中小企業が“選ばれる理由”をどう見える化するか? 横浜の製造業・スリ ーハイの前例なき挑戦の軌跡

掲載日: 2026年05月08日 /提供:スリーハイ

「OMOU」5周年記念、巻頭特別対談:ストーリーを発信する企業には、人もお金も集まる時代になる。中小企業が情報開示をする一番の価値は、「なぜやっているのか」という企業の【想い】を伝えられること。

これまで、中小企業が生み出す価値は決算書、つまり数字でみられることがほとんどでした。しかし、企業が生み出す価値を決算書だけで評価することは難しいものです。

株式会社スリーハイは、2021年に初めてサステナビリティレポートを発行しました。2022年にアニュアルレポート「OMOU」へと発展して財務情報(貸借対照表)も開示。「『伝える』から『つながる』へ」をテーマに、企業の情報公開とステークホルダーとの対話という、他の中小企業がこれまで行ってこなかったことに挑戦してきました。

2021年のサステナビリティレポートから数え、「OMOU2025」が5冊目となる節目に、「OMOU」の制作に関わったメンバーとともに、これまでの挑戦の軌跡を振り返ります。

対談者



男澤 誠株式会社スリーハイ代表取締役
大学卒業後、大手通信建設企業に入社し、ネットワークエンジニアとして経験を積む。2000年、実父が創業した株式会社スリーハイに入社。2009年、代表取締役に就任。会社員時代の経験を活かし、インターネットを活用した販路拡大や社内業務のシステム化に積極的に取り組む。





徳江 彩貴株式会社スリーハイ 経営推進室室長
求人広告の営業や大手飲食店の販促・広報を経て、2019年に株式会社スリーハイに入社。経営推進室室長として、社内の生産性向上やスリーハイのアニュアルレポート「OMOU」の編集を担当。





今尾 江美子社会的事業コンサルタント/共創パートナー
大学卒業後、日系・外資系金融機関に勤務。米国留学を経て、独立行政法人国際協力機構(JICA)の官民連携事業、ケイスリー株式会社で社会的インパクト評価事業に従事したのち、独立。社会的価値の言語化・可視化に豊富な実務経験を持つコンサルタント。





臼井 亮介合同会社KESHINアートディレクター/ブランド設計

広告代理店で都内・横浜を中心に多数のグラフィック・ウェブデザインに携わる。短期的なデザイン制作ではなく、長期的視野でのブランディング支援の必要性を感じ、2017年に合同会社KESHINを設立。先代の時代からこれまで16年以上にわたり、スリーハイのHP・パンフレットなどの対外発信やブランディング戦略全般を支援。



活動実績の羅列だけでは、企業の【想い】は伝わらない

ー本日は「OMOU」の制作に携わった皆さまにお集まりいただきました。まず、男澤社長にお伺いします。なぜスリーハイは「OMOU」の制作に挑戦したのでしょうか。

男澤:スリーハイでは10年以上、「地域とともに生きる」ということに向き合い、地域貢献活動「こどもまち探検」をはじめとして、SDGs達成に貢献する活動に積極的に取り組んできました。しかし、これらの活動が、スリーハイの本業である産業用ヒーター事業とどうつながっているのか、ずっと説明に苦労していたんです。

2020年ごろから、大企業でサスティナビリティに関する活動を公開する動きが広まってきたので、スリーハイでもこのようなことができないか、と思ったことが制作のきっかけです。そこで、まず徳江さんを中心に、印刷会社さんと自力で2021年のサステナビリティレポート「SustainabilityReport2021」をつくったのですが、なかなか「これだ」というものができませんでした。

ここはやっぱりプロの知見がないと難しいと思い、先代の時からスリーハイのブランディングを支援いただいている、アートディレクターの臼井さんと、社会的インパクト評価(※)の実務経験が豊富な今尾さんに、プロジェクトに参加していただくことになりました。

