沖縄の飲食店に子ども食堂を普及させた「みらいチケット」成功のワケ~タコライスラバーズ

飲食・宿泊2024.12.17

沖縄の飲食店に子ども食堂を普及させた「みらいチケット」成功のワケ~タコライスラバーズ

2024.12.17

沖縄の飲食店に子ども食堂を普及させた「みらいチケット」成功のワケ~タコライスラバーズ

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地域の子どもたちに無償や低価格で食事を提供する子ども食堂。現在、全国に約1万カ所あるといわれているが、資金不足の課題を抱える運営団体は少なくない。そんななか、飲食店が助成金や自主財源に依存せず子ども食堂を運営できる「みらいチケット」の仕組みが注目されている。

沖縄県では食堂や居酒屋など業態を問わず200を超える飲食店が導入している。仕掛け人の一般社団法人タコライスラバーズに、飲食店で広まった背景や導入効果、子どもたちの反応を聞いた。

目次

1枚のチケットから広がる子どもと地域の輪

子ども食堂の運営方法「みらいチケット」の仕組みは、店の利用客が飲食代とは別に子どもが使うマグネット式の食券「みらいチケット」(300円程度)を購入し、店内のボードなどに貼る。来店した子どもがそのチケットを取り店主に渡すと、食事が無償で提供されるシステムだ。つまり、店の利用客が支援者となり子ども食堂の運営を支えるのである。

現在、沖縄県内でみらいチケットを活用する子ども食堂は209軒ある(2024年12月時点)。この仕組みを沖縄で普及させたのが、社団法人タコライスラバーズだ。同法人は、みらいチケットを介して地域の子どもに食事を提供する仕組みを2020年12月に始めた。当初32店舗だった協力店の数は4年で200店舗を超え、沖縄全域へと広がりを見せている。

誰もが参加できる子ども食堂運営の仕組みで、グッドデザイン賞受賞

2024年11月、タコライスラバーズは日本産業デザイン振興会主催の2024年度グッドデザイン賞を受賞した。この賞は、社会課題の解決につながる優れたデザインやサービスに贈られるもので、同賞の審査委員は「助成金や個人の善意に頼ることなく、誰もが参加、協力できる自走の仕組みが特徴的」と評した。

多くの子ども食堂は、運営団体の自主財源や公的な助成金に依存している。しかし、資金繰りに課題を抱える団体が多く、「子ども食堂での困りごと」に関する調査(むすびえ)でも毎年「運営資金の不足」が上位にランクインするのが実情だ。

タコライスラバーズは飲食店を対象としているため、子ども食堂の運営に欠かせない人材、食材、設備に追加投資がほとんど必要なく、子どもの食事代は店の利用客の負担によって賄われる。そのため、飲食店にとっては参入の敷居が低く持続可能性も高い。

タコライスラバーズ誕生の舞台裏

一般社団法人タコライスラバーズの代表理事である山川宗德氏は、沖縄県本島の中央部に位置する金武町(きんちょう)で生まれ育った。この町はタコライス発祥の地として知られ、山川氏は「裕福とは程遠い幼少期を過ごした」と振り返る。大学卒業後は警察官となったが、ある事件現場での体験が現在の活動の礎となった。

一般社団法人タコライスラバーズ 代表理事 山川宗徳氏
代表理事
山川 宗徳 氏

「ひとりの少年の万引き事件を担当しました。その少年が空腹を満たすために万引きをしたと泣きながら訴える姿は、忘れられません」

この出来事を契機に、山川氏は「子どもたちのお腹を満たせば万引きなどの犯罪を未然に防げるのではないか」との思いを強くしていったという。

その後、山川氏は警察官を退職。一般社団法人タコライスラバーズを立ち上げ、奈良県の飲食店の取組み事例を参考にしながら沖縄でみらいチケットの普及に努めた。現在、協力店は206店舗にまで広がっているが、店の業態はタコライス提供店にとどまらず、蕎麦屋、おにぎり屋、居酒屋、カレー屋など多様化している。

善意が次世代につながる好循環が回り始めた

沖縄県内の飲食店に「みらいチケット」が広く普及した要因について、山川氏がこう語る。

「沖縄には、『ゆいまーる』の精神が根付いています。『ゆいまーる』とは助け合うという意味合いの沖縄の方言ですが、タコライスラバーズの仕組みは、まさにこの『ゆいまーる』の精神を形にしたシステムと言えます。また、飲食業のベースにはホスピタリティーがあります。実際、目の前の人を楽しませたいとか、困っている人がいたらもてなしたいという気持ちを持っている飲食店の方は多いですよね。

沖縄特有のゆいまーるの精神と、飲食店の方々が持つホスピタリティーが相乗効果を生み出し、この取り組みを活性化させていると感じています」

一般社団法人タコライスラバーズの事務局長、本仮屋まさみ氏が続けて述べる。

一般社団法人タコライスラバーズ 事務局長 本仮屋まさみ氏
事務局長
本仮屋 まさみ 氏

「善意をもって人に手を差し伸べることは意外に難しいものですが、タコライスラバーズの協力店の方々なら、お腹を空かせている子どもや、元気なく歩いている子どもを店前で見かけたら、『ウチでご飯を食べていくかい? このチケットで食べられるよ』と気軽に声を掛けることができます。そこが、子どもたちの笑顔に繋がった理由だと思います」

山川氏が目指すのは、タコライスラバーズの協力店を、沖縄県内のすべての小学校区に普及させることだ。現在、その達成率は40%弱で、まだまだ伸びしろはある。ただ、肝心なのは数字ではないと山川氏は強調する。

「最近、協力店のオーナーさんからこんな話を聞きました。ある日の夕方、お店を開けに行ったら真新しい制服を着た中学生が店前に座っていたそうです。小学生の頃からみらいチケットを使ってタコライスを食べていた常連のお客さんでした。その日は進学した中学校の入学式があり、式が終わると、真っ先に自分の制服姿を店主に見せたくて駆けつけたそうですが、早く来すぎてしまい、1時間以上も店の前で待っていたとのことです」

また、別の店主からはこんな話を聞いた。

「みらいチケットを使っていた子どもたちが、『店のお手伝いをさせてください』と言って皿洗いをしてくれることがあったそうです。また、みらいチケットを利用していた子が高校生になって、『バイト代が入ったからチケットを5枚買いに来ました』と訪れてくれたこともあったそうです。

『おいしかった、ありがとう』の気持ちが次世代へとつながる好循環が沖縄で回り始めていると実感できることが何より嬉しく、これからももっと頑張らなければという気持ちにさせてくれます」

現在、みらいチケットは飲食店とお客が地域の子どもに自然と手を差し伸べる仕組みとして、多くの飲食店や自治体、企業からの協力を得ている。タコライスラバーズはみらいチケットの取り組みに協力できる飲食店を募集しており、公式ウェブサイトから問い合わせが可能だ。“ゆいまーる”の精神を息づかせる活動のさらなる広がりに期待したい。 

一般社団法人タコライスラバーズ(株式会社lab)

所在地:沖縄県那覇市泉崎2-3-3 オフィス泉崎2-A
設立:2019年8月
代表者:代表理事 山川宗德
公式ホームページ:https://www.lab-okinawa.com/

 

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