急増するムスリム訪日者数
最近、観光地や空港でヒジャブとよばれる頭にスカーフを被った女性達を頻繁に見かけるようになりました。彼らはマレーシアやインドネシアなどから訪日したムスリムの観光客やビジネスマンたちです。
イスラム教とは約19億人、世界第二位の人口を抱える宗教です。日本では「イスラム教=中東」の宗教というイメージが強いようですが、実は、信者の6割以上はアジアで占められています。イスラム教については「アルコールが禁止されている」「豚肉が食べられない」「一日何度も礼拝をしなければならない」など厳しい戒律がある宗教としてご存知の方も多いことでしょう。
実はここ数年、そのムスリム訪日観光客が急増しています。その理由の一つは、ムスリム人口を多く抱える国が経済成長を遂げているためです。イスラム教を国教とするマレーシア、2億人のムスリム人口を抱えるインドネシアは2010年以降毎年GDP経済成長率5~7%増で推移し、訪日ビジネスマンとともに日本に旅行できる所得水準の家庭が増えています。日本政府観光局(JNTO)によると、2013年の訪日者数はマレーシアが約17万人、インドネシアが約14万人。首位の韓国(240万人)には及ばないものの、前年比ではそれぞれ約30%増と高い伸び率を示しています。エア・アジアなど東南アジア諸国と日本を結ぶ直行便の増便や、2013年に日本政府が打ち出した訪日ビザ緩和策もあり、今後もムスリム観光客は右肩上がりで増えていきそうです。
世界的に見ても、経済、生産を担う年齢層が占める割合が多いという人口ボーナス期を迎えている国はイスラム圏に集中しています。国内市場が縮小する日本は、拡大するイスラム市場を取り込むべく、さまざまなムスリム向けの戦略が必要とされているのです。
ムスリム観光客の悩みは食の「ハラール」
日本を訪れたムスリム旅行者を悩ませていることがあります。それは、日本ではイスラム教の戒律に沿った生活が難しいということです。
ムスリムには「ハラール(ハラル)」という生活の中で物事の判断基準にしているものがあります。「ハラール」とはイスラム教で合法とされる事や物を意味するアラビア語です。その逆の非合法とされる物や事を「ハラーム(ハラム)」と言います。これは子供の頃に、周りの大人から「これは良い」「これはダメ」と善悪の判断基準を教わったようなもので、ムスリムたちも日々の生活の中で判断する力を身につけ、イスラム教の教えに沿った生活をしています。
しかし、日本は長い歴史の中でもイスラム教に触れる機会が少なく、理解するに足る知識を得ることができないまま来ました。そのため、ムスリムは戒律に沿った生活が難しい状況となっています。その中でも特に課題となるのが、食のハラールです。豚とアルコールが禁忌ということはよく知られていますが、残念ながらその二つを取り除けばいいという問題ではありません。訪日した敬虔なムスリムの中には、日本での食事に対する信頼感の欠如と製品情報提供の不足から、3日間何も食べられなかったという人もいます。
ではムスリムが食べられる食事とはどんなものなのか?ムスリムの人たちが安心して食事をしてもらうためにはどうすればよいのか?食のハラールについてきちんと説明するには、セミナーでも2時間を要する内容となってしまいます。次回以降、フードビジネスに携わるみなさまに向け、ハラール対応のおもてなしをするための要点をご説明いたします。