社労士が解説!2022年10月改正、パート・アルバイトの社会保険加入要件と4つの対応ポイント

法令対策2022.10.12

社労士が解説!2022年10月改正、パート・アルバイトの社会保険加入要件と4つの対応ポイント

2022.10.12

社労士が解説!2022年10月改正、パート・アルバイトの社会保険加入要件と4つの対応ポイント

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2022年10月から短時間労働者への社会保険適用範囲が拡大された。求職者の約60%が社会保険に加入できる求人を魅力的と回答している(厚生労働省の調査結果)ことから、雇用する企業にとって制度へ対応することは労働力の確保につながるだろう。特にパート・アルバイトを多く抱える飲食店や食品メーカー、食品配送業などは不備なく対応したいところだ。

新制度で変更される社会保険加入要件や事業者の対応法について、SATO社会保険労務士法人 佐藤正己氏が解説する。

目次

短時間労働者の社会保険加入要件変更点

はじめに短時間労働者の社会保険加入要件について変更点を見ていこう。

短時間労働者(パート・アルバイト)の被用者保険の適用要件

対象要件2016年10月~2022年10月~
(改正)
2024年10月~
(改正)
事業所事業所の規模常時500人超常時100人超常時50人超
短時間労働者労働時間週の所定労働時間が 20時間以上変更なし変更なし
賃金月額88,000円以上変更なし変更なし
勤務期間継続して1年以上 使用される見込み継続して2カ月を超えて使用される見込み継続して2カ月を超えて使用される見込み
適用除外学生ではないこと変更なし変更なし

 

SATO社会保険労務士法人
営業課 課長代理 佐藤 正己 氏

短時間労働者が上記の要件をすべて満たしている場合、雇用する企業はその労働者を社会保険に加入させる義務がある。

これまでの社会保険の加入対象者は、法人の代表者や正社員、常勤役員などのほか、パートやアルバイトなど短時間従業員の場合は、1カ月の所定労働日数が同じ事業所で勤務する正社員の4分の3以上である場合、社会保険の加入対象だ。

2022年10月以降、短時間労働者が社会保険に加入する要件は、雇用期間の見込みが1年以上から2カ月を超える場合になった。雇用期間が2カ月や3カ月といった期間限定の場合でも社会保険の加入対象となることから、従来よりも社会保険に該当するケースが増えるだろう。

一方で、短時間労働者の1週間あたりの所定労働時間が20時間以上であることに変更はない。所定労働時間は就業規則や雇用契約書などから、その従業員が週に何時間勤務するか判断し、社会保険の適用対象となるか検討される。

ただし、勤務開始前の契約では1週間あたり20時間未満の勤務予定であっても、実際に2カ月連続で週20時間以上勤務した場合、3カ月目から保険加入対象となる。最近では、入社時に企業と従業員との間で交わされる書類だけでなく、実際の勤務状況を把握するために年金事務所が事務所に立ち寄り、出勤簿や賃金台帳などを確認し、社会保険の加入状況を確認する場合がある。

さらに、従業員を社会保険に加入させる事業所の要件は従業員数501名から、2022年10月以降は101名以上の事業所が対象となった。2024年10月には従業員数50名を超える事業所に適応が拡大されることになるので覚えておこう。

参考記事:2022年10月から社会保険の適用拡大。人事担当の対応ポイントまとめ

社会保険適応拡大による労働者、企業のメリット・デメリット

社会保険の適用範囲が広がることで、短期間労働者と企業にとってさまざまなメリットやデメリットが発生する。詳細は下記の表の通りだ。

社会保険適応拡大によるメリット・デメリット

 メリットデメリット
短期間労働者1. 年金と医療保障が充実
・老齢年金、障害年金、遺族年金は、基礎年金に厚生年金の給付が上乗せされる
・傷病手当金(病休期間中に給与の2/3相当を受け取れる)、出産手当金(産休中に給与の2/3相当が受け取れる)など

2. 年収130万円扶養基準額に縛られにくくなる
・企業と折半する保険料が新たに発生するものの、厚生年金分の受取額が増えるなど、保障が充実する
・年収130万円の扶養基準とは別の判断基準を持って、短時間労働者が仕事に向き合うことができる
1. 保険料の増加
労働者は保険料を納付する分、手取りの給与が減り、生活に影響が出る可能性がある 企業側は法定福利費(人件費)が上昇する

2. 労働時間の抑制
社会保険の加入要件を満たさないように勤務期間を抑える労働者が出ると、人員配置やシフトに影響する。
企業1. モチベーション向上
短時間労働者の長期的な就労により、労働力の確保が見込める

2. 採用へ好影響 「社会保険に加入できる求人をどう思うか」というアンケートに、求職者の約60%が「魅力的」と回答(厚生労働省) 社会保険に加入できることは、求人応募数の増加が見込める。

