一度は泊まりたい宿建築を徹底解剖!
その魅力に取り憑かれ、全国100軒以上、描きながら巡ってきた著者がおくる
宿の新しい見方・楽しみ方──
建築を学ぶ傍ら古い宿の魅力に取り憑かれ、全国100軒以上を描きながら巡ってきた著者がおくるレトロ宿ガイド。東北から九州・沖縄まで、選りすぐりの35事例を掲載し、その見所を建物のスケッチと豪華な写真で徹底解剖。
(神奈川県)塔ノ沢温泉 元湯環翠楼|史上最高の旅館建築
(東京都)東京ステーションホテル|東京駅と共に歴史を刻む、レンガ造のホテル
(京都府)橋本の香|遊郭の面影を色濃く残す宿
目次
まえがき
本書に登場する宿MAP
本書の見方
■東北
(山形県)赤倉温泉 湯澤屋|まるで竜宮城!? 温泉街を一望できる珍しい意匠の宿
(山形県)滑川温泉 福島屋|江戸時代の素朴な建物で秘湯を楽しむ温泉宿
(福島県)会津東山温泉 向瀧|地形を活かした庭と建物すべてが見事
column1 宿の建物用語を学ぶ
■関東
(茨城県)平潟港温泉 砥上屋旅館|漁業が栄えた明治時代の雰囲気をよく残した旅館
(栃木県)北温泉 北温泉旅館|日本の湯治文化を堪能できる秘湯の一軒宿
(栃木県)三斗小屋温泉 煙草屋旅館|電気も水道も電波もきていないが絶景野天風呂が魅力的な山小屋
(栃木県)塩の湯温泉 明賀屋本館|山あいのモダニズム温泉旅館建築
(栃木県)日光金谷ホテル|日本で最も長い歴史のあるリゾートホテル
(群馬県)四万温泉 積善館|昭和初期の姿をとどめる貴重な浴場は必見
(埼玉県)町田屋旅館|ほぼ明治期のまま、地方の町中らしいコンパクトな旅館建築
(東京都)東京ステーションホテル|東京駅と共に歴史を刻む、レンガ造のホテル
(東京都)学士会館|戦前の雰囲気を残す元会員倶楽部施設
(東京都)旅館西郊|下宿から旅館、洋風から和風へ。様々な面影を残す宿
(神奈川県)ホテルニューグランド|昭和初期そのままのロビーはまるで別世界
(神奈川県)塔ノ沢温泉 元湯環翠楼|史上最高の旅館建築
(神奈川県)塔ノ沢温泉 福住楼|すべての部屋で意匠が異なり遊び心あふれる宿
(神奈川県)箱根湯本温泉 萬翠楼福住|泊まれる重要文化財。明治初期の擬洋風建築
(神奈川県)宮ノ下温泉 富士屋ホテル|まるでホテルの博物館。様々な時代のホテル建築を体験できる
Column2 宿の変遷を辿る
■中部
(山梨県)下部温泉 湯元ホテル|昭和初期のホテルらしさが残るほぼ旅館の宿
(山梨県)北の勢堂|現役の囲炉裏と共に過ごす甲州兜造の古民家宿
(長野県)井出野屋旅館|『犬神家の一族』でお馴染み。堅牢な建築により100年以上愛された宿
(静岡県)修善寺温泉 新井旅館|水を活かした美しい旅館建築
(静岡県)八百甚|昭和初期のまま目抜き通りに建つ街道旅館
(愛知県)玉田屋旅館|江戸時代から街道を見守ってきた旅籠宿
Column3 宿の照明に注目してみる
■近畿・中国・四国
(京都府)ゲストハウス糸屋|オーナーのセンスが光る京町屋ゲストハウス
(京都府)橋本の香|遊郭の面影を色濃く残す宿
(奈良県)奈良ホテル|古都奈良に馴染む明治の和モダン建築
(広島県)いんのしまペンション白滝山荘|宣教師の家として建てられた泊まれるヴォーリズ建築
(香川県)いしや旅館|短冊敷地をうまく利用した街道旅館
(高知県)岬観光ホテル|室戸岬に佇む和洋折衷の別荘建築
Column4 宿泊の作法を心得る
■九州
(長崎県)雲仙温泉 雲仙観光ホテル|外は山小屋、中は豪華客船!? スイス風クラシックホテル
(大分県)たけた駅前ホステルcue|城下町でお洒落に営む古民家ゲストハウス
(熊本県)球磨川温泉 鶴之湯旅館|球磨川のほとりに佇む木造三階建ての秘境宿
(熊本県)人吉温泉 芳野旅館|住居から料亭、そして旅館に。代々受け継がれるレトロ建築
(鹿児島県)伝泊 高倉のある宿|奄美の島暮らしを体感できる古民家宿
Column5 まだまだある!全国のレトロ宿
(岩手県)大沢温泉 湯治屋/(秋田県)乳頭温泉 黒湯温泉/(山形県)瀬見温泉 喜至楼/(千葉県)大屋旅館/(神奈川県)ホテルニューカマクラ/(神奈川県)小涌谷温泉 三河屋旅館/(山梨県)江戸屋旅館/(長野県)田沢温泉 ますや旅館/(長野県)万平ホテル/(長野県)別所温泉 旅館花屋/(長野県)渋温泉 歴史の宿 金具屋/(岐阜県)下呂温泉 湯之島館/(愛知県)蒲郡クラシックホテル/(京都府)白河院/(大阪府)天見温泉 南天苑/(熊本県)日奈久温泉 金波楼
本書に登場する宿年表
あとがき
著者紹介
ときやど 吉宮 晴紀千葉大学で建築を学ぶ大学院生。幼少期から家族旅行で各地を旅行し、様々な宿に宿泊してきた。小学生時代の高速道路のジャンクションの鳥観図に始まり、間取り図やパースなど立体的な絵を描き続けている。大学生になってから文化財の旅館の面白さに惹かれて情報サイトを開設し、併せて小学生のころ読んだ妹尾河童氏の『河童が覗いたヨーロッパ』を思い出しながら独自の断面パースで旅館の建物を記録してまわるようになった。Webサイト「時を感じる宿に泊まろう~ときやど」主催者、X(旧Twitter)「建築学生の呟き」運営者。
まえがき
