中食業態の市場規模は微減、コンサルニーズも鈍化
コロナ禍における巣ごもり需要で軒並み業績を伸ばした感のある中食業態だが、コロナ収束後にマーケット自体に変化が現れているであろうことは十分に予想できる。その推移を、船井総研外食グループマネージャの石本氏がこう指摘する。
石本氏「コロナ禍のピーク時と比べると、マーケット全体がやや飽和状態にあるように思います。外食についての制限が緩和された分、若干消費ニーズが減り、それに伴って出店数も微減しているという印象です」
傾向は数字にも表れており、船井総研の調査によれば2022年のデリバリー業態の市場規模は全体で7489億円ほど。うち2大プラットフォーム(出前館とUber Eats)が全体の6割を占めている。
成長比率で見ると2019年までは2~6%の増加だったものが、2020年には50%増、2021年にはさらに26%の伸びを示した。2022年には逆に5.3%のマイナス成長となっているが2019年との比較では、全体で79%増となっており、そのマイナス分は微減と言えそうだ。
その分、当然のことながら飲食業界全般のコンサルを求めるニーズは増えてきている。そのコンサルニーズから見ると、中食業態はどうなのか。
石本氏「外食に限っては、コンサルのニーズは徐々に回復傾向にあると言えます。ただし中食については、外食コンサルティングと比べると伸びが見えない状況です。鈍化傾向にあるといっていいでしょう」
期待されるクイックコマースとしての伸長
このまま市場規模が縮小を続けることになれば、中食業態はコロナ禍における特需の影響だったという結果に終わってしまう。一時的な特需だったかどうかについて、飲食コンサルの現場に立つ機会の多いコンサルタントの金林氏はいう。
金林氏「中食業態ではいまスイーツに力をいれる方向にあります。既存の居酒屋やレストランが、すでにスイーツのデリバリーを始めていて、そこにアイドルタイムを強化したいという事業者側からの需要と、エンドユーザーからのスイーツ需要も相まって、すでに各プラットフォームではスイーツを強化しています」
さらに金林氏はこのスイーツ需要から、近く別のニーズが定着していくとみている。
金林氏「業界ではクイックコマースと言いますが、食品だけでなく雑貨の物販など、全体のデリバリー需要が高まっていて、いまコンビニの参入が相次いでいます。それに乗じた形で、飲食店もデリバリーの価値を高めていくことが可能になります。さらなる業績アップは期待できると思っています」
食品をテイクアウトやデリバリーで提供する中食業態から、物販も含めたテイクアウト・デリバリー業態に推移していくことが、市場規模拡大に求められる条件ということなのだろう。
ゴーストレストランとは?経営する上での注意点
コロナ禍で勢いを見せた飲食業態の中に、ゴーストレストランという業態がある。実店舗を持たないことで新規参入が容易になり、アイドルタイム回避策としての効果も期待できるため、既存の飲食店からも一時期脚光を浴びたが、今後の市場ニーズはどのように変化していくのか。
金林氏「様々なブランドを展開しているゴーストレストランも少なくないので、戦略さえきちんと策定すれば、もちろん成長が期待できる業態だとは思います」
さらにはデリバリーの2大プラットフォーム(出前館とUber Eats)が普及したために、耳や目になじみのある大手デリバリー店が選択されやすくなっている。
金林氏「政令指定都市であれば、注文する住所に届けてくれる店舗は1,000を越えてしまいます。そのうち20%を大手チェーン店が占めます。ましてや通常飲食にくらべてデリバリーは割高なイメージがあるので、それだけ消費者には、1回のデリバリー注文を失敗したくない、という心理も働きます」
業界内におけるゴーストレストラン業態のニーズが高い一方で、一般消費者にとって『ゴーストレストラン』というもの自体、あまりなじみがなく良い評価ばかりではない。
金林氏「いまの消費者はネットで善し悪しを判断する習慣が身についているため、その審査の目が厳しくなっています。いわば本物志向が根付き始めていると言えます。ゴーストレストランは、その特徴からして、消費者の目には見えにくい業態のため、どうしても不信感を持たれてしまいます」
不信感の払拭こそがゴーストレストラン飛躍のカギ
ゴーストレストランが大きく飛躍するには、不信感を取り除くことが必須となりそうだ。そのためにどんな施策が考えられるのか。
