withコロナで急伸するフードデリバリー事情
全国に緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、休業要請を受けた飲食店の多くがテイクアウトやデリバリーに踏み切った。イートイン営業ができない間の、あくまで一時的な手段だと考えていた経営者も少なくないだろう。だが長引く新型コロナウイルスの影響は、消費者の行動に変容をもたらし、食のスタイルを多様化させている。
テイクアウトやデリバリーはもはや、中長期的な視点で売上を得る新たな軸として捉えなおす必要がある。国内最大級の出前注文サイトを運営し、宅配代行サービスを提供している株式会社出前館の営業本部長、山本裕司氏は「デリバリーは、従来のイートインだけでは獲得できなかった新たな顧客を獲得できる有益なソリューション」だと語る。
「コロナ禍以前から、単身世帯の増加、女性の社会進出といったライフスタイルの変化によって、テイクアウトやデリバリーを含めた中食の市場規模は拡大傾向にありました。過去10年のデータをみると、その成長率は、外食市場の約5倍です。これまで主流だった電話での注文よりも手軽に頼めるオンラインオーダーの普及で、消費者の利便性が高まったのもデリバリーが盛り上がった理由のひとつでした」
出前館の加盟店舗数はこの1年間で1万店舗以上増加し、2020年7月に3万店舗を突破している。自前で配達できる宅配ピザや弁当などの大手チェーンのポータルサイトとして展開してきた出前館は2017年から配達代行サービスに本格参入。
人員やバイクなどの既存リソースがある新聞販売店や宅配寿司チェーンなどとの業務提携で、配達の品質を保ちながらサービス対象エリアを拡大している。代行によってこれまで配達に自店の人員を割けなかった中小規模の店舗もデリバリー可能となった影響は大きい。
緊急事態宣言下の4月は出前館への新規加盟申し込みが殺到し、登録待ちが発生する状況だった。現在は体制を整え、申込みから最短1週間でデリバリーサービスのスタートが可能となっている。
「デリバリーはイートインで提供できる、店舗の空間や接客といった要素がありません。価格×提供する商品=お客様が得る満足感での勝負で、いかに売上をつくっていくかが成功の分かれ目になります」
では、デリバリーをはじめる際、具体的にどういった点に気をつければよいのだろうか。
デリバリーならではの価格設定やメニュー選定
デリバリーをはじめる際にまず決めなければならないのが、メニューの内容と価格だ。消費者の視点で、同エリア内にある似た業態の店舗と比較しておこう。
●価格
「お客様が、高いと感じてしまうとチャンスロスになりかねません。商品は、原価率を抑えることができるものを用意しましょう。1品ごとの価格が低くても、最低注文価格を設定し、トッピングやサイドメニューを組み合わせて単価を上げることは可能です」
●メニュー画像
「対面販売ではないので商品画像は非常に大事です。できるかぎりアップで臨場感のある画像を掲載し、撮影角度なども工夫しましょう」
●提供時間
「デリバリーは、客からの注文を受けてすぐに調理にとりかかったとしても、配達員が取りにきて客に届けるまでの時間が必要です。この待ち時間があっても満足できる温かさやおいしさを保たなくてはなりません。
少々時間が経っても劣化しない、調理に時間をかけなくて済むといった観点からオペレーションしやすいメニューを組み立てましょう」
●看板メニュー・目玉商品の設定
「看板メニューがあるお店はデリバリーに強い傾向があります。自店のターゲットとする客層やメインメニューの単価によって、ラインナップは変わると思いますが、デリバリーでは、単身者やファミリーが日常使いできるメニューが人気です。
出前館を実際に利用しているある店舗では、使用期限の近い食材で日替わりの半額セールといった目玉商品を企画しています。日替わりメニューはユーザーにとっても、『今日は配達に時間がかかっていて無理そうだけど明日なら注文してみようか」という意識を持ちやすいようです』
デリバリーは飲食店のニューノーマル
出前館で実施したアンケートによると、ユーザーがデリバリーに最も求めていたのは『できたての状態で崩れず温かいままの料理が届くか』だった。どんな工夫をしても、最終的に大事なのは、料理がおいしく楽しめるかにつきるようだ。
また、配達員の身だしなみなどの清潔感や、時間どおり届くかといったことは、届けるスピードよりも重視されていた。配達に人員が割けない店舗は、配達代行をうまく活用して、調理に集中するのも戦略といえるだろう。
デリバリーは、実店舗で客数が減る雨の日に売上を確保できるといったメリットがある一方で、バイクの購入や人件費といったコスト面がこれまではネックになっていた。だが、集客から配達代行まで成功報酬型で請け負うデリバリーサービスがいくつも登場し、中小規模の飲食店でもデリバリー参入のハードルは下がっている。タブレット1台あればデリバリーを始められる時代だ。ぜひ1歩踏み出し、新たな売上を獲得してほしい。
株式会社出前館
お話:営業本部 本部長 山本裕司氏
大学卒業後、株式会社スズキスポーツに入社し、営業部開発グループに配属。2006年、株式会社タジマモーターコーポレーションに入社し、営業部輸入車グループにて販促企画や、媒体制作、販売業務に従事。2008年に夢の街創造委員会株式会社(現・株式会社出前館)に入社。営業開発グループにて新規店舗開拓担当、その後、コンサルティングセールスグループにてクライアント向けに出前館の売上増施策を提案し、貢献。リーダーやグループ責任者を経て2017年、執行役員 戦略企画本部管掌 戦略企画本部長に就任。2018年より現職へ。
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