乳酸菌ラクチカゼイバチルス パラカゼイ シロタ株を含む乳製品の習慣的摂取が高齢者の腸内細菌叢を安定化する可能性

掲載日: 2021年09月02日 /提供:ヤクルト本社

2021年9月2日
株式会社ヤクルト本社
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター

乳酸菌ラクチカゼイバチルス パラカゼイ シロタ株を含む乳製品の
習慣的摂取が高齢者の腸内細菌叢を安定化する可能性


株式会社ヤクルト本社(社長 成田 裕)と、東京都健康長寿医療センター研究所は、群馬県吾妻郡中之条町(以下、中之条町)に在住の高齢者を対象に、腸内細菌叢の経時変化と、乳酸菌ラクチカゼイバチルス パラカゼイ シロタ株※(以下、L.パラカゼイ・シロタ株)を含む乳製品の習慣的摂取が腸内細菌叢の変化に与える影響を疫学的に調査しました。その結果、以下の2点が明らかとなりました。

①高齢者のほとんどは腸内細菌叢が安定しているが、各個人の腸内細菌叢の経時変化において、約 10%の高齢者では、1 年間に大きな腸内細菌叢変化が生じていること

②L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品を習慣的に週 3 日以上摂取している高齢者では、 摂取頻度が週 3 日未満の高齢者に比べて、1 年間の腸内細菌叢変化が小さいこと

これらの結果は、大きな腸内細菌叢変化が生じている高齢者が一定数存在することを示し、また、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の習慣的摂取が高齢者の腸内細菌叢の安定化に貢献することを示唆しています。本研究結果は、学術雑誌「Scientific Reports」(2021年6月17日付)に掲載されました。

※旧名称はラクトバチルス カゼイ シロタ株

1.背景

腸内細菌叢の不安定性や撹乱が疾病の発症および進行に関係していることが明らかになってきています。健康な成人の腸内細菌叢は一般的には安定していると考えられていますが、各個人の腸内細菌叢の経時的な変化を詳細に検討した研究は十分ではありません。

東京都健康長寿医療センター研究所(社会参加と地域保健研究チーム)の青栁幸利専門副部長らは、中之条町において「高齢者の日常的な身体活動と心身の健康に関する疫学調査(中之条研究)」を実施しており、中之条町に在住の高齢者を対象に年 1 回の腸内細菌叢解析を行っています。

株式会社ヤクルト本社と青栁幸利専門副部長は、各個人の腸内細菌叢の経時変化および乳酸菌摂取が腸内細菌叢の変化に与える影響を検証しました。

2.研究概要

(1)高齢者における腸内細菌叢の経時変化

中之条町に在住の 66 歳から 91 歳の自立した高齢者 218 名(男性 99 名、女性 119 名)の糞便を 2 年連続で採取し、次世代シーケンサーにより腸内細菌叢の構成を分類学上の「科」レベルで測定しました。得られたデータをもとに、「両年の腸内細菌叢の違い(以下、1 年間の経時変化)」を Jensen-Shannon distance※1(以下、JSD)で数値化しました(図 1-A)。その後、「個人間の腸内細菌叢の違い(以下、個人間の差)」も JSD で数値化し(図 1-B)、両者の比較を行いました。その結果、ほとんどの高齢者における腸内細菌叢の1年間の経時変化は、個人間の差よりも小さいことが確認されました(図 2)。一方、19 名(8.7%)の高齢者では、1 年間の経時変化が個人間の差と同等であり、腸内の最優勢細菌群が入れ替わるなどの大きな腸内細菌叢変化が生じていました(図 3)。

※1 2 つの細菌叢の違いを表す指標であり、値が大きいほど両者の腸内細菌叢構成の違いが大きいことを示す。

図 1.Jensen-Shannon distance(JSD)による「腸内細菌叢の違い」の数値化イメージ 2 つの棒グラフ(腸内細菌叢構成)の違いが大きいほど、JSD の値が大きい

図 2.各高齢者における腸内細菌叢の 1 年間の経時変化と個人間の差(個人差)との比較 218 名中 19 名(8.7%)の高齢者(図中○)では、1 年の間に 「個人間の差」と同等の大きな腸内細菌叢変化が生じていた。

図 3.腸内細菌叢変化が小さな高齢者と大きな高齢者の優勢菌(科)の構成 腸内細菌叢変化が大きい高齢者では、腸内で優勢な菌(科)が 1 年間で入れ替わっていた。

(2)高齢者の乳酸菌摂取が腸内細菌叢変化に与える影響

2 年連続で腸内細菌叢解析に参加した 218 名について、過去 1 か月間、過去 5 年間および過去 10 年間における 1 週間あたりのL.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度を自己申告型のアンケートで調査しました。得られたデータをもとにL.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度が週 3 日未満の群と週 3 日以上の群に分け、1 年間の腸内細菌叢変化を比較しました。

その結果、週 3 日以上摂取群の「腸内細菌叢変化が大きい高齢者(JSD ? 0.4)」の割合は、週 3 日未満摂取群に比較して低く、特に過去 10 年間週 3 日以上群で有意に低いことが示されました(図 4-A)。また、過去 10 年間、週 3 日以上摂取群の腸内細菌叢変化は、週 3 日未満摂取群と比較して有意に低い値を示しました(図 4-B)。

図 4.L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取頻度と腸内細菌叢変化との関係 L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品を習慣的に週 3 日以上摂取している高齢者では、腸内細菌叢の経時変化が小さかった。

(3)結論

今回の調査において、ほとんどの高齢者の腸内細菌叢は安定しているが、約 10%の高齢者では 1 年の間に大きな腸内細菌叢変化が生じていることと、L.パラカゼイ・シロタ株を含む 乳製品を習慣的に週 3 日以上摂取している高齢者では、摂取頻度が週 3 日未満の高齢者に比べて、1 年間の腸内細菌叢変化が小さいことが示されました。

3.今後の期待

本研究から、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の習慣的な摂取が、高齢者の腸内細菌叢の安定化に貢献する可能性が示されました。L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品が腸内細菌叢を安定化するメカニズムと腸内細菌叢の安定性が高齢者の健康に及ぼす影響を明らかにすることは、健康長寿社会の実現への糸口になると考えられます。

我々は、今後も中之条町における調査を通じて、L.パラカゼイ・シロタ株を含む乳製品の摂取による新たな可能性を追究してまいります。

4.論文情報

雑 誌 名: Scientific Reports (https://www.nature.com/articles/s41598-021-91917-6#Sec20)

論文表題: Yearly changes in the composition of gut microbiota in the elderly, and the effect of lactobacilli intake on these changes

著者:Ryuta Amamoto, Kazuhito Shimamoto, Sungjin Park, Hoshitaka Matsumoto, Kensuke Shimizu, Miyuki Katto, Hirokazu Tsuji, Satoshi Matsubara, Roy J. Shephard, Yukitoshi Aoyagi

以上

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