誇りを喚起するブランドスローガンと「ドトールでいい」の価値
情緒的価値を創出する具体的な施策として、私たちは「すべての今日を、支えていく。」という新しいブランドスローガンを策定しました。これはお客様に向けた広告宣伝ではなく、全国で働くパートナーや店長に向けた感謝と応援のメッセージとして機能しています。
皆様は自社の店舗がお客様からどのように評価されたいとお考えでしょうか。私自身、常日頃からお客様には「ドトールがいい」と言ってほしいと言い続けていました。しかし新たなスローガンの開発に携わったコピーライターの方から、「ドトールでいい」ってすごいことですよと指摘され、自らの認識を改めることになります。
「ドトールでいい」という言葉は、決して妥協の産物ではありません。当たり前のように存在を認められ、手軽で気軽に安心して選ぶことができる証拠と言えるでしょう。晴れの日のような特別感はなくても、間違いのない日常的な安心感や信頼感があり、誰に対しても好意的な印象を与えてくれます。このさりげない言葉は、血の滲むような努力を積み重ねてきたブランドだけが言ってもらえる最高の価値に他なりません。このスローガンの動画を社内の説明会で発表した際、実際の現場の苦労や辛かった日々を思い出し、涙を流すベテラン社員もいたほどです。この価値観の転換がお客様だけでなく、従業員の心をも引き付けるエンゲージメント戦略の出発点となりました。
デジタル投資で広がる称賛の文化と自律的成長
理念を現場に浸透させる中核機能が、接客スキルを披露する全国規模のイベントであるCSアワードです。単に優劣を競うコンテストではなく、参加者全員が互いの仕事を称賛し学び合う文化を形成するための実践の場として機能しています。審査を担当する他店舗のスタッフや本部社員は、参加者の優れた点を褒め称えることに注力する仕組みとなっています。人を褒めるという行為は褒められた側の意欲を向上させるだけでなく、褒める側の意識をも能動的な変化へと導きました。
全国規模でこの施策を展開し短期間で圧倒的な成果を上げる背後には、独自の社内デジタル戦略が存在します。当初は訪問審査だけで対応することに限界がありましたが、動画プラットフォームを導入し、手本動画の共有や実技動画の提出、フィードバックをオンライン上で完結させる環境を整備しました。移動時間と距離の制約を排除した結果、全従業員の半数近くとなる9421名が自発的に参加する巨大プロジェクトへと発展を遂げています。さらに退職者との繋がりを維持するため専用アプリの運用にも着手し、過去に培ったエンゲージメントを基盤に退職者を即戦力のスポットワーカーとして再雇用する画期的な仕組みを構築しました。
顧客の利便性を高める機能的側面よりも、共に働く人々を繋ぎ育てる情緒的側面へのIT投資を優先する経営判断が組織全体の底上げを実現したと言えるでしょう。自律的に考え行動する人材を育成し、互いに称賛し合う文化を仕組みとして提供し続けることこそが、あらゆる外食産業において持続的な成長を約束する経営の要衝なのです。










