その時、自分がその効率の悪さを解消する店を作ればいいのだと気付いて、会社を立ち上げようと決意しました。サラリーマンを長くやってきたので、不安定なイメージが強い飲食の世界での起業は、希望よりも不安の方が大きかったですね。
独立後、すぐに飲食店の展開に乗り出したわけではありません。まずは自分の強みを生かし、加工業者や外食産業向けの食肉販売をメインに手がけていました。
その翌年の7月に、海の家を再利用したバーベキューハウス「ブルーテーブル」をオープン。これが、初めて手掛けた飲食店です。“家ではできないBBQ”をコンセプトに、塊の肉を丸ごと焼いて食べるアメリカンスタイルを打ち出して、初年度から大きな売上を達成しました。ついで2014年に「徳川ホルモンセンター」を立ち上げたのです。
【Q】バーベキューに続く新業態は、なぜホルモンだったのでしょうか?
実は「徳川ホルモンセンター」は、もともと飲食店ではなく直売所だけでスタートする予定でした。ホルモンは鮮度の低下が早く、流通に乗りにくい食材です。飲食店では新鮮なホルモンを食べられますが、スーパーに同じ品質のものは売られていません。そこに目を付け、スーパーにも、町の肉屋にもない、新鮮なホルモンが安く買える直売所を作ろうと思ったのです。
ただ、ホルモンを売るためだけの、小さめの物件がなかなか見つかりませんでした。そんな時、直売所には大きすぎるものの、予算や設備などの面で、魅力のある居抜きの物件と出会ったのです。せっかく広いスペースがあるのだから一緒に焼肉屋もやろうと思い立ち、精肉直売所と焼肉屋を併設させた業態にしました。
【Q】入場料を払えば原価で肉を食べられる、ユニークなスタイルはどのようにして生まれたのですか?
『直売所併設の焼肉店』という発想までは良かったのですが、問題もありました。直売所では新鮮な肉を安く売っているのに、同じ屋根の下にある焼肉店で高い料金をいただくわけにはいきません。とはいえ、そのままの価格で出せば赤字です(笑)。そこで、男性1000円、女性700円の入場料をいただいたうえで、販売価格を直売所と揃えて提供するというシステムを考えました。
最初はご理解いただけないお客様も多かったですね。「焼肉屋へ入るだけで1000円も払わせるのか」「飲むのがメインで肉は食べないから払わない」など、怒って帰る人もいらっしゃいました(笑)。
経験がなかったからこそ、シンプルなコンセプトを追求
【Q】システムに反発するお客様もいる中、どのように浸透させていったのですか?
お客様に店を受け入れてもらうために、こちらが折れるようなことは絶対にしませんでした。「これがウチのコンセプトであり、ウリなんだ」という確固たる自信を持ち、スタッフ全員がお客様にひたすら説明を繰り返しました。
その結果、少しずつ魅力を分かってくださるお客様が増え始め、入場料を払っても焼肉を安く楽しめる店として、口コミで広まっていきました。