飲食店の新業態開発と物件選び・出店のポイント

飲食・宿泊2023.12.20

飲食店の新業態開発と物件選び・出店のポイント

2023.12.20

飲食店の新業態開発と物件選び・出店のポイント

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コロナ禍が収束の兆しを見せるなか、外食産業の立ち直りが本格化している。それに伴う店舗間の競争や既存店の収益改善などで、飲食事業者が既存店と違った新たな業態やブランドで出店する動きがある。

新業態を出店する場合、既存店と違ってどのような点に注意する必要があるのか。飲食店の店舗開発をコンサルティングしている株式会社店舗開発ジャパンの山添崇範氏に、新業態の物件選定や開発・出店で見落としやすいポイントと家賃の捉え方や交渉方法、居抜きとスケルトンの選び方、売上予測の立て方などを伺った。

目次

最重要項目はターゲットを見誤らないこと

現在、既存ブランドの出店でなく新業態を出店するのは、居酒屋のほか飲食事業を持たない異業種が多いという。

株式会社店舗開発ジャパン
専務取締役 山添 崇範 氏

専務取締役 山添 崇範氏(以下同)「具体的な数字としてどの程度伸びているかは別として、当社にも既存店の業績が伸び悩んでいるので業態を変えたい、もしくは変えることを検討しているという問い合わせがあります。これまでにはなかった相談で問い合わせをいただく業態としては居酒屋をされている方が多い傾向です」

既存店の売上不振や、ブランドの陳腐化、競合店の台頭など理由は様々だが、芳しくない状況からの脱却を狙った新業態への関心が高まっているという。とはいえ業態を変えたからといって、すべてうまく行くほど外食産業は甘くない。

新業態の出店で失敗しないために、最低限押さえておくべきポイントについて、これまで数多くの顧客に対して店舗開発・新規出店のノウハウを提供してきた山添氏に解説してもらったところ、山添氏が語気を強く一番に指摘するのが、「ターゲットを見誤らないこと」だという。

「当然ですが、業態を変えるということはターゲットが変わるということです。言葉にすれば簡単ですし、飲食業をされている方にとっては言われるまでもないと思われるでしょう。だからこそ、陥りやすい落とし穴があります。例えば、居酒屋だけをされてきた方が、昼の業態でカフェにチャレンジする際、自分たちの成功体験に基づいたマーケットの見方やリサーチで新業態も捉え、間違った選択をしてしまうことが多いのです」

そうした心理の背景には、「既存店の不振をひっくり返したい」といった思いが影響して、結果として思い切った新しい発想の邪魔をしてしまうという。

「だからこそ、過去に捉われずにターゲットはもちろん、コンセプトにはじまり立地や商圏、物件や店舗の内容などをしっかりとイメージして、まったく異なる業態でも成立するように新たな視点を持つ必要があるのです」
 

出店エリアの効率的な見つけ方

押さえるべきポイントと具体的な方法を確認していきたい。まずは、出店エリアの検討から。といっても、まだ店も出していないなか既存店の売上分析もできなければ、想定するターゲットに対して、どんな仮説を立てるべきか悩ましいところ。

「新業態の出店時に見るべきは、出店検討エリアで先行する他社の店舗です。それは同じ業種業態である必要はありません。例えば、新店のコンセプトに基づいたターゲットとして感度の高い女性の利用を考えた場合、ベンチマークとして見るべきお店は、飲食店だけではなく、ターゲット層が利用しそうなファッションや雑貨などを扱う店といった異業種がどこに出店するかです。さらに、出店した中でも売上がいいエリアがどこかもチェックします」

エリア分析に利用するツールとして山添氏が挙げるのが、総務省統計局が提供する国勢調査・事業所企業統計調査・経済センサスという3つの統計に基づいた地域分析ツール「jSTAT MAP」だ。マーケティングツールとしての使い方は、インターネット上でもいくつかの解説記事が参考になる。

「飲食店の商圏は徒歩圏で半径500mほど。「jSTAT MAP」では昼間夜間人口や年齢性別、事業者数といったデータが地図上に表示されます。さらに最寄り駅の乗降客数を見れば商圏分析ができると思います。他にも誰でもすぐにできるのがコンビニの品揃えのチェックです。コンビニはそれこそ全国何万件といったマーケティングをして出店しているので、その品揃えで、どのような地域が見えてきます」

例えば、東京港区の麻布十番のコンビニでは、ワインの品揃えが充実しているという。とすれば、ワインを出す業態は成立しやすそうだと見えてくる。また、レジの台数が多ければ、昼の行列が予想できるため、サラリーマンなどのランチやお弁当需要が多いといった実態も見えてくるという。

「エリアの分析と同様に、飲食店のチェックも当然必要です。繁盛しているお店、地域一番店をどんな人が利用しているかを見ることが大切です。地元で長く続く老舗の場合、自社物件や家族経営などで、利益が多くなくても続いている場合があるので参考にする際は注意が必要です」
 

よい物件に出会うには、未公開物件を待つよりも欲しい物件の明確化

出店エリアが見えてきたら、物件開発、物件取得の段階に入る。ここで大切なのは、「どんな物件を選べば自分たちの業態が成り立つか、客観的な数字やデータで定めること」だと山添氏は指摘する。

