糖尿病網膜症・黄斑浮腫の低侵襲早期診断法の確立と食品成分による新規予防法確立への可能性

掲載日: 2022年03月07日 /提供:参天製薬

2022 年 3 月 7 日

日本大学
明 治 薬 科 大 学
参天製薬株式会社

糖尿病網膜症・黄斑浮腫の低侵襲早期診断法の確立と
食品成分による新規予防法確立への可能性

日本大学医学部附属板橋病院眼科(主任研究者 : 診療教授 長岡泰司、准教授 横田陽匡、専修医/大学院生 花栗潤哉、主任教授 山上聡)、明治薬科大学薬学部(櫛山暁史教授)、参天製薬の研究グループは、2 型糖尿病モデルマウスにおいて早期から引き起こされる網膜血流調節障害を評価指標として、食品成分による糖尿病網膜症予防の可能性を検討し、抗糖化作用を有するヒシエキスと抗酸化作用を有するルテインがこの早期網膜血流障害を抑制することを発見し、さらに糖尿病網膜症・黄斑浮腫の主要責任分子である血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)の網膜内における発現亢進を抑制することを明らかにしました。これまで有効な予防法がなかった糖尿病網膜症早期の低侵襲予防法となりえる可能性がある発見であると考えています。

本研究は、日本大学、明治薬科大学および参天製薬の共同研究の成果であり、この研究結果を報告した論文は、2022 年 2 月 24 日(欧州時間)に「Frontier in Physiology」誌に掲載されました。

【 研 究 内 容 】
我が国の失明原因の主因である糖尿病網膜症は糖尿病発症から少なくとも5―10 年の経過を経て発症・進展するため、発症予防には内科的な血糖コントロールが最も重要と考えられています。一方で眼科としてはある程度糖尿病網膜症が進行した病期から、重篤な視覚障害を防ぐために光凝固や手術などで治療を行いますが、一度低下した視機能を回復させるのは容易ではありません。そこで本研究グループは糖尿病網膜症を予防して糖尿病患者の視覚を守るため、網膜症発症前からでも摂取可能な食品成分のうち、ヒシエキス+ルテインに着目し、糖尿病モデル動物を用いてその長期投与の網膜症予防作用を検討しました。

糖尿病では持続する慢性高血糖により微小血管が早期から障害されることが知られています。我々はこれまでの研究で、糖尿病網膜症発症前から網膜血流障害の程度が糖尿病による網膜機能障害の定量的指標になることを確認しており、今回もこの網膜血流に着目してヒシエキス+ルテインの作用判定を行いました。特にフリッカー刺激(点滅光)に対する網膜血流増加反応には神経細胞やグリアが密接に関与しており、この現象は神経血管連関(neurovascular coupling)(注 1)として広く認知され、糖尿病ではこの神経血管連関が糖尿病発症早期から障害されていると考えられています。我々はフリッカー刺激と高酸素吸入の2 つの負荷に対する網膜血流反応を用いて、網膜神経、網膜グリア、網膜血流の中でも、特にこれまで評価が困難であった網膜グリア機能を評価することに成功しました。その評価法を用いて我々は2 型糖尿病モデルマウスにおいて早期からこれらの負荷に対する網膜血流反応が障害されていることを以前に明らかにしており、これらを背景にヒシエキス+ルテインがこれらの早期障害を抑制させるか否か検討することとしました。

この研究では、6 週齢の 2 型糖尿病マウスを非介入対照群とヒシエキス+ルテインを摂取した介入群とにわけて8 週齢から 14 週齢まで隔週で網膜血流測定を行った結果、ヒシエキス+ルテイン介入群では、安静時の網膜血流に影響を与えなかったにもかかわらず、フリッカー刺激および高酸素吸入に対する網膜血流反応障害をいずれも8 週齢から抑制し、この反応は 14 週齢まで持続していたことがわかりました。さらに同一個体の免疫組織学的検討では、介入群は非介入対照群で活性化されたGFAP(Glial Fibrillary acidic protein)の抑制を認め、さらに糖尿病網膜症・黄斑浮腫の責任因子である VEGF の発現も減少させることを初めて明らかにしました。

これらの結果から我々はヒシエキス+ルテインの長期投与が2型糖尿病マウスの網膜血流反応障害を抑制し、グリア機能障害とVEGF 発現を抑制することを発見しました。糖尿病網膜症早期の低侵襲的な新規予防として、ヒシエキス+ルテインの今後の可能性に期待が高まります。

【 今後の展開 】
本研究成果から、ヒシエキス+ルテインが糖尿病網膜症の発症予防に繋がる可能性を見出しました。今後、ヒシエキスおよびルテインの作用の詳細なメカニズムの解明に関するさらなる検討を経て、将来的に新規治療薬の開発が期待されます。

【 用語解説 】
(注1)神経血管連関(neurovascular coupling): 神経の興奮に伴って血管が拡張し血流が増加する生理現象。

【 本研究について 】
本研究は、JSPS 科研費 20K08811 及び 2019 年度上原記念生命科学財団・研究助成金の助成を受けたものです。

以上

-本件に関するお問い合わせ先-
参天製薬株式会社 コーポレートコミュニケーション・グループ
E-mail: communication@santen.com

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