※社会的インパクト評価...事業や活動が社会や環境に与える「変化(アウトカム)」を見える化し、価値判断すること。対外説明や経営改善に活かす。



ー「OMOU」の制作では、最初にどのような点が焦点になったのでしょうか。

今尾:「OMOU」のキックオフでは、一番読んでほしい相手は誰なのか、この冊子をつくることで最終的にどんな状態を目指したいのか、を徹底的にみんなで話し合いました。

男澤:2021年のサステナビリティレポートは、スリーハイがその年に行ったイベント報告のようになってしまったんですね。社員にもお客さまにも、いろんな人に伝えたいと思って幅を持たせた結果、誰にも刺さらなかったように思います。

そこで「一番読んでほしい相手」が誰かと考えた時、私は真っ先に「社員です」と答えました。

ちょうどスリーハイも社員が増えてきた時期で、私の言葉がどこまで社員に届いているのか実感が持てなくなっていたんです。会社が大切にしている理念や考え方を共有し、立ち返ることのできるバイブルのようなものが必要だと思い始めていたので、「OMOU」はその役割を担えるものにしたいと考えました。今尾さんのお話で特に印象的だったのは「何をしたかという事実だけでは本質は伝わらない」ということでした。2021年のサステナビリティレポートでは、当社の活動実績は示されていましたが、なぜそれを行っているのか、どんな想いや意図があるのかという背景は見えにくかったんです



今尾:メーカーの仕事って、安く仕入れて高く売るだけと思われがちですが、実際はそんな単純なものではありません。でも財務の数字だけだと、どうしてもその側面しか見えない。だからこそ、何を大事にしている会社なのか、なぜその活動をしているのかを言葉にしないと、本質は伝わりません。結局、融資する人も、投資する人も、就職する学生さんも、数字の裏側にある「想い」に動かされるんですよね。



男澤:非財務という言葉は硬いけれど、要するに「目に見えない価値」を丁寧に伝えること─そこが大事だと思っています。



スリーハイは「温める」をつくる会社であること、を数字と絵で伝える

ー「OMOU」発行後の評判はいかがでしたか。

男澤:「読みやすい」と言ってくださる方が多かったですね。一般的に目にするレポートは文字量や専門用語の多いものが大半ですが、「OMOU」はシンプルさを重視したからだと思います。

臼井:紙面に掲載する素材は、あえてイラストを中心にしたこともよかったですね。写真だと写りたくない人がいたり、退職した人の対応が課題になることもありますが、イラストであればそのような心配もありません。視覚で理解する情報は強いので、絵で伝えると入りやすいですよね。

徳江:「OMOU」はイラストと数字で伝える部分が多いのですが、この数字の扱いが私は難しかったです。どのデータを載せると良いか自分ではなかなか決められなくて、今尾さんにたくさん助けていただきました。

今尾:中小企業さんだとそもそも数字がないということが多いのですが、スリーハイさんは逆にデータがたくさん眠っていたので、どれに絞って「OMOU」に掲載するかが焦点になりました。

情報開示では「企業が伝えたいストーリーの中で、意味がある数字を出す」ことが大事です。スリーハイが4つのステークホルダー(パートナー企業、従業員、地域、未来/地球)をどのように温めているのか、それらが伝わる数字に絞った結果、今の「OMOU」に掲載しているものになりました。

ただ、財務諸表といった数字だけでは、会社の思いや価値観は見えてきません。スリーハイさんなら、ヒーターを売る会社だという紹介だけでなく、「ステークホルダーをどこまでも温める会社である」ということを、数字だけでなく言葉や図、イラストで可視化できるのが、非財務情報開示の価値だと思います。



「OMOU」が会社にもたらした変化~資金調達と人材育成にも効果が

ー「OMOU」発行によって数値として測れる効果はありましたか。

男澤:銀行の担当者は価値創造プロセスのページを非常に評価してくれて「毎年発行してください」と言われました。さらに驚いたのは、「OMOU」の内容が評価されて金利が優遇されたことです

そこまでの効果は正直想像していませんでしたが、「ここまでしっかり見える化してくれるスリーハイさんなら、当行も思い切って融資できます」と言っていただけました。金利は私たちにとって決して小さな金額ではありませんから、本当にありがたかったですね。

