冬に増加する食中毒「ノロウイルス」
冒頭で述べた通り、ノロウイルスが原因で食中毒件数は冬に増加傾向となる。1月では食中毒のうちの8割がノロウイルスと大きな割合を占めている。2020年の月間食中毒患者数は下記の通りだ。
2020年の食中毒患者数
食中毒発生状況の患者数14,613件のうち、約47%(6,955件)が飲食店と原因施設のほぼ半数を占めている。事業者には可能な限り食中毒を減らす対策が求められる。
ノロウイルスとは
ノロウイルスは2002年8月、国際ウイルス分類委員会(ICTV)で、ノロウイルス属、サポウイルス属に分類され、人間にとって食中毒の原因となる。ノロウイルスには多くの遺伝子の型があること、また、培養した細胞及び実験動物でウイルスを増やすことができないため、ウイルスを分離して特定する事が難しい。
特に食品中に含まれるウイルスを検出することは困難で、食中毒の原因究明や感染経路の特定を難しいものとしている。
ノロウイルスの原因食品
過去のノロウイルス食中毒の調査結果を見ると、食品から直接ウイルスを検出することは難しく、食中毒事例のうちでも約7割では原因食品が特定できていない。ウイルスに感染した食品取扱者を介して食品が汚染されたことが原因となっているケースが多いことが、原因食品が特定できない要因となっている。
そのほかの原因としては、ノロウイルスに汚染された二枚貝がある。二枚貝は海水中のウイルスを取り込み、体内で濃縮されると考えられている。ノロウイルスに汚染された二枚貝による食中毒は生や加熱不足のもので発生しており、十分に加熱すれば、食べても問題ない。
ノロウイルスの感染経路
( 1)患者のノロウイルスが大量に含まれるふん便や吐ぶつから人の手などを介して二次感染した場合
(2)家庭や共同生活施設などヒト同士の接触する機会が多いところでヒトからヒトへ飛沫感染等直接感染する場合
(3)食品取扱者(食品の製造等に従事する者、飲食店における調理従事者、家庭で調理を行う者などが含まれます。)が感染しており、その者を介して汚染した食品を食べた場合
(4)汚染されていた二枚貝を、生あるいは十分に加熱調理しないで食べた場合
(5)ノロウイルスに汚染された井戸水や簡易水道を消毒不十分で摂取した場合
飲食店ができるノロウイルスの食中毒予防策
・食品取扱者や調理器具などからの二次汚染を防止する
・加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱(中心部85~90℃で90秒以上の加熱が望ましい)
・こまめな手洗い
・調理台や調理器具の殺菌
特にノロウイルスに感染した人のふん便や吐ぶつには大量のウイルスが排出されるため、飲食店従業員がノロウイルスに感染していると、大規模な食中毒となる可能性がある。
<従業員の体調を管理する>
ノロウイルスは少ないウイルス量で感染するので、ごくわずかなふん便や吐ぶつが付着した食品でも多くのヒトを発症させるとされている。
食品への二次汚染を防止するため、下痢やおう吐、風邪のような症状がある従業員は、食品を直接取り扱う作業をしない。症状がなくなっても、通常1週間、長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせない。
<食材を加熱する>
ノロウイルスの失活化に必要な加熱条件は、現時点で正確な数値はない。同じようなウイルス(A型肝炎ウイルス)では、85℃以上で1分間以上の加熱を行えば、感染性は失活するとされている。
ただし、加熱によるウイルスの失活化には加熱温度と時間以外に、存在するウイルス粒子の数及びウイルスが存在する環境(乾燥状態か液体の中か、有機物が多いか少ないか、pHなど)によっても影響を受ける。食品中に存在するウイルスはタンパク質で保護されているため、失活化を確実なものとするには、より厳しい加熱条件が必要とされている。
<特に二枚貝には注意>
加熱調理用の二枚貝については、内部にまで食中毒の原因となるA型肝炎ウイルスやノロウイルスが存在するおそれがあるため、中心部まで、十分に加熱する必要がある。
冷凍や殻付きの場合は、食部の加熱が不十分となりやすいので注意だ。また、加熱調理用の二枚貝から他の加熱せずに摂取する場合、食材や調理済み食品への交差汚染の危険があるため、加熱用の二枚貝を触った後は、よく手を洗う必要がある。
さらに加熱前後で器具(ボール等)や食器を使い分けるか、都度、洗浄・殺菌して使用する必要もある。
ノロウイルスの感染症状
<潜伏期間>
感染後24~48時間で発症
<主な症状>
吐き気、おう吐、下痢、腹痛、微熱が1~2日続く。感染しても症状のない場合や、軽い風邪のような症状のこともある。
2021年冬は例年よりも注意が必要?
2021年9月までに報告されている食中毒発生事例では、原因施設は279件中120件が飲食店と、例年と比較してやや下回るものの、それでも約4割を占めており大きな要因となっている状況は変わりない。一方で、1月と2月に発生したノロウイルス食中毒は14件。6月と9月に発生した「その他の病原大腸菌」は0件と、例年と比較して急激に減少している。
これは新型コロナウイルスの流行が主な理由と考えられる。緊急事態宣言の発令によって飲食店の利用が減少したことに加え、徹底した手洗いや消毒の意識が浸透してきたためだ。しかし9月30日をもって緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は解除された。人の流れが戻り、例年と同様に冬にはノロウイルスの発生が増加すると考えられる。
緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の解除は飲食店にとって嬉しい知らせではあるものの、食中毒の対策を怠ってお客様からの信頼を失うことはあってはならない。コロナの影響もあって食中毒の発生件数が減少している今こそ、気を引き締める必要がある。時に人の命をも奪う食中毒に、万全の対策を講じておきたい。
【参照文献】
・厚生労働省「4.食中毒統計資料」(2)過去の食中毒発生状況 令和2年(2020年)食中毒発生状況
・東京都福祉保健局「食品衛生の窓」