日本の労働者と消費者は、20年後に2割、30年後に3割減少
今や、飲食店の大半が抱えている深刻な人不足の問題。飲食業の年間離職率は30%で、全産業の平均15%の倍に上る。危機感をもって対策に取り組んでいるところも少なくないはずだ。それは大切なことだが、前提として、社会的な背景を含めた人不足の原因や、離職に伴うコストを正しく理解しておく必要がある。
まずは、飲食業界だけでなく、日本全体として働く人の数が今後どれだけ減っていくか知っておきたい。15~64歳の生産年齢人口は、2020年の約7406万人から減少していき、10年後に7%、20年後に19%、30年後の2050年は29%減った約5275万人になると推計されている。
つまり、30年後には働く人もお客様も現在の3分の2にまで減ってしまうということだ。人口減少の問題は自然に解消されることはなく、悪化の一途を辿ることが確実視されている。まずはこの減少幅を把握することが重要だ。
一人あたりの離職コストは100万円以上
次に、企業における人材の離職コストについて見てみよう。例えば、お店のスタッフを一人採用すると、100万円以上のコストが発生するといわれている。この内訳は、求人広告費のほか、就労・教育に要した時間的コストが含まれる。
就業期間が長く役職の高いスタッフほど退職した場合の損失は大きく、店長クラスでは400万円に上ることもある。こういったリアルな数字を目の当たりにすると、「辞めてもまた採ればいい」という考えがいかに無謀かを実感できるだろう。
では、どう手を打てばいいのか。その答えは明確で、「人材が定着する組織を作る」ことに尽きる。次項からは、具体的な方法について考察を深めていこう。
人材が定着する“仕組み”を作る
従業員が望む制度は、教育と評価
人が辞めない組織を作るうえで重要なことは、現場ではなく本社で制度やプログラムなどの仕組みを整えることである。なかでも、お客様と接する機会が多いアルバイトスタッフに向けた仕組みの構築は、多くの飲食店にとって喫緊の課題だろう。
ホスピタリティ&グローイング・ジャパンは、サービス業で働く人に対して“辞めない理由”を聞いたアンケート調査をまとめた。
1位 | 良好な人間関係 |
2位 | 充実した教育制度 |
3位 | 明確な評価制度 |
4位 | よい労働条件と環境 |
5位 | 働きやすいシフト |
1位「良好な人間関係」と4位「よい労働条件と環境」は、従業員各自の人間性やライフスタイルなど個人的な要因によるところが大きく、仕組みで改善することは難しい。
2位「充実した教育制度」や3位「明確な評価制度」などの制度を整えたうえで、その結果として改善に繋げることが大切だ。
また、もうひとつのアンケート調査「人が辞めない会社の共通点」を次ページに示そう。これは年間離職率が20%以下となる企業の社長に社内制度を聞き、共通項をまとめたものだ。15のアクション項目があるので、チェックしてみてほしい。