ罪、軽犯罪法違反の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、施設の備品などを意図的にこわす、汚す場合(器物損壊罪の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、「SNSにこの旅館の悪評を載せるぞ」「このホテルに火をつけるぞ」など、生命、身体、自由、名誉または財産に対し具体的な害悪を告知した場合(脅迫罪の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、「宿泊料をタダにしなければSNSにこの旅館悪評を載せるぞ」等と脅す場合(恐喝未遂罪の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、従業者に対し、生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫や暴行を用いて土下座を行わせた場合(強要罪の可能性)

●迷惑客(酒に酔った場合を含む)が、従業員に対し、不特定多数の前で「バカ」「ブス」などと侮辱する場合(侮辱罪の可能性)

●宿泊人数を偽って宿泊する場合や宿泊料を期日までに払わない場合(詐欺罪の可能性)

[参照]厚生労働省「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会とりまとめ(令和5年10 月10日)

上記のような場合は宿泊拒否の規定に該当するほか、警察に協力を依頼することが適切だ。

改正旅館業法で認められない宿泊拒否とは

旅館業法の改正で宿泊拒否できる具体例が示されたものの、「みだりに宿泊を拒むことがないようにする」必要があるとしている。例えば、以下のような場合が挙げられる。

●宿泊しようとする者が特定感染症の患者に該当する場合でも、医療機関が逼迫しており、入院調整等に時間を要し、入院や宿泊療養・自宅療養ができない場合

また、障害者に対する不当な差別が行われないよう、以下のような場合は特定要求行為に該当しないとしている。

● 聴覚障害者への緊急時の連絡方法として、スマートフォン・呼び出し機の利用を求めること
● 筆談によるコミュニケーションを求めること
● 視覚障害者が部屋までの誘導を求めること
● 車いすで部屋に入れるよう、ベッド・テーブルの移動を求めること
● 車いす利用者がベッドに移動する際に介助を求めること

他にも、介護者や身体障害者補助犬の同伴を求めることなども特定要求行為に該当しない。

2023年12月13日から施行される改正旅館業法では特定感染症やカスハラに関する規定が設けられ、宿泊拒否できる例が示された。ホテル・旅館の経営者は、利用客はもとより従業員も健全に運営できるよう、改正内容の理解やルールの整備が求められる。

[参照]
厚生労働省「改正旅館業法の円滑な施行に向けた検討会 とりまとめ
厚生労働省「令和5年12月13日から旅館業法が変わります!
政府広報オンライン「ホテルや旅館に泊まる前に知っておきたい「旅館業法」改正のポイント

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