それを手持ちで食べたいなと思ったのは、音楽フェスのフジロックフェスティバルに遊びに行ったときです。本当に思いつきなのですが、「この大自然の中、音楽を聞きながら、ラムチョップをかぶりつけたら、どんなに幸せだろうな」とふと思いました。
そこから手で持って食べられる気軽さや、美味しくて、誰にでも食べられるラムチョップをどこかで提供したいという気持ちを温め続け、私が『下町バルながおか屋』の責任者となった時に、店の看板メニューとして正式に採用したのです。
【Q】今でこそ仲町通りを代表する有名店ですが、当時から繁盛していたのですか?
いえ、最初の頃はなかなか…。上野という町は広くて、花見や美術館で有名な上野公園があるエリアには人が集まるのですが、なかなか下町の方まで寄って帰っていただけていないという現状がありました。また、そこにどんなお店があるのかという情報も、上手く発信できていなかったのです。
そこでまずは、デザイナーと編集者の経験を活かし、フードへ込めた想いや働く人の情報を盛り込んだ『下町バル通信』というチラシを作って手配りを始めましました。ターゲットは「上野湯島近隣で働くサラリーマンや、お住いの方」と狙いを定め、チラシを配る範囲も店から半径1㎞以内に限定しました。
すると少しずつですが、来客数が改善してきたのです。ラムチョップや他の料理も味付けなどは一切変更していません。要するに、売上低迷はお客様に知られていないことが原因だったと改めて分かりました。
その後私が主催したイベント『食べないと飲まナイト』が、メディアに取上げていただけるようになり、仲町通りを始め下町エリアにも注目が集まり、店の知名度も上がっていきました。
【Q】イベントの成功が認められ、前川氏は外食産業で活躍した人に送られる『外食アワード2011』を受賞しました。イベントの内容を教えてください。
『食べないと飲まナイト』は、商店街の飲食店を食べ歩き飲み歩きしてもらうためのイベントです。前売りチケットは1枚700円を5枚つづりで3,500円、当日チケットは1枚800円の5枚つづりで4,000円。
1枚のチケットでそのお店のおすすめ料理とドリンクのセットが楽しめるお得なものです。最近では少しやり方を変えており、1個500円の缶バッチを購入すれば、期間中は何軒でも800円のセットが頼めるようにしました。缶バッチに関してはweb、提携店、松坂屋などでも販売しています。
TVや雑誌でも話題になったおかげで、2017年11月には第33弾が開催されます。街おこしに関して危機感を持っている人は想像していた以上に多く、赤坂、神楽坂、広島県、鳥取県といった開催地域が増えてきました。
【Q】そもそもなぜ、このイベントを始めたのでしょうか?
長岡商事が上野の街に店舗を構えて50年。長い歴史の中で街は様々な変化がありましたが、ずっとこの地で商売をさせてもらってきました。かつて父や兄が居酒屋をやっていたときは、この通りがサラリーマンで溢れかえっていたそうです。
しかし時代の流れとともに商店街の活気も失われつつありました。私が『下町バル』を始める際も、商店街にかつての活気を取り戻したいという強い想いがあったので、それを目指して店を盛り上げてきたつもりです。