ー人材育成に「OMOU」がどのように役立ったかも教えてください。

男澤:「OMOU2022」は「これなら(社員に)会社のことが伝わるはずだ」と手応えもあったんです。ところが、従業員アンケートを取ったら実は、良い反応の一方で「そこまで共感できなかった」「正直あまり読めていない」「SDGsをやってるのになんで紙にする必要があるのか」などの厳しい声も返ってきたんです。せっかく時間も想いも込めてつくっても、ただ渡すだけでは響かない。社内に浸透させてこそ意味があるのだと痛感しました。

徳江:今尾さんから「この冊子は会社を変えるものなんだから、使わなければ意味がない」とアドバイスをいただき、「OMOU2023」からは社長自身の言葉で各ページを説明する社内勉強会を実施するようになり、少しずつ浸透してきたと思います。

男澤:展示会や営業先に「OMOU」を持って行くと、読んだ方が私ではなく社員に直接感想を伝えてくれるんです。その反応を受けて、社員も「この冊子にはこんなことが書いてあったのか」「会社はこれを言いたかったんだ」と自分ごととして読み始めるようになりました

若手が率先して「OMOU」を営業先に持っていくようになり、その姿に刺激を受けて先輩社員も自然とあとに続くような場面も見られ、「先輩が後輩を一方的に指導する」とか「社員が社内だけで教育する」というような従来の人材教育の姿をこの「OMOU」は良い意味で壊す存在になったように思いますね。ステークホルダーの皆さまにも一緒に育てていただいていると、改めて感じます。

徳江:私自身の話なんですが、「OMOU」に関わるまでは会社のことを社長と同じ視座で、自分の言葉で話すことはできていなかったんです。

でもOMOUをつくったことで、会社が産業用ヒーターを含む、様々な活動を通じてどのような未来をつくっていくのか、なぜそのような活動を行っているのか、背後にあるストーリーが自分たちの言葉で話せるようになったと思います。つまり、スリーハイの経営理念である「ものを想う。ひとを想う。」が自分ごとになりました



ストーリーを発信する企業には、人もお金も集まる時代になる

ー 今回の対談のまとめをお願いします。

今尾:中小企業が情報開示をする一番の価値は、「なぜやっているのか」という企業のストーリーを伝えられることだと思います。スリーハイであればヒーターを売る会社ではなく、「『温める』をつくる会社」であるということです。

例えば、就職活動でも「給料の高いところにいく」というだけではないと思うんです。私たちが消費者として、モノを買うときもそうですね。経済的な価値だけではなく、その背後にあるストーリーに共感して、人やお金が集まっていく。そういう流れに今後確実になると思います。

臼井:情報開示をすることで会社側の視野が広がることも大きいと思います。企業活動をしていると、目先の売上、つまり顧客ばかりに目が向きがちなんですが、企業活動は、もっと様々な人が関わっていますよね。まさに「ステークホルダー」です。スリーハイの場合は「ステークホルダー」をどこまでも温めることで、めぐりめぐってスリーハイの未来について、みんなが期待を寄せるような動きがでています。今後は採用など、相乗効果で良い影響がでてくるのではないでしょうか。そこに価値をもっと感じる中小企業が「OMOU」を読んでもらうことで増えるといいですね。

男澤:これからの時代は、企業の強みを自分の言葉で発信できるかどうかが本当に大事になっていきます。私たち中小企業こそ、自分たちの良さや大切にしている価値観を、きちんと外に伝えていかなければ埋もれてしまう。

そして、発信を形にするための費用は、コストではなく投資と捉えると少しチャレンジしやすくなるように思います。でも、中小企業は少数精鋭だから、発信できる人材とノウハウがないことも多い。だからこそ、私たちも積極的にプロの力を借るのも一つの手です。この「OMOU」も、発信のプロである、臼井さんと今尾さんがいたからこそつくることができました。情報発信に時間とコストをかけることは、必ず中小企業にとって、他社との差別化につながり、事業可能性が評価されるという意味がある。今後は、共感する中小企業の皆さまと、この動きを広げていきたいと考えています。ぜひ一歩踏み出してほしいと思います。



カメラマン:芙蓉堂 堀篭 宏幸
司会・ライティング:ワンパーパス株式会社 米澤 智子

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