衛生管理2014.04.25

食品衛生は施設設計前から考える

2014.04.25

株式会社SGSジャパン マイクロバイオチームリーダー

株式会社SGSジャパン マイクロバイオチームリーダー

 前回のコラムでは、食中毒予防や衛生管理における最も身近な問題である“手荒れ対策”をお伝えしました。今回は少し範囲を大きくして、施設設計の大切さをお伝えしたいと思います。

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 前回のコラムでは、食中毒予防や衛生管理における最も身近な問題である“手荒れ対策”をお伝えしました。今回は少し範囲を大きくして、施設設計の大切さをお伝えしたいと思います。

目次

食品衛生施設・環境衛生施設の許可申請・届出について

 皆さんご存知だと思いますが、食品に携わる施設を開設し、営業をするためには食営営業許可というものを取らなければいけません。これは『飲食店営業その他公衆衛生に与える影響が著しい営業を営もうとする時は、許可を受けなければなりません。許可を受けるには、その営業の施設が基準に合わなければなりません』という決まり事があるからです。

許可が必要な業種としては
<1>調理業(飲食店営業・喫茶店営業)
<2>製造業(菓子製造業・豆腐製造業・めん類製造業・そうざい製造業等)
<3>販売業(乳類販売業・食肉販売業・魚介類販売業等)
<4>処理業(乳処理業・食肉処理業・食品の冷凍又は冷蔵業等)

が挙げられ、その基準としては
<1>施設基準(建物の構造・食品取扱設備・給水及び汚物処理設備)
<2>管理運営基準(施設の管理・食品取扱設備の管理保全・給水及び汚物処理・食品等の取扱い・従事者に係る衛生管理・管理運営要領・食品衛生責任者・営業者の衛生教育)

が含まれています。当然のことながら最低限上記を守れば営業の許可は下りることになります。

 そこで、「許可が下りた」「認められた」と安堵する気持ちはわかりますが、その許可は基準を満たせなくなったときには撤回される可能性もあります。こと衛生に関しては、運営が始まってからの日々の積み重ねであり、許可が下りた後にどう運営管理していくのか、というビジョンをもっていることが大切なのです。

施設建設時には衛生に詳しい人を加える

筆者は以前、ある食品メーカーの品質保証部門に在籍しており、下請け会社や原料メーカーへの視察訪問などにも対応していました。古い施設もあれば新しい施設もあり、充実した環境もあれば品質管理的な立場から見て問題ありと判断せざるを得ない環境で食品を日々製造している施設もあり、まさに千差万別でした。そこで提案したいのが、食品を扱う施設をゼロから新設する場合には、ぜひ建設前の段階から衛生に詳しい方を参画させるべきだということです。衛生に関しての専門家の助言なしで建設が終了し、運営しているうちに不具合がでて、改修が必要になってしまうケースもなかにはあります。これははっきりいって予算の無駄使いに繋がります。

 この問題はご存知のHACCPシステムの導入に鑑みてもわかります。HACCPは本来、既存の設備・環境下で実施するため、いい環境・設備の施設には比較的組み込みやすく、その場合は費用もイニシャルに少々の出費がある程度のものです。しかし、実際はすぐ導入できる施設はそれほど多くなく、環境・設備の改善を余儀なくされてしまうケースが多々あります。個人的には、そのせいでHACCPは出費のかさむシステムと思われがちになっており、大手には受け入れられやすい反面、中小企業には手が出せないものとなってしまっているのではないかと考えています。

理想の食品製造施設とは?

 では、どのような施設であれば、不具合や改修のリスクを減らせるのでしょうか。筆者が考える理想の食品製造施設をまとめてみましたので、チェックしてみてください。

<チェックポイント>
①食品製造についてワンウェイ管理(原料~製品)である。
②フロアはドライである。
③空調設備(温度、湿度)、空気の流れに基づいた作業環境である。
④作業場入場時の手洗い設備、異物(毛髪)混入除去工程が設けてある。

 いかがでしたか。下記にその理由もまとめましたので、参考になさってください。

①食品製造についてワンウェイ管理(原料~製品)である。
⇒こちらは、衛生区域と汚染区域の差別化を図ることに繋がります。

②フロアはドライである。
⇒不用意な菌の増殖抑制に効果があります。

③空調設備(温度、湿度)、空気の流れに基づいた作業環境であること。
⇒こちらは比較的見落とされがちですが、衛生区域の作業場環境の気圧を外部より上げた状態に保つことで、カビ・酵母をはじめとした空中浮遊菌の外気からの侵入、汚染を防ぐ効果があります。

④作業場入場時の手洗い設備、異物(毛髪)混入除去工程が設けてあること。
⇒外部因子の抑制となります。

 ちなみについ最近、私用で山梨県北杜市に工場を持つある酒造メーカーさんの飲用水部門の工場見学に参加したのですが、こちらの工場のあまりの最新設備っぷりには逆に面食いました。新設されたピカピカの工場は、上記に挙げた内容はもちろんのこと、エコ対策を行っており、敷地内で電気バスが運行していたのです。工場見学は随時実施しているようなので、機会あれば参考に行かれるといいかもしれません。

 もちろん、これらの対応をすべての食品従事者が行うのは難しいと思います。費用の問題もありますが、特に飲食店では狭小な店舗も多く、新設ではなく、もともと別の目的で使用していた施設のリユース、リサイクルの場合も多くあると思います。最低限の改装や突貫工事で即営業というケースもあるかもしれませんが、その場合もぜひ前述にの理想の施設を念頭に置いていて、導線や空調設備の設置を考えてみてください。

対応できる内容については専門家に相談を

 最後になりましたが、食中毒の原因となる食品微生物は、施設で扱う原料、食材はもちろん、フロアがドライなのか、ウェットなのかなどで潜在する菌種が違います。また、賞味期限、消費期限が長いものなのか、日配品なのか、はたまた提供後即消費するものなのかなど、様々な要因によって要求される衛生環境設備が変わってきます。それらをひとくくりにして難しく考える必要もないかもしれません。しかし、まずは食品製造における施設設計の大切さをご理解いただき、対応できる内容について、衛生の専門家にアドバイスをもらってみてはいかがでしょうか。そしてまずはできることから着実に実行することが、日々の衛生管理に結びつくものと考えます。

<参考資料>
食中毒の主な原因物質と効果的な対抗手段(PDF)

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