Glicoのビフィズス菌Bifidobacterium animalis subsp. lactis GCL2505と水溶性食物繊維イヌリンによる「腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増加」と「炎症の緩和」を確認…

掲載日: 2025年12月18日 /提供:江崎グリコ

腸内細菌学会の英文誌「Bioscience of Microbiota, Food and Health」に掲載されました

腸内細菌学会の英文誌「Bioscience of Microbiota, Food and Health」に掲載されました
江崎グリコ株式会社は、当社独自のビフィズス菌Bifidobacterium animalis subsp. lactis GCL2505(以下、GCL2505株)と水溶性食物繊維イヌリンによる腸内の短鎖脂肪酸産生菌の増加と、炎症の緩和効果を確認しました。本研究成果は腸内細菌学会の英文誌「Bioscience of Microbiota, Food and Health」に受理され、2025年12月4日(木)にオンラインで先行公開されました。当社は「タンサ(R)脂肪酸プロジェクト」として短鎖脂肪酸の研究と啓発活動を積極的に進めており、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探ってまいります。
【本研究のポイント】
- GCL2505株とイヌリンは腸内のビフィズス菌を増やし、認知機能を改善することがすでにヒト試験で確認されています※1。すなわち、これらの継続的な摂取によって認知症を予防する可能性が示唆されていますが、そのメカニズムについては分かっていませんでした。
- そこで、認知機能改善を明らかにしたヒト試験の追加解析を行った結果、GCL2505株とイヌリンの摂取はビフィズス菌に加えて酪酸菌など、腸内の他の短鎖脂肪酸産生菌も増やすことが分かりました。
- さらにGCL2505株とイヌリンの摂取によって、複数の炎症マーカーの量が下がりました。炎症マーカーとは、体内で炎症が起きているかを調べるための血液中の物質の総称です。GCL2505株とイヌリンによって体内の炎症反応が抑えられ、その結果炎症マーカー量が低減した可能性があります。
- よってGCL2505株とイヌリンによる認知機能の改善効果は、腸内で短鎖脂肪酸産生菌を増やすことで短鎖脂肪酸量が増えた結果、炎症が緩和されることによって発揮されることが示唆されました。

【内容】
■論文タイトル・著者名
Administration of bifidobacteria and dietary fiber improves cognitive function by increasing short-chain fatty acid-producing bacteria and reducing inflammation
Naoki AZUMA, Natsumi WADA, Ryo AOKI, Masatoshi SAMPEI, Takashi MAWATARI, and Yasuo SAITO
Bioscience of Microbiota, Food and Health, Article ID: 2025-026
https://doi.org/10.12938/bmfh.2025-026
■研究背景
 認知症は日常生活に著しく支障をきたすことが知られており、認知症の発生率と有病率は今後も増え続けると予想されていることから※2、その解決方法が見つかることは常に望まれています。
そこで私たちは、物忘れの自覚がある、または他人から物忘れを指摘されたことのある、健常な成人男女80名を対象にしたヒト試験によって、GCL2505株と水溶性食物繊維イヌリンによる認知機能の改善効果を確認していましたが、そのメカニズムについては依然分かっていませんでした。
~GCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性~
当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株は健康な成人から分離されたプロバイオティクス株です。これまでの研究によりGCL2505株はイヌリンと共に摂取することによって腸内のビフィズス菌を増やし※3、腸内の短鎖脂肪酸量を増やす※4ことで、内臓脂肪・体脂肪の低減※5、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上※6、血管の柔軟性改善※7など、さまざまな健康に寄与する機能を発揮すると考えられています。
一方でGCL2505株とイヌリンによる認知機能改善効果も腸内の短鎖脂肪酸量が増えることによって発揮されると考えられていましたが、その詳しいメカニズムについては分かっていませんでした。そこで今回、短鎖脂肪酸やその機能についてさまざまな研究が進む中、当社ではGCL2505株とイヌリンによる短鎖脂肪酸と炎症、認知機能の変化の関係についての研究に着手しました。
■試験概要と結果
- 認知機能改善を明らかにしたGCL2505株とイヌリンによるヒト試験の際に採取し保管していた被験者の糞便検体を用いて、この試験中の被験者の腸内細菌叢の変化を調べました。
- その結果、GCL2505株とイヌリンを摂取した群の被験者は試験期間において、ビフィズス菌に加えて、代表的な短鎖脂肪酸産生菌であるフィーカリバクテリウム属とバクテロイデス属の増加が確認されました(図1)。
フィーカリバクテリウム属は短鎖脂肪酸の1つである酪酸を、バクテロイデス属は短鎖脂肪酸の中の酢酸やプロピオン酸を産生することができます。どちらも腸内細菌叢のバランス維持に重要とされており、健康との関係が注目されています。
- また、研究対象者を認知機能スコアの改善が大きかった群、小さかった群に分けて解析をしたところ、スコアの改善が大きかった群では、複数の炎症マーカーの発現量が低下していることが分かりました。炎症マーカーとは、体内で炎症が起きているかを調べるための血液中の物質の総称です。