 

従来は社会保険の扶養内に入っている配偶者が年収130万円以上になると扶養から外され、単独での社会保険が義務付けられていた。勤務先の社会保険加入要件に満たない場合は、居住先の市区町村の国民健康保険に自ら加入し、保険料を全額自己負担しなければいけない状況だった。2022年10月の社会保険適用範囲の拡大により、勤務先での社会保険に加入できる条件が緩和され、従来よりも個人の状況に合わせた働き方ができるようになるだろう。

労働者側から見たデメリットとして、保険料を納付すると手取りの給料が減り、生活に影響が出る可能性があることが挙げられる。社会保険に加入することで手取りの給与を減らしたくない労働者が、加入要件に満たないように労働時間や勤務期間を減らす可能性もあることから、雇用側はシフトを見直す必要が出てくるかもしれない。

2016年に今回と同様の社会保険に関する制度改正が行われた際にも、社会保険の加入を避けて勤務日数を減らすといった働きしぶりをする労働者が頻発するのではと危惧された。実際は、勤務時間を延長したのが54.9%、時間短縮したのが32.7%となり、労働力が不足する割合の方が少ない傾向だった。今回の改正でも労働力が不足する心配はそれほどしなくてよいと考えられている。

[参照]独立行政法人 労働政策研究・研修機構『「社会保険の適用拡大への対応状況等に関する調査」(事業所調査)及び「社会保険の適用拡大に伴う働き方の変化等に関する調査」(短時間労働者調査)結果』平成30年2月23日

企業が準備すべき4つのポイント

社会保険の適用拡大に向けて、企業が準備すべきことを4つ紹介する。

[準備1]保険料の概算額の確認

社会保険への加入対象が増えることで、企業側が最も気になるのが人件費だろう。厚労省の試算によると、社会保険の適用拡大で短時間労働者が社保に加入した場合、事業主の負担が一人当たり年間約25万円増加するといわれている。

負担額の試算する歳に便利なのが厚労省の特設サイトだ。サイトを活用すれば新たに社会保険の適用対象となる人数や対象者の月額の給与や賞与を入力すると、どれくらい社会保険料が増えるのか試算できる。保険料の概算を確認したい事業主は活用してみよう。

[参照]厚生労働省「社会保険適用拡大特設サイト」

[準備2]社内への周知と面談、説明会の開催

2022年10月以降の要件緩和に伴い、新たに社会保険の加入対象になる従業員に向けて、事前に社会保険に関する内容を周知する必要がある。その際、社会保険に加入すると手取り金額が減るということだけに焦点を当てて説明すると、社会保険への加入を避けるために勤務日数を減らしたいという声が増える可能性がある。企業は社会保険に加入するメリットとデメリットの両方を説明し、個々の事情に照らし合わせて選択できるよう促すべきだ。

[準備3]人員の再配置やシフトの検討

社会保険の加入義務がある従業員に対して説明し、業務に必要な人員数が確保できるか確認した後は、業務に支障が出ないようにシフトを再調整していこう。社会保険への新規加入者の人数を計算し、保険料の総額を把握しておけば、求人を出す際に労働条件などの検討材料にもなるだろう。

[準備4]被保険者資格取得届の提出

新たに被保険者になる従業員がいる場合、年金と健康保険に資格取得届の提出が求められる。従業員数が101500人の企業には20228月までに適用拡大となることを知らせる書類が届いているはずだ。内容を確認し、期限までに必要書類を提出しておこう。

継続的にやるべきこと

社会保険の適用対象者の拡大により、新たに誰が社会保険の加入対象になるのか雇用状況を確認し、あらかじめ情報を周知し、雇用側と従業員双方の認識を合わせる必要がある。最近では、長時間労働やサービス残業などが問題視されていて、労働環境に対して厳しく取り締まる風潮が広がっている。企業は従来よりも雇用管理を徹底することが求められる。

また、今回の社会保険の適用拡大の影響で、新たに社会保険に加入する人数が増えると人件費が上昇する。業務フローの見直しやIT活用などを検討し、多様な働き方に対応できるような仕組み作りもポイントとなるだろう。

個々の事情に応じて対応しよう

今回の制度改正に伴い、新たに社会保険に加入した従業員は、福利厚生が手厚くなることで従来よりも長期的に勤務しやすくなる。しかし、保険料は会社と従業員の間で折半になることから、社会保険に加入したくない従業員や、そもそも保険適用の対象外となる学生などに対しては、個々の事情に応じた多様な働き方の構築が求められる。

企業は新たに適用対象となる従業員に説明し認識をすり合わせるとともに、必要経費の概算や人員工数の削減につながる業務フローの見直しを進めていこう。

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