金林氏「成功しているゴーストレストランをみていくと、最初に特定の企業とコラボした商品を展開するケースが多く見られます。まずは有名店のブランドをフランチャイズで借りてくるなり、コラボするなりして認知を高めてから、自社サイトに消費者を誘導する戦略をとっています」
とはいえ、そうして誘導されたユーザーがゴーストレストランの会社情報を見ると、雑居ビルやマンションの一室であったりすれば、やはり不信感の払拭には至らない。
金林氏「その場合は『○○の厨房内』などと書くことで本物感を印象づけられます。あるいは住所より『◎◎キッチン』という名前に引っかかるようなSEO対策も必要になってきます」
また、デリバリーを注文したお客様に、必ず手紙を付けて「こういう調理工程で作っています」など、安心感につながるアピールをしていくことも大事だという。
金林氏「その他にやるべきことは、普通に店舗をオープンさせるのと同様ですが、インフルエンサーを招待してSNSで認知度を上げていく。ホームページも、フードデリバリー専門のお店であること等の情報を記載して利用者に安心感を与えるなどの運用を目指すべきでしょう」
原価の高騰がストレートに響くデリバリー業態
人材確保と原価高騰の課題は、外食・中食関係なく、否応なしに直面させられる。むしろ中間業者をはさまない分、中食はストレートに影響を受けてしまうのではないか。
石本氏「デリバリーが主の形態であっても、体験型の価値を提供できるイートインがある業態の場合は、商品開発も値上げも比較的スムーズに実施できます。ですが中食の場合は、なかなかストレートに値上げにシフトできません。価格の壁があり、単価を上げても売上が微減していく、という構造に陥りがちです。人件費を圧縮して利益を残すという形にならざるを得ないのではないでしょうか」
そのような中でどんな生き残り策が考えられるのか。石本氏は次の3点を挙げる。
石本氏「1つ目はブランド数を増やすこと。2つ目はオウンドメディアで高単価商品を訴求すること。そして3つ目は冷凍技術を活用することが必須でしょう。いろんなブランドを持つことによって受注率を増やすことになります。高単価商品を増やせば、その分売上に跳ね返ります。大事なのは冷凍技術をいかに活用するか、になってきます」
いまや中食業界では、様々な具材を冷凍保存しておいて、組み合わせに応じて解凍し提供する形が当たり前だという。
石本氏「冷凍技術を駆使して事前調理が可能になれば、ゴーストレストランとしても生産性の向上が見込めるだけでなく、大がかりなキッチンが不要なので、人件費や家賃などの固定費も削減できます。規模を拡大するにつれて、キッチンの大型化と言うよりは、むしろストックスペースの確保という意味での設備投資に移行していけばいいのです」
ゴーストレストラン業態の今後は?
最後に、この業態に対する期待や展望を聞いてみた。まずはコンサルタントの金林氏がこう話す。
金林氏「ゴーストレストランへの参入は、初期投資が少ないぶん私は有効だと考えています。戦略的にプラットフォームを活用して自社サイトに呼び込み、売れるブランドを増やし続けるのが理想ですが、あとは戦略を練るほど売上げに繋がっていきます。いまはキッチンだけを貸す企業も多く、参入への障壁はありません。料理の味に自信があれば、ぜひ選択すべき業態だと思います」
石本氏は、別の視点からこう提言する。
石本氏「テイクアウト・デリバリーといった中食やゴーストレストランと業態に限らず、エンドユーザーの趣向が多様化していることをまずは把握すること。さらに趣向に沿ってエスカレートしていくニーズを獲得するために、商品開発に向けた不断の努力が必要でしょう。同時にユーザーの利用動機をこちらが率先して作ることもマーケティングとして必要になってきます」
船井総研では、その過程でのあらゆるサポートを全面的にしていくという。その姿勢からも、中食業態はまだまだ可能性を秘めていると言えそうだ。
株式会社船井総合研究所 地方創生支援部 外食グループ
マネージャー 石本 泰崇 氏/コンサルタント 金林 健登 氏
中食事業の開発や飲食店・総菜店・仕出し店・ホテル・小売店などの活性化のほか、赤字企業のV字回復に向けた即時業績アップ、外食企業の中食事業参入や外販事業部構築、不振店のテイクアウト・デリバリー専門店転換など実績多数。