図1. 腸内細菌叢解析結果抜粋(A:プラセボ群、B:GCL2505+イヌリン摂取群)(Bioscience of Microbiota, Food and Health, Article ID: 2025-026.より引用)W0は試験開始前、W12は試験終了時のそれぞれの菌の相対的な腸内の占有率を、エラーバーは標準偏差を示す*:試験開始前と終了後の間に、有意な差が認められた

■考察
 今回の研究では、GCL2505株とイヌリンによる認知機能の改善効果が大きかった群は腸内で短鎖脂肪酸産生菌が増え、炎症マーカー量が下がっていることが分かりました。このことからGCL2505株とイヌリンによる認知機能の改善効果は、腸内で短鎖脂肪酸産生菌を増やすことで短鎖脂肪酸量が増えた結果、炎症が緩和されることによって発揮されることが示唆されました。また、短鎖脂肪酸を介して発揮されたGCL2505株とイヌリンによる内臓脂肪・体脂肪の低減※5、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上※6、血管の柔軟性改善※7などの健康に寄与する機能もまた、炎症状態を抑えることで起こった可能性があります(図2)。
 健康寿命の延伸には、メタボリックドミノの出発点である肥満を予防することが重要と考えられています。日常的にGCL2505株とイヌリンを摂取することは、腸内の短鎖脂肪酸を増やし、炎症を緩和することで肥満およびメタボリックドミノの進行を予防できる可能性があります。当社は、今後もGCL2505株と短鎖脂肪酸の可能性を探り、当社の存在意義(パーパス)である「すこやかな毎日、ゆたかな人生」の実現に努めてまいります。

図2. GCL2505株とイヌリンによる健康に寄与する機能の推定作用機序

GCL2505株とイヌリンに関するこれまでの研究成果
https://tansa-magazine.glico.com/articles?ct=1
【参考情報】
■短鎖脂肪酸とは
 短鎖脂肪酸とは、ビフィズス菌などの腸内細菌が水溶性食物繊維やオリゴ糖などをエサにして作る腸内細菌代謝物質です。酢酸、プロピオン酸、酪酸などがその代表です。近年の研究で、体脂肪の低減、安静時エネルギー消費量(基礎代謝量)の向上などの抗肥満作用をはじめ、免疫やストレス、認知機能への作用など、さまざまな機能を持つことが明らかになっています。
■プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスとは
 プロバイオティクスは、適切な量を投与することで宿主の健康に良い影響をもたらす生きた微生物、プレバイオティクスは、腸内細菌叢の調節によって宿主の健康に良い影響を与える非生存性の食品成分です。プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を組み合わせたものがシンバイオティクスです。
■炎症とは
 炎症とは体が細菌やウイルス、けがなどに反応して起こす防御反応のことですが、肥満などによっても引き起こされます。脂肪組織で慢性的に炎症が起こると、炎症性物質が全身に広がり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病を引き起こす原因になります。これを「慢性炎症」と呼び、現代病の背景として注目されています。
■江崎グリコの「タンサ(R)脂肪酸プロジェクト」について
 当社は、人々の健康寿命を延伸することを一つの使命と考え、腸の健康と腸内細菌の研究に注力しています。近年、腸と密接に結びついたさまざまな疾病が人々の健康課題となる中、ビフィズス菌と短鎖脂肪酸の研究と啓発活動によって、健康寿命の延伸に寄与したいと考え、2022年6月に「タンサ(R)脂肪酸プロジェクト」を立ち上げました。生活者の方々への短鎖脂肪酸に関する分かりやすい情報の発信と、当社独自のビフィズス菌であるGCL2505株のヒトへの作用に関する臨床研究等を進めています。

タンサ(R)脂肪酸プロジェクトサイト:https://cp.glico.com/tansa/

※1 Azuma N et al. Nutrients 2023, 15, 4175.
※2 Sanders DJ et al. Biosci. Rep. 2021, 41, BSR20203850.
※3 Anzawa D et al. Food Sci. Nutr. 2019, 7, 1828-1837.
※4 Baba Y et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. 2025, 89, 1191-1202.
※5 Baba Y et al. Nutrients 2023, 15, 5025.
※6 Baba Y et al. Nutrients 2024, 16, 2345.
※7 Azuma N et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. 2023, 88, 86-96.

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