株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、6月に改正された食料・農業・農村基本法をふまえ、日本の食料生産・農業の目指すべき状態と、その実現のための方策について提言します。
1. 背景
2024年6月、食料・農業・農村基本法(以下、基本法)が約25年ぶりに改正されました。基本法改正後は食料・農業・農村基本計画の策定とその実行に焦点が移っていきます。基本法改正の目的であり、今後の政策展開上の最重要な政策目標の一つが、「食料安全保障の強化」です。今回、MRIでは、特に食料安全保障の観点から必要と考えられる日本の農業生産の目指すべき状態と、その実現のための方策について、提言を行います。
2. 本政策提言の概要
日本の農業生産基盤の弱体化が懸念されています。MRIの推計でも、成り行きで、2050年に耕地面積が270万ha(2020年420万ha)、農業生産額が4.5兆円(2020年8.9兆円)、農業経営体が18万経営体(2020年107万経営体)まで縮小し、カロリーベースの食料自給率は29%まで低下すると予想されます。
一方で、現状の日本の食卓は一定程度充実しており、足元の食料安全保障の状態に大きな問題があるわけではありません。しかし、万が一の有事の対応を考えた場合の日本の農業生産力・自給「力」は限界に近い水準にあります。農業生産の基盤である農地と農業人材を現状水準なみに維持することが、中長期での食料安全保障を維持するうえでは不可欠です。2050年に現状並みの食料安全保障の度合いを維持するために必要な農業生産基盤は耕地面積350万ha・農業生産額8兆円・農業経営体21万経営体と推計されました。今後の食料安全保障の観点からは、これらが最も重要な農業政策展開上の目標であり、農業生産の目指すべき状態を示すものだと考えます※。
※農業分野には、農業の成長産業化、さまざまなイノベーションの進展やその実装、一次産業から6次産業への発展やそれらを通じた地域の活性化、流通配送や卸売市場などのインフラやサプライチェーンシステムの改革、DXの導入など、さまざまな課題があります。本提言はそれらには触れず、あくまで、主に中長期先の有事を想定した食料安全保障の観点から最も課題になると考えられる農業生産基盤の確保に焦点をあてたものです。
図表 日本農業の長期ビジョン(成り行きの状態と目指すべき状態)
三菱総合研究所作成
この目指すべき状態を実現するために、三つの具体的な政策を提言します。
提言1:経営耕地集積に向けた法制度見直しと行政による支援の強化
提言2:農業人材・農業法人の農業生産力と経営力の育成
提言3:農業経営のデジタルデータ整備・DX化を通じた、経営状況の見える化と政策判断への活用
最後に、今後の農業のもう一つの大きな検討課題として、70万haにおよぶ余剰農地の有効活用についても考察します。この維持の在り方は、350万haの維持すべき農業生産基盤分もあわせて、どのような形で、どの程度の財政コストをかけて維持するのか、についての国民的議論と合意形成が不可欠になると考えます。本考察では財政コストも含めて、それらの議論の題材になる情報を提供いたします。
詳細はレポート本文をご参照ください。
3. 今後の予定
今後、食料・農業・農村基本計画の策定が進む中、MRIは総合的・科学的・客観的なデータに基づく分析を行います。また、農業生産の現場における知見に立脚しながら、社内外のさまざまなプレイヤーの視点を統合し、食料安全保障に向けた政策提言を継続し、中長期的な「豊かな食卓」の実現に貢献します。
レポート全文
食料安全保障の長期ビジョン 2050年・日本の農業が目指すべき状態 [3.4MB]
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