熟成の見きわめには高い技術が求められ、時間をかけて旨みをひきだした熟成魚は、食感や味わい、かおりも、鮮魚のそれとはまったく変わるという。
「関西では、新鮮な魚の歯ごたえのある食感を“美味しさ”だと認識されている方がほとんどだと思います。私もずっと魚は新鮮な方が美味しいと思っていました。それが3日、4日、魚によっては10日以上置くとコリコリした食感がもちもちに変り、旨みが凝縮されるのです。
その味わい深さは、扱う店が少ないだけに意外と知られていません。鮮魚はとことん鮮度にこだわり、熟成魚はじっくり手間も時間もかけ、両方の美味しさを味わっていただけるように盛り合わせています」
鮮度抜群の魚と手間ひまかけて熟成させた魚はどちらも相当な価格になりそうだが、それを鯛之鯛は1人前580円で提供している。その原価率は時に100%を超えるときもある。
「高い魚を高く売る店はたくさんありますが、それを安く提供してお客様に喜んでいただきたいのです。原価率を気にしていると、いい魚を仕入れることができないので、魚に関しては原価を考えません。特に刺身はどんどん原価をかけてお客様に喜んでいただけるようにしています。
鯛之鯛のお客様は、魚が好きでお越しになるので、お値打ち感を味わっていただけると思います。そして他の店に行った時に、同じ価格帯でも全然違うとお分かりいただけますので」
他の店との違いがはっきりしていれば必然的にリピーターも増える。いまや平日でも満席で予約も取りづらくなってきておりピーク時は2時間制をとっているが、中には1時間でもいいから行きたいという熱心な常連客もいるという。
原価率のバランスをメニュー全体で調整
原価割れの看板メニューぶんのコストはどのように吸収しているのだろう。鯛之鯛は、客を喜ばせながら店としても売上げを確保する工夫を、そこここでこらしているという。
「お客様の8割が注文される天ぷらは、客席に備えたオーダーシートに数量を書き込んでオーダーしていただくスタイルです。友人同士やカップルでは、相談しあいながら注文する楽しみがあり、品数もでやすいのです。
逆に、お造りはなるべくオーダーの偏りで売り切れが出ないよう、単品ではなく盛り合わせでお勧めするようにしたり、刺身にしづらい部位もユッケにしたり、魚の骨を揚げて『骨せんべい』にしたりと、仕入れた魚は捨てるところがないほどギリギリまで使っています」