衛生管理2014.04.25

微生物の増殖を予測する無料ソフトの活用方法

2014.04.25

株式会社SGSジャパン マイクロバイオチームリーダー

株式会社SGSジャパン マイクロバイオチームリーダー

  • bnr_menu-plus_300(汎用)
  • bnr_v-manage_300.png 汎用

目次

細菌の「時間」「水分」「温度」「栄養」

 まず、細菌微生物の増殖に関しては、いくつかの重要な条件があります。それは「時間」「水分」「温度」「栄養」で、これらの要素がうまい具合にマッチングすると、活発に動き出します(増殖をします)。「栄養」を例にあげると、たとえば『酢の物』のように酸を多用した食品と、糖質たっぷりの『かぼちゃの煮つけ』では、同じ条件の食品ではありません。二者択一で質問したら、ほぼ全員が前者の方が菌に対しての耐性は高いと答えると思いますが、実際それで正解です。

 では、この2つの間にある性質の違いは何でしょうか。
・pH
・塩分
・糖分・炭水化物
・酸度
・タンパク量
・水分活性値など・・・

 相違はいくらでも思いつきます。同種の菌が同量である場合には、これら条件の積み重ねで、菌増殖のスピードの緩急は決まってくるのです。  

微生物増殖曲線予測プログラムとは

ComBase

 

 1980年代の後半から、欧米を中心に食品の製造から流通、消費に至る全過程、いわゆるFrom Farm to Table(フロムファーム トゥ テーブル)において、有害に働くおそれのある病原および腐敗細菌の挙動を定量的に予測し、微生物学的危害から未然に食品の安全性を確保することを目的とした「食品予測微生物学」が考えられました。

 次いで、対象となる微生物の増殖の速度や死滅の速度について、パソコンを使って模擬的に予測化する「微生物増殖曲線予測プログラム」(データベースソフト)の開発が盛んに行われたのです。

 数年前までは予測ソフトとして、イギリスの『Food Micro Model』、アメリカの『PATHOGEN MODELING PROGRAM (PMP)』などが主流でしたが、これらは当時、有償使用が前提の非常に高価なソフトウェアとなっていました。食品メーカーの品質部署に在籍していた際に、『Food Micro Model』を発見し、「使う価値あり」と判断して入手した覚えがありますが、1年に30万円ほどの更新料がかかっていた記憶があります。

 しかし、幸運なことに両国は最近、食品中の微生物挙動に関するこれまでのデータをデータベース化し、共有・統合してWeb上でデータベースを無償で公開しています。下記に代表的な無料ソフトについて解説しました。

代表的な無料ソフト

Growth Predictor

 

 『Growth Predictor』は、前述したイギリスの『Food Micro Model』のデータを基に作られた予測プログラムです。使い方は、これらソフトの中では比較的シンプルであり、対象としたい菌種および温度、pH、塩分濃度、水分活性値などの各種環境条件を入力すると、その条件に合わせて予測結果が図表として表示されるというもの。ただし、ここでの予測結果は、液体培地をもちいた結果のみであるようです。

PATHOGEN MODELING PROGRAM (PMP)

 

 菌の増殖以外に、熱死滅、常温での死滅、放射線照射殺菌、ボツリヌス菌増殖など各種の目的に使用できるプログラムです。使い方は『ComBase』『Growth Predictor』と同様、菌種、環境条件を入力すると、その条件に適合した微生物挙動と同時に使用した文献も表示されます。また、指定した時間での予測菌数および指定した菌数に達するまでの予測時間も表示され、最近は、変動温度にも対応するプログラムが作られているようです。
 さらに、腸炎ビブリオ版ではその環境条件(温度、塩分濃度、pH)、初期菌数および保存時間を入力すると、その条件下での増殖予測曲線が表示されます。

あくまで参考値。それでも、実験における時間とコストの省力化が可能

 無料の「微生物増殖曲線予測プログラム」を使用する際に気をつけたいのは、予測した数値は参考値であり、その数値を直接ユーザーの対象食品に適用することはできないということです。また、予測値は客観的な値ではありますが、個々の場合にそのまま当てはまる保証はありません。

 しかしながら、対象食品を使って実際に実験を行うには、相当な時間とそれなりの費用が必要になってきます。完全ではないとは言え、上記のプログラム、データベースを用いて、想定される菌を選定し、諸条件を入力するだけで、(無料で)瞬時に模擬的な参考値を得ることができることは大きな収穫です。算出された予測値を参考にすることで、予測をスクリーニング作業に利用して、「これは」という食品については、各条件にて実際に実験を行って確認するという使用方法を講じることが可能となります。これにより実験における時間とコストについて、かなりの省力化が期待できるのです。

 また、賞味期限テストや輸送時を想定した変温試験など、実際に実験するときには、複合条件が必要となる場面にも多々遭遇します。筆者のように食品の試験・検査を専門としている側からすれば、複合条件を設定した際に、試験に失敗(結果が予測スペクトル外のものとなる)してしまうことはできれば避けたいのが本音です。そうならないためにも、事前に好きなだけ無料ソフトで、設定を微調整して卓上スクリーニングしておいて、本試験を実施するようにできれば、無駄なく試験結果を導き出せると考えています。

 以上、微生物抑制手段の検討についての一助となれば幸いです。

注目のキーワード

すべてのキーワード

業界

トピックス

地域