今夏の時点で14業種が値上げを発表
原材料価格の高騰は、今に始まったことではない。2021年の春にも、大豆や小麦など輸入作物の高騰で油や砂糖などが値上げとなり、日本食糧新聞の調査によれば同年6月29日の時点で、食用油やマヨネーズ、家庭用パスタなど少なくとも14種の食品も値上げされている。
原材料の高騰は今後もあらゆる食品に影響を及ぼすとみられ、菓子業界でも流通向けに値上げのアナウンスがあったようだ。製パン業界にとっても今回の輸入小麦価格改定は影響が大きいが、現場からは「安易な値上げには踏み切れない」との声も聞かれる。
田中氏によれば、そもそも製菓・製パン業界には、原材料価格の高騰にかかわらず価格転嫁せざるを得ない背景があったという。
「この業界の事業者は、今まで高い原価率と低い人件費を前提としていました。特に製造部門で働いている人は修業的な意味合いも強く、低賃金の長時間労働が当たり前でした。
それがここ数年で働き方改革や、労働基準監督署からの指導もあり、労働環境の部分にもメスが入るようになったのです。
その過程で人件費が上昇し、ただでさえ利益が薄くなっているところへ、小麦やバターなどの原価も上がってきたので、もはや価格転嫁せざるを得ないのが現状なのです」(田中氏 以下、同氏)
消費者の「プチ贅沢」志向を見逃さない
しかし、菓子業界では比較的、価格転嫁がしやすい状況にあるという。
「コロナ禍のステイホームで、ちょっとした贅沢を楽しみたいという『プチ贅沢』への需要が高まっているからです。昨年は高額なケーキなど、洋菓子の売れ行きが好調でした。百貨店は時短営業や休業の影響で売上がふるいませんでしたが、地域の菓子店では『ちょっといいものを食べたい』という消費者の需要を背景に、販売価格を上げていこうという流れがあります」
製菓業界では高額商品だけでなく、低価格のシュークリームなども好調で、「価格が二極化している」。いずれにしても製菓業界では現在、値上げにお客様がついてきている状況なので、まずは新商品や季節商品などから段階的に価格を上げていくべきという。