「出店後は横丁で出店者組合を形成し、主体的に運営していただきます。たとえば、ドリンクは全店舗共通でドリンクブースから提供し、売上は均等割です。オーダーはタブレットで行い、会計は1つにまとめています。定期的にミーティングを行って経営状況やイベント計画などを話し合っていただいています」
宣伝費も出店者同士でシェアする。個々の店目当ての客だけでなく、横丁自体に魅力を感じて集まる客でも賑わい、集客する力も上がるだろう。横のつながりを重視することで、独立したばかりで経営ノウハウがない経営者も、周りから助けられる。また、料理面でも和食やイタリアンなど、多種多様な業態が集まることで、調理技術を教えあい、新たなメニューが生まれることもある。横丁を学びの場として成長することができるのだ。
「出店される方が料理に集中できるよう、我々も円滑な経営をサポートします。ホールに常駐するマネージャーは弊社の社員です。また、全店舗のお客様のオーダーがデータ化されていますので、売上データの分析ができます。
売れ筋メニューの傾向などをフィードバックすることで、店舗ごとの売上に大きな差が生まれないようしています。たとえば同じ商品でもネーミングを変えるだけで売上が大きく変わることもあるのです」
個店の集合体なのでポテトフライひとつとっても店舗ごとに違う。将来的には、ヒットメニューのレシピを共有し、開発した店舗にはロイヤリティを支払う仕組みも目指しているという。タブレットメニューの内容の変更などはITシステム「OKAMISAN」で簡単にできる。シェアキッチンの成功には、ITの活用が欠かせないと藤田氏は語る。
「我々のビジネスモデルはシェアキッチンとITによる、横丁コミュニティの支援です。ただ、説明会を開催すると、ITに馴染みがないといった方は大勢いらっしゃいます。それでも挑戦してみたいという出店者さんとは、ご一緒にスマホを買いにいき、操作方法のご案内からはじめたこともあります(笑)。
個人経営だと孤独になりがちですが、シェアリングは前提として、お客様をもてなすという明確な目的を共有する料理人の集まりです。そのためにどうする? が主軸となるので絆も生まれ、店舗を超えてコラボしたコースメニューなども登場しています」
雇われる、独立する、そのスキマの第3の選択肢として
実際に横丁を卒業して自分の店舗を構えた元出店者もいる。いきなり多額の借金をして1店舗目を出店する、あるいは育てた店長に新店舗を任せる、その前の1ステップとして、ローリスクで経営スキルを磨く期間にできるのがシェアキッチンといえそうだ。
テクノロジーの発展でこれからも、従来なかった店舗運営の形が登場してくるだろう。どんなビジネスモデルも先端技術も、「料理で人を喜ばせる」という飲食業の本質が不可欠だ。人と人とのつながりを生かすサービスだけが飲食店経営の道を照らしていくにちがいない。
取材協力:株式会社アスラボ
お話:横丁事業部 藤田勝氏 事業内容:ITによる料理人の起業・経営支援、横丁の運営。
同社が運営する「出店.biz」では、2020年夏開業予定の「新大久保 駅上 シェアダイニング(仮)」や、
2020年4月開業予定の「水戸フードラボ(仮)」の出店者募集を行っている。