給与・休日は業界平均以上。経営理念の明文化で、ホワイトな飲食企業の秘訣に迫る~銀の葡萄

飲食・宿泊2023.09.20

給与・休日は業界平均以上。経営理念の明文化で、ホワイトな飲食企業の秘訣に迫る~銀の葡萄

2023.09.20

給与・休日は業界平均以上。経営理念の明文化で、ホワイトな飲食企業の秘訣に迫る~銀の葡萄

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大阪を本拠として、おしゃれなラーメン店を主体とした飲食店を展開する「株式会社銀の葡萄」は、2007年創業。2023年7月現在で、海外FC16店舗を含め34店舗を展開し、従業員を300名近く抱えている。

「麺’s room 神虎」は豚骨系、「鶏 soba 座銀」は鶏白湯系、「〇de▽(マルデサンカク)」は鯛白湯系と、それぞれスープに特徴的な業態を持つだけでなく、ソフトクリームをトッピングさせたラーメンで知られる「中華そば・焼きめし フラン軒」など、とにかく話題性に富んだ店舗を運営している。

それも道理というべきか、同社では「世界一かっこいいラーメン屋」を使命として掲げている。年間休日108日(業界平均では72日)、離職率は6.8%(業界平均は26.9%)だ。従業員の満足度が高いという調査結果も出ており「ホワイト企業」を自任する銀の葡萄はいったいどんな企業なのか。

目次

2回の退職…。取締役の履歴から見える社内風土

株式会社銀の葡萄
取締役
飲食事業部 部長
上村 京介 氏

お話を伺ったのは同社の取締役で飲食事業部長でもある上村京介氏だ。その経歴をきくと上村氏のスタンスとともに、会社の企業風土が見えてくるようで興味深い。

「いま会社は16期目を迎えていますが、その前半7~8期までの間に、じつは私は二度退職しているんです。というのも、社員が言うべきことではないのですが、社長と意見が対立することが多かったからというのがあります。もちろん尊敬していますし、同じ目線であるはずもないのですが、自分が負けず嫌いでもあって勝手にライバルだと思っていたのです」

その事実からは上村氏の心意気が見て取れる。さらに面白いのが、二度とも会社に戻っているという点にある。

「何かのおりに意見が衝突すると、負けたくない気持ちが出てしまい辞めることになるのですが、どちらの場合も戻りたいのであればぜひ戻ってこいと社長に言っていただき、復職するわけです」

ここからは、自由でかつ懐の深い企業風土が感じられる。その後、上村氏は現場に復帰し、やがて取締役となり、飲食事業の店舗開発や商品開発、人事を総括する現職に就いている。

「こちらも特殊な形だと思いますが、管掌(かんしょう)する業務に関しては社長がやりたいことを私が形にしていくというのがメインですが、私がやりたいことをやらせていただいていることも少なくありません」

人手不足などの業界の課題は銀の葡萄では課題ではない

驚くべきことに銀の葡萄は、深刻な人手不足と、それによる離職率上昇や採用コストの高騰といった、昨今の飲食業界が共通して抱える課題とは無縁であるという。

「弊社では幸いなことに年間休日は108日(業界平均は72日)、離職率も6.8%(同26.9%)、労働時間は200時間以内(同250時間)、平均給与も35万円超(同26.4万円)を維持していて、業界の共通課題とは若干距離を置くことができています」

なぜそれが可能なのか。そのカギは企業理念にあるという。銀の葡萄のミッション、ビジョン、バリューは以下の通りだ。

ミッション=使命 世界一かっこいいラーメン屋/食と心で笑顔と幸せを
ビジョン=目標 物心ともに充実した客観的ホワイト企業
バリュー=価値観 1.NO ENJOY NO VALUE
2.プロとして結果を出す
3.礼節 日本代表
4.ONE TEAM
5.安心・安全、5Sの徹底
6.100年企業


「このミッション、ビジョン、バリューを総称してクレドと呼んでいますが、まずはクレドを明確な形で掲げています。ただし、どれだけクレドを高く掲げても、これを様々な現場で実施していくのは難しいことです」

マニュアルをしっかり定めていても、たとえば年輩の方が来たらお茶を出す、お子さんがきたらお菓子を渡してあげる。小さな商店であれば誰もがやりそうなことも、マニュアルとして作ってしまうとできなくなってしまう。

「マニュアルの後ろにある『理念』が忘れられてしまって、逆にマニュアルに縛られてしまうからなのでしょう。端的にいえば労働時間の問題も同じです。ほんの数年前まで、弊社では休みが取りづらい環境がありました。一切休みのない状況でした。休みたいといっても『へぇ、休むんだ?』や休憩をとろうとすると『ショボ!』などと言われてしまう。私には4歳の娘がいるのですが、考えてみれば4年前までの12年間は、有休もなし、休むに休めない暗黒時代が続いていました」

もちろんその頃でさえ、誰もがその悪弊に気づいていたはず。休めば効率もモチベーションも上がる。しかし、周りが休まない風潮があるために自分も休めないという悪循環があった。

「もちろんその間も、社内的には休みを取ろうとか、働き方改革などという言葉は行き交っていました。要するに、まったく意味のないスローガンになっていたんです」

責任ある立場に立ったとき、上村氏はこう考えたという。

「いくら公明正大なクレドを掲げたところで、現場に落とし込めなければ意味がない。とはいえ明文化して誰もが読める物でなくては、従業員の隅々にまで伝播しない」

そこで現在では毎年作成している、経営計画書の作成を思い立ったという。それが、業界の共通した課題とは無縁でいられる体質に変化する第一歩だった。

約70ページの経営計画書に盛り込まれた想い

同社では決算を経て、10月に新たな期がスタートする。このとき経営計画書が策定され全社員に公開されるという。

「この計画書には、弊社のすべてが盛り込まれています。まずは社名の由来から始まり、クレドについて書かれています。ただしそれだけでは、表現として抽象的であり過ぎます。それを読み進めていくことで、解像度を上げていく工夫がなされています」

