「地域との共創」が生み出すメリットとは
昨今の旅行者の傾向として、地域住民との交流や、その土地ならではの食事や風習を味わいたいというニーズが増えている。
過疎化が進む自治体では、ローカル観光を移住定住の施策に結びつけ、民間事業者に古民家の改修費として補助金を交付する動きも活発だ。こういった「宿泊施設×地方創生」の事業は、自治体や民間事業者が地域の魅力をどのように再発見し、市場ニーズに合わせて打ち出していくのかというコンセプト設計が成功のカギとなるようだ。
地方の魅力を伝える体験型宿泊施設では、家族全員で気兼ねなく滞在できるようにと古民家を一棟貸しするタイプや、農作業や郷土料理作り、地域住民による観光案内などを企画する宿泊施設もある。これらは、その地域ならではの体験を求める旅行客に好評だ。
地方創生につながる宿泊施設の事例
斬新なアイディアから生まれた地域創生につながる宿泊施設を紹介する。
「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」。商店街を丸ごとリノベーション
商店街ホテル「講 大津百町」は滋賀県大津にある商店街をホテルにリノベーションして完成した。この商店街には、築100年を超える町家が多く残っていたが、高齢化が進んでいることから長らく放置され、最終的には取り壊されることが多かった。そこで町家に耐熱補強や防音を施し、100年先も快適に滞在できるようフルリノベーションして宿泊施設として活用することにした。
宿泊することで街が蘇るという「ステイファンディング」を主軸としていることから、各宿泊施設にはレストランを配置しない。滞在者の思いのまま、街を散策したり、コンシェルジュがオススメの店を紹介したりなど、地域住民との交流を深めることや、地方民間事業者の活性化を狙いとしている。
日本家屋に機能性をプラスして快適な滞在拠点に改修
2020年5月、長野県茅野市内に風情ある古民家を素泊まりで一棟貸しする「ヤマウラステイ」が4棟オープンした。古民家の改修には、日本文化研究や古民家改修の第一人者として知られるアレックス・カーが携わり、豊かな自然の景観や長い歴史の片鱗が垣間見える壁や柱を残しつつ、快適な暮らしに必要な整備を行った。
古民家の周辺は都市開発が進んでいない農村が広がっているエリアで、まさに隠れ家的な魅力がある。このようないわば限界集落では、リノベーションした古民家を宿泊施設にし、田舎暮らしの体験や地域住民との交流を通じて、地域のよさを感じられる民宿が増えている。
商家町の趣がある水の都をホテル街に
江戸時代より水の都として栄えた千葉県香取市佐原地区。川ぞいには、築100年を超える古民家が並び、1996年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された趣のある場所だ。このエリアに2018年3月「佐原商家町ホテル NIPPONIA」がオープンした。
街づくりの一環として地元企業などが集う「千葉・江戸優り佐原観光活性化ファンド」などからの支援により、明治から昭和初期に建築された11棟13室の宿泊棟にリノベーションを施した。もともとは商家町だったため、開放感のある広々とした町家が多く、滞在者は非日常的な空間でのんびりとした時間を堪能できる。
また、同じく千葉県には木更津の再開発地区である「鳥居崎海浜公園エリア」に泊まれる鮨屋をコンセプトに掲げた温泉旅館「鳥居崎倶楽部 HOTEL&SEAFOODS」がある。地上2階建て、客室全6室の温泉複合施設ということもあり、プライベートな空間で温泉を楽しめるところも人気の秘訣だ。館内では、職人が握る江戸前鮨を堪能できる。
地域に眠る資源を生かして、地域に根差した宿泊施設へ
地域に埋もれている資源に着目し、自治体や民間事業者が協力することで再開発していく動きが活発だ。築100年以上の古民家の良さを残しつつ、機能性やモダンな家具を融合させることで、宿泊施設として新たな息吹を与えている。また、宿泊施設の周辺にある飲食店や観光地と連携することで、地域全体の活性化につなげているのだ。
ターゲット層を絞ってコンセプトを明確にした宿泊施設の運営は、地方創生につながるとともに旅行者に新たな喜びや気づきを与えるのかもしれない。