■ときを感じる宿の世界へようこそ
この本の執筆にあたっては、はじめどの宿を掲載しようかとても悩みました。どの宿にもたくさんの魅力があって、しかもそれぞれが比べられないほど個性豊かなのです。
すべてに共通しているのは、長いときを経ていること、泊まれること、そして管理する方々の愛情が伝わってくることだと思います。すべてのサービスが同じように揃ったホテルが普及しつつある世の中にあっても、長い歴史を誇る宿たちは個性豊かな文化を保ち続けています。古いものが残っていて、それがいまだに見られるどころか宿泊、体験までできるのは、奇跡的なことだと思うのです。
しかし、宿の方は口々にこう言います。「古くてすみません」。確かに管理するとなれば、厄介なことも多いのでしょう。でもよくよく話を聞いてみれば、やはり工夫しながら大切にしてきた建物への強い思い入れが伝わってくる。手作業で作られ、手をかけて改修し、維持されてきた宿は、関わってきた人々の思いがところどころに可視化されています。建物を眺めるだけではなく、現地で接することで初めてその本当の価値が感じ取れるのではないでしょうか。
当然ですが歴史あるものをすぐに作り出すことはできません。伝統文化の消滅が止まらない昨今では、この「泊まれる文化財」をとにかく守っていかなければならないのです。
近頃は「映え」を追求する風潮が広まっていて、外側は映えても内側は同じような最新設備、という宿も増えました。いろいろな文化が写真を主軸にし始めていると感じます。しかし写真で長い歴史を表現するには限界があります。私が宿で撮った大量の写真では何かが足りない。歴史が刻まれた宿に感じる魅力を、もっと別の方法で表現できないか。そう思い写真とは違った情報の伝え方をスケッチに託したのは、コロナのせいで台無しになった大学三、四年生頃のことでした。物心がついた頃から道路の絵や路線図、ジャンクションの立体図などを描いていたので、描くことは自分の一部のようになっていました。観光業の苦境を目の当たりにし、宿の情報サイト「時を感じる宿に泊まろう~ときやど」を始めたのもこの頃です。
スケッチは、宿や建物についてより深く学ぶ機会をくれました。一方でその表現については当初葛藤がありました。私は細かく寸法を書き込んだり、横文字を入れたりした絵が性に合わず、はじめは色を付けることすら躊躇したのです。
写真にはない情報を含む表現とは何だろうか。あれこれと考えて、なかなか感じ取りづらい断面方向の情報をもっと取り上げてみようと思い立ちました。描き始めてみると、平面上しか移動できない人間にとって上下方向の情報はとても新鮮で斬新な世界であり、宿の歴史的な建物は、部屋だけでなく建物全体におもしろさがあることに気づかされたのです。最初の断面スケッチは下部温泉の湯元ホテル(104頁)で、不自然な廊下のズレをどうにか表現できないものかと10日くらい構想を練って、格安スキーバスツアーの復路で描きました。
私のスケッチには特に決まったスタイルがありません。通常は無地のリングノートかコピー用紙を持ち歩いていますが、画用紙、カレンダーの裏紙、障子紙に描いたこともあります。雲仙観光ホテル(162頁)のスケッチは、部屋に備え付けてあったホテルのメモ用紙に描いているため、その模様が天地に残っています。その時の気分によって使うペンを選びますが、筆箱そのものを持参し忘れることもあり、宿のボールペンを拝借して描いた絵が本書にも混ざっています。
まずスケッチを描くかどうか、そして構図をどうするか、遠近感をどう入れるかなどすべて現地で建物を見てから決めます。どの紙とペンを使うかもその時次第、そしてほとんど下書きもせずいきなりペン描きというのは、私の自由気ままな性格をよく表していると思います。
宿で過ごす時間を大切にしたいので、現地では長くても2時間程度でほぼ描き上げるようにしています。様子のわからない範囲や特に複雑な箇所がある場合は、宿の方に尋ねたうえで帰宅後に追加の調査をし、時間をかけて仕上げることが多いです。
私なりに真面目に、建物や歴史と正面から向き合って表現したのが、本書のスケッチです。色も付けてみました。私の絵や表現に好みが合わないという方もおられるかもしれません。でも、その先にある世界に興味を持ってもらえたなら、それが本望です。
ときを感じる宿の世界へようこそ。ぜひ本書を片手に泊まれる文化財を訪れて、スケッチと見比べてみてください。きっと想像もつかない発見があると思います。
時を感じる宿に泊まろう~ときやど 主催者
吉宮晴紀
令和六年三月
書籍概要
体裁:四六判・192頁(オールカラー)
定価:本体2000円+税
ISBN:978-4-7615-2885-0
発行:株式会社学芸出版社
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株式会社 学芸出版社
株式会社学芸出版社は、1950年に創業した京都市下京区に拠点を置く出版社です。
「出版を通じて社会を豊かにする」を理念とし、建築・都市・まちづくり・デザインなどの分野を中心に、年間50~60点ほどの専門書・実務書・教科書を刊行しています。