【Q】萬野屋のブランド「極牝萬野和牛」についてもお聞かせください。
牛は1日でも肥育期間が長くなると、原価が高くついてしまいます。だから無理やり食べさせてでも早く肥えさせたり、血統の交配を屈指して早く出荷する。それが、悲しいかな、今の日本の一般的な牛の育て方です。
でも、ウチがお付き合いいただいている生産者さんは、牛をじっくり育てて、ピークを見極めてから出荷してくれます。もうそれは、味がぜんぜん違います。脂の融点が低くて、サラッとしているので、いくらでも食べられるんです。それが、萬野屋のブランド「極牝萬野和牛」です。これは、決して僕が始めたわけではなく、代々、良い生産者さんとのお付き合いが続いてきたからできたことです。ほんとにありがたいことやと思っています。
萬野の評判が高くなるにつれて、「ウチの店にも萬野和牛を卸してくれ」と他の飲食店から頼まれるようになりました。「卸から足を洗う」と言って独立したわけですが、農家や業界のためになるならと、卸の事業もやっています。卸業はここ4年ぐらい、月の昨対比300%という状況です。
【Q】「焼肉萬野ホルモン舗」で始めた、お肉を“一切れ”からオーダーできるスタイルが話題を呼びました。きっかけはあったのでしょうか?
僕が商品チェックで店を訪ねたとき、店長に「申し訳ないけど、一人前ずつも食べきれへんから、一切れずつ盛ってくれへんか?」って頼んだんです。それを、お客さんが見てはったんでしょうね。僕が帰った後、「さっきの人が食べてた一切れずつのホルモン、こっちにもお願い」とオーダーされたらしいんです。その話を後から店長に聞かされたわけですよ。「困りますわー。お客さんが真似しますねん…」と。
そのとき、「コレや!」と思って、メニューに取り入れようとしました。でも、周りは大反対(笑)。「原価率が合わない」とか「きっちり同量ずつ切り分けられない」とか「面倒くさい」とか…。
【Q】大反対は、どのようにクリアしたのでしょうか?
「俺が教える!」って言って、捌き方から切り方からぜんぶ教え込んだんです。だって、初めて頼む部位を一人前で注文して、口に合えへんかったら悲しいでしょ。でも、一切れチャレンジで120円とかなら、口に合えへんかっても許せるし、「もうちょっと食べたいけど一人前は多い」みたいなときに、一切れハラミとか頼めたら嬉しいでしょ?「肉質も鮮度もクリアした。そしたら次はお客さんが嬉しいと思うことをやろう」と伝えたんです。
東京も海外進出も射程圏内。でも、一人勝ちしようなんて思わない
【Q】最近では、飲食業界を元気づける活動にも積極的なようですが。
最近の飲食業界の特色かもしれませんが、経営者同士、横のつながりが強いですよね。僕自身、営業時代にしても飲食店を始めた時にしても、ほんまにいろんな人のお世話になった。それがなかったら、今の自分はなかったと思ってます。僕が今、ORAみたいな組織や同業者仲間のために骨折るのは、その恩返しです。
【Q】いま大阪で話題の“お初天神裏参道”への出店も、その一環ですか。
※お初天神裏参道…大阪・梅田の「お初天神商店街」の脇道にあるバルストリート。2015年3月に、居酒屋・イタリアン・バル・寿しなどの名店12店舗が一気にグランドオープンし、連日にぎわっている。
正直、出店のお話をいただいた時は、やめようと思ってました。暗くて、ボロボロで、ネズミか猫しかいないような場所やったし(笑)。オファーを受けていた他の経営者の皆さんも、同じでした。でも、地主さんの「先祖から受け継いだ土地を、自分の手で何とか蘇らせたい」という熱い想いに共感して、出店を決めたんです。その噂を聞きつけた他のお店のみなさんも、「萬野さんがやるなら、僕らもがんばりますわ」って賛同してくれました。
せっかくやるなら、「自分たち経営者が、毎晩行きたくなるような街にしよう」と。それでまず、みんなで集まり、「何でもええから思ったことをストレートに言い合いしよう」って頼んだんです。そしたらみんな、ホンマに正直に言うてくれた。「萬野さん、これ盛り付けが悪い」「◯◯さんの接客はイマイチや」というふうなことを。それをぜんぶのお店でやったんです。