事業者が知るべき景品表示法とは
森田満樹
消費生活コンサルタント
食品表示に関する法律はいろいろとありますが、今回のメニュー誤表示問題で、法律で違反を問えるのは景品表示法(景表法)です。この問題に適切に対応するために、事業者はこの法律をきちんと理解をしなければなりません。
なぜ今回の誤表示問題が起きたのか。「業界全体の景表法の理解不足」と言われていますが、景表法は食品表示の法律のように明確な基準やガイドラインがなく、守りづらい法律。監視執行体制も弱く、わかりづらい法律であることも問題だったといえます。
消費者庁は、昨年12月に景表法のわかりやすいガイドライン案(PDF)を出し、近く正式に発表する意向を示しているので、このガイドラインとこれまでの措置命令(違反事例)で、どういったケースが法律違反になるのかが大まかに定まりました。まずはこれに注視してください。
ここでは、景表法が作られた目的や行政の対応、事業者がすべき対策を順に追って説明します。
景品表示法とは?
(1)景表法の目的
景表法は、「不当景品類および表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害する恐れのある行為の制限および禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護(不当景品類及び不当表示防止法より抜粋)」という目的で昭和37年にできた法律です。「消費者を守る」という意識が強いのが特徴です。
同じ食に関する法律でも、JAS法はその食品の品質、食品衛生法は安全を重視しており、それぞれ目的が違うため、法の執行体制も異なります。
(2)不当表示の種類と行政の措置
景表法は、一般消者の利益を保護するという観点で、不当な顧客誘引を禁止しています。一連のメニュー誤表示の中には、不当な顧客誘引に該当する不当表示もあります。
■不当表示の種類
優良誤認表示 | 商品、サービスの品質(※1)、規格(※2)、その他の内容(※3)について、著しく実在より優良であるように示す不当表示 |
有利誤認表示 | サービスの価格、その他の取引条件について、実際のものよりも著しく取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される不当表示 |
※1 品質:原材料、純度、添加物、効果、性能、鮮度、栄養価
※2 規格:国などが定めた規格、等級、基準
※3 その他の内容:有効期限、製造方法
表示が不当表示であるかを判断するのが、「不実証広告規制」です。
これは、消費者庁が「これはおかしい」と思ったときに事業者に表示の証拠となるものの提出を求め、ここで合理的な根拠が示されなかったら「不当表示」とみなすことができるというものです。
(消費者庁ウェブサイト 不実証広告規制より抜粋)
違法行為に対する行政の対応は、大きく分けて「消費者庁長官による措置命令」と「知事による指示」の2種類あります。
「消費者庁長官による措置命令」では事業者の名前が公表され、再発防止策を命じられるため社会的なダメージも大きいのですが、「知事による指示」では名前が公表されません。
今後、取締りを厳しくするために、罰金額の上乗せや、各知事でも措置命令を出せるように改正するといった方向性が示されています。景表法は健康食品や塾の勧誘広告などありとあらゆる商品・サービスが適用となりますので、社会全体として大きな影響があると思います。
■消費者庁長官による措置命令
- 不当表示を行っていたことの公示
- 再発防止措置
- 不作為命令
■各都道府県知事による指示
- 指示のみ(事業者名の公示はされない)
*指示違反の場合、知事は消費者庁長官に措置請求が可能 - 違反の疑いがある事業者に報告命令や立入検査
(3)取締りの流れ
消費者庁は、一般消費者からの情報提供や事業者のウェブサイトなどでおかしな表示があると探知したら、調査をします。表示の根拠となるものがあれば、「警告」などで終わります。根拠がなければ、措置命令という流れになります。
事業者に求められること
(1)過去の違反事例から景表法を学ぶ
景表法の誤表示に関するこれまでの違反事例を読み込むと、どのような場合が違反になるのかが見えてきます。過去の事例をピックアップした表を作成しました。
■景表法の誤表示に関する違反事例(森田氏作成)
これらの違反事例から、ステーキメニューに関するケース、外国産の食材を北海道産として出したケースが多いことが見えてきます。
自社のメニューと比較して、近い表現がないかを確認し、対策を講じましょう。
(2)過去の違反事例から誤認キーワードを察知する
消費者庁の出した「料理などの表示における景品表示法の留意点」で、以下のように上がっています。
(百貨店における料理等の表示に係る関係団体への要請について(PDF)より抜粋)
例えば、バナメイエビは小さいエビを指すという業界の慣行がありますが、それは事業者の認識に過ぎません。景表法では、表示の受け手である一般消費者が著しく優良と誤認するかということが観点となります。
この「著しく」の判断が難しいのですが、今般のガイドラインに考え方が示されていますし、過去の違反事例を参考にするのが良いでしょう。過去の違反事例をたどっていくと、「誤認キーワード」が見えてきます。
ただし、消費者庁は「実際の表示が景品表示法に違反するかどうかは、表示上の特定の文言等のみからだけでなく、メニューや料理の実際の表示全体から一般 消費者が受ける印象と実際との差を個別に検討することになる」としています。単に文言のみで○か×かとは言えないということも留意してください。
■百貨店などにおける料理等の表示に関するもの
■上記以外で食品に関するもの
これを見ると、今まで優良誤認といわれていたものは、【「和牛」「原産地」「地鶏」「有機」「成形肉」や「牛脂等注入肉」の表示がない場合 ほか】など、JAS法やほか法律で定められいるもの、規格があるもののルールを侵したようなケースが多いと言えるでしょう。
また、今回の問題では【「エビなどの魚介類の名称」「フレッシュ」「手作り」「ブランド野菜」 ほか】 が新たに加わります。
食材のこだわり表示は、これらの誤認ワードに注意が必要です。食材の安定調達が担保できない場合は、メニューには表示せず、その都度ボードなどで示すようにしましょう。これらの表示をする場合、根拠の確認を。
(3)ウェブサイトやパンフレットの表示も確認する
景表法はメニュー表示だけではなく、ウェブサイト、口頭説明、パンフレットなどあらゆる情報伝達手段にかかるものです。それぞれの表示に誤解を招く表現がないかの確認をしてください。
(4)表示による情報公開の取り組みを進める
アレルギー表示や原料原産地表示、食品添加物の情報公開を進めておきましょう。何らかの表現で他とは差別化した表示をする場合は、正確な表示のために、日ごろから原材料、資材の管理を徹底することが重要です。
誤表示であれ偽装であれ、消費者が著しく誤認をするような表示はアウトです。
「嘘のない表示」と「商いは正直に」という基本を守って取り組めば、景表法違反になることはありません。今回の問題で失われてしまった消費者の信頼を取り戻すためにも、以上の点に留意してメニューの管理をお願いしたいと思います。
※最新の情報は景品表示法(消費者庁)をご覧ください。