食における「ハラール」の概念
ハラールとハラームについて、「アッラー(唯一神)が創造したものは基本的にハラールだが、豚など一部例外的に禁止しているもの、ハラームがある」というのが最も簡単な説明です。この「ハラール」と「ハラーム」の区別に関しては、動物、水生動物、植物その他において細かな決まりがあり、さらに学派によって解釈が異なるものがあります。
ハラールの条件として、一般的に
・陸上動物ではイスラム法に則った食肉処理をしていること
・人間にとって有害、または不快感を与えるものでないこと
・意図的に継続してイスラム法で不浄とみなされるものを含んだ餌で飼育されていないこと
などが挙げられます。
基本的に魚、植物は有毒でなければすべてハラールです。キノコ、天然鉱物、物質、飲料はすべて有害でない限りハラールなのです。ただし、同じ家畜・水産物・植物でも、自然な状態の餌や肥料を与えられているものは「ハラール」ですが、イスラム法で不浄とされる餌を与えられた物は、「ハラーム」になってしまします。
ハラール ◎ | ハラーム ☓ | |
陸上動物 | 鶏、牛、羊など (ただし、自然の状態で育成され、イスラム法に沿った食肉処理がされているもの) |
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水生動物 | 天然の魚、エビなど (ただし、自然な状態で育成されたもの) |
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植物 | 無農薬野菜、天然キノコ、コショウ、ピーナッツなど (ただし、自然の状態で栽培されたもの) |
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飲み物 | 天然水、果汁100%のオレンジジュースなど (人体に有害でないもの) | アルコール入り飲料 |
近年では効率よく飼育・生産する事に重点がおかれ、遺伝子組み換え食品や合成飼料など、自然の状態から離れた環境で作られたものが増えています。その結果、本来ハラールであったものがハラーム化しているといえるかもしれません。
食における「ハラームの概念」
イスラム教の戒律で食の禁忌と聞くと、まず思い浮かぶのは豚やアルコールの飲食を禁じるということではないでしょうか。一般的に、ムスリム(イスラム教徒)はこの豚を使用したメニューを食べることはありません。しかし日本では豚肉を使ったメニューが豊富ですし、アルコールは飲料としてだけでなく調味料としても多用されています。
では明らかに豚肉であるとわかるものだけ避けていればいいというわけではありません。ムスリムは、豚肉だけではなく豚由来の原料や食品添加物も摂取することができないのです。フードビジネスにおいて豚はとても便利な存在であり、少なくとも185に及ぶ成分や物質に姿を変え加工され、使用されています。ゼラチン、乳化剤、動物性油脂、グリセリンなどはその代表的なものです。皆さんがスーパーなどに買い物に行かれた際に、パッケージ裏の表示を見てください。様々な添加物が書かれています。その中にいま挙げたものが、ポークエキスというものとともに使われている事が多いことに驚くはずです。
これらの添加物は、食品の味や見た目や食感を良くするために使用されているのですが、ムスリムにとっては本来楽しいはずの食事を、神経を使うものに変える厄介な存在となっています。
ハラール食材なら大丈夫、ではない!?
マレーシアからのムスリムのお客様を日本の方が食事に招いてくださった時のことです。お店の方もハラールチキン(イスラム法に則った食肉処理をした鶏肉)を用いておいしそうな唐揚げを用意してくださいました。
しかしムスリムのゲストは食べようとしません。私もうっかりしていたのですが、その唐揚げの揚げ油は他の肉の揚げ物にも使用されていました。ハラームのものと同じ油を使用した時点でハラールチキンはハラームとなってしまったのです。
「アッラーと個人との約束ごと」がムスリムの基本
では、フードビジネスに関わる事業者はどのようにムスリム向けの対応をすればよいのでしょうか。その答えの一つが、ムスリムへの情報提供です。ムスリムにとって日常の様々な判断は人から押しつけられたりするものではなく、「アッラーと自分自身との間にある約束事」に基づくものと考えています。ハラール認証がない場合でも、事業者はムスリムが判断するのに必要な最低限の情報を提供できていれば、ムスリムに喜ばれる対応をしているといえるでしょう。
「ムスリムが判断するのに必要な情報をどのように提供すればいいか」。次回は、ハラールと食品表示について考えてみたいと思います。