ミッション、ビジョン、バリューに続いて、経営計画書の重要性が説かれ、長期目標や施策が提示される。さらには出店、退店、改装といった展開する店舗の情報が書かれ、ついには仲間との距離の取り方、お客様との付き合い方、身だしなみ、挨拶、悩みへの対処方法など、非常に細かいところまで丁寧に記述されている。

「決められた言葉を発するのではなく、お客様の1人ひとりに応じた声掛けが必要であると思わせる内容になっています。全70ページにわたる読み物になっていますが、これを読み通すことで会社の理念が、難なく体現できるような作りに仕上げています。いわば日常的な振舞いで、会社の理念を表現できる。そういう内容を目指しました」

たしかに経営計画書を読み込むことで、末端の従業員であっても判断が可能になるような書き方がなされていて、一般的ないわゆる手順やルールをまとめたのみのマニュアルとは性質の異なる手引きとなっている印象だ。

「この計画書を、あらゆるシーンで活用しています。採用時にはもちろん、オリエンテーションの際にも、各レベルのミーティングでもこの計画書にそって話題や議題が組み立てられます」

様々な場面で繰り返し計画書の内容が語られることで、より理解が深まり、意識の向上へと繋がっていく。

絶え間ない見直しと修正が従業員のモチベーションに

ただし、この経営計画書は一度作れば終わりというものではないようだ。

「変化のない指針は、いわゆるマニュアルと変わりありません。細かい修正を入れていかなければ、必ず形骸化していまいます。そのため毎期、経営計画書を公開したらすぐに、次の計画書作りはスタートしています。少なくとも1週間に一度は見直しをおこなって、現実と異なるところがあれば、すぐにメモに残して修正し、また現場での変化を観察する。これの繰り返しです」

そのためにも経営陣は現場を見て、報告を聞き、様々な機会を捉えて現場従業員の声を拾い集めているという。また、この計画書のみならず、同社では様々なものを公表していると上村氏はいう。

「役員報酬から様々な決定やその変更なども、理由をそえて余すことなく公開しています。何も隠すことがないからです。もちろん従業員の指摘で計画書を修正する際も、『ごめん間違えていた、こう修正しました』と伝えています。自分たちの声が届いているのだということを知ってもらうことも、モチベーション向上には必須だと思うからです」

同じ文脈で、人事評価制度も公表されている。

「弊社の評価制度では、業績に関わる評価は全体の50%であり、残りの50%はクレドの理解浸透度によるものだということも伝えています。業績は本人の実力以外の要素に左右されることが少なくありません。それよりは人間的な成長の部分を評価していくほうが、やがては業績にもつながると考えているからです」

社員の成長を促し、評価し、さらにモチベーションへとつなげていく。その成果は従業員満足度に如実に表れている。

「2年ほど前に匿名で満足度の調査を行ったことがありました。そのなかで顕著だったのが、社歴のながい人ほど不満が多いということでした。もちろん無視することなく、評価制度のなかに年功的な要素を、もっと取り入れる必要があるとは思いました。ただし、古い人ほど変化に対応しにくいことも明らかです。それだけ新しいことをやっているんだという証拠でもあると考えています」

そのなかでうれしい報告もあったという。

「弊社を退職した人たちでつくる口コミサイトがあって、それをみたスタッフから『ものすごく悪い口コミは少なかった』といわれました。主に人間関係についての口コミはあったけど、組織にとって致命的となりうる口コミはなく、それはとてもうれしいことでした」

同社の掲げるホワイト企業への道を着実に進んでいると見ていいのか。これに対して、上村氏はいう。

「ホワイト企業であっても離職率が高まりつつある、と昨今よく言われます。それはなぜかと考えたときに、従業員が要求しないからではないかと考えています。例えば、目標もなく働いていて楽しいとは思えません。労働時間は緩和され、休みもあって、給料もそこそこもらえるけど、そこにやりがいがなければ楽しくない」

当然、その状況が続けば存在意義が感じられず、変化を求めるために「辞めようか…」という意識に変わっていく。そういう循環は企業にとっては意味がない。

「だからこそ働く側としては、多少の満足を得たときに、さらに高みを目指すために仕事を要求する。待遇を要求するべきです。そうなれば当然、私たち経営サイドも、要求に応える必要があります。行き過ぎていると思えばブレーキをかけますし、余力があるとみればさらなるアクセルを踏む。従業員からの要求を高めるような施策も、今後仕掛けていきたいと思っています」

最後に、上村氏が外部に向かって、自社の取り組みを伝える意味を尋ねてみた。

「やはり飲食業界の現実と未来が懸念されるからです。人手不足と、それによる負のスパイラルから抜け出す方法は、まだまだあると思っています。弊社の取り組みが成功事例と言えるかどうかはともかく、1つの方法だと考えています。手助けになるなら、いつでも弊社のやり方をお伝えする用意はあります」

経営指針を「明文化」し、施策の「可視化」を進めること。そして決めたことを不断の働きかけで「継続」していくこと。
少なくとも、それがホワイト企業への第一歩となるのは間違いなさそうだ。

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