「当社のような物件開発の会社は物件情報のご提供をしていますが、『未公開のいい物件があったら教えてください』というお客様は多くいます。そこでどんなところを狙っているのか伺うと、『乗降客数10万人以上の繁華街』という漠然とした答えが返ってくることがあります。しかし、そういう街は日本全国に溢れるほどあります。さらに、未公開の物件はないかもよく尋ねられます」

そもそも未公開情報は、あったとしても超大手がすぐに確保してしまうか、個人的なつながりで決まることがほとんどだという。

「未公開物件を待っていては、いつまでも出店できないでしょう。それよりも、すでに出回っている物件をしっかり精査して、自分たちが勝てる要件が揃っている物件を見つければ、十分に勝つことができます。そうした明確な情報があれば、物件の情報が来たらすぐにアプローチできます。『これは我々が出店すべき物件だ!』となれば、他社に先駆けてアプローチできますし、その分、成約に至る可能性も高まります」

不動産業者やデベロッパーも、店側が欲しい物件の条件を明確に決めていれば、精度の高い物件情報を出しやすいのは当然だ。

家賃が高いか安いかを判断する方法

いよいよ物件の取得に向けてのアプローチだが、対象の物件が自分の業態にとって最適かどうかを判断する際の押さえるべきポイントを見ていきたい。まず、初期投資を減らせるイメージのある居抜き物件についてはどうだろうか。

「安易に居抜き物件を求めることは、私はあまりおすすめしません。居抜き物件は確かに初期投資を低く抑えられますが、すぐに設備が壊れてしまっては意味がないですし、何よりオペレーションに課題が出やすいです。自分たちの理想とするレイアウトではないので、ホールやキッチンの人員が想定より1人多く必要になったり、手間が増えたりもします。それがボディブローのように利益に関わり、料理の提供スピードが少しずつ遅れることにつながり、客数減にもなってきます」

裏を返せば、ファストフードチェーンが極限までオペレーション効率を高めることに投資するのは、日々の生産性の向上が利益につながるからに他ならない。物件を判断する際、最も大切なのはなんと言っても「売上予測」だと山添氏は断言する。

「例えば、家賃が高いからと見送る方がいます。もちろん売上予測や収支予測をしっかりした上で『高すぎる』と判断したのなら適切です。ただし、世の中のいい場所というのは家賃が高いものです。仮に自社の標準的な既存店の売上が1,000万円だとして、その場所では1,500万円の売上予測があれば、家賃を1.5倍出しても商売として成立します。高いことだけを理由に見送るのも、いい物件との出会いを遠ざけます」

これとは反対に物件との出会いに運命を感じて、精査しないまま「いい場所だし、ここなら絶対いける!」という気持ちだけで出店した場合、「結局は家賃が高すぎて儲からないということもあり得ます。事業計画の売上予測を高く見過ぎてもダメですし、低く見積り過ぎても出店できません」と山添氏は指摘する。

根拠のある売上予測は、家賃交渉にも役立つ

明確な根拠に基づいた売上予測があると、物件オーナーとの交渉にも役立つことがあるという。

「例えば、売上予測の10%までしか家賃は出さないという基準があるとします。1,000万円の売上なら家賃は100万円までです。出店したい物件の家賃が120万円のときに、物件のオーナーに『家賃が高いので、100万円になりませんか?』と聞いたところで、取り合ってはくれないと思います」

こうした状況で、しっかりとした事業計画に基づいた売上予測があると、交渉ができるという。例えば、次のようなシナリオも想定できると山添氏は言う。

「既存店の売上が900万円で、その場所よりもこのエリアはマーケットも大きく、席数も多く取れるので売上1,000万円はいきます。一方で、私たちの店は他の店よりも原価をかけて美味しい料理を出しているので、家賃は売上の10%までを基準としています。ですから100万円までしか出せません。家賃100万円でなんとか契約してくれませんか。こうした交渉ができれば、契約ができるかは別として、オーナーも話のテーブルには乗ってくれるはずですし、場合によっては売上が1,000万円を超えた場合は歩合でといった話が引き出せるかもしれません」

あらためて、新業態出店時の物件選定ポイントをおさえよう。
1. 既存店の成功体験にとらわれず、新たな視点でターゲットやマーケットをリサーチする
2. 新業態の店舗コンセプトや強み、メニュー、客層などを決めてから物件を探す
3. 出店エリアでは、飲食店はもちろん、ターゲットが利用する飲食以外の店の客層、商品、価格もチェックする
4. 売上が出るエリアは家賃も高くなるため、家賃が高いだけで諦めず売上予測を立てる

外食産業が回復期にある今、新業態でさらに外食全体を活性化して、外食を楽しむファンを増やすいいチャンスでもある。丁寧な準備をして勝負に臨むことが、新業態を成功へと導く。

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株式会社店舗開発ジャパン

本社所在地:東京都新宿区西新宿1-24-1 エステック情報ビル18F
代表者: 代表取締役社長 野中 知明
公式ホームページ:https://store-dj.co.jp/

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