調理ロボット導入による飲食店の経営
調理ロボットの導入により、これまで人力で行なっていた業務の多くを自動化・効率化できる。これにより人員リソースの確保や人件費の削減など、様々な課題解決に役立つ。では具体的にどういったメリットがあるのか見ていこう。
調理ロボット導入による3つのメリット
調理ロボットを取り入れることで何を改善できるのか、どんなメリットがあるのかを把握することは重要だ。自社の利益やコスト削減につなげるためにも、以下のメリットについて押さえておこう。
慢性的な人手不足の解消
飲食業界では、以前から人手不足に悩まされる企業の割合が多く、近年においてもより深刻化している。具体的には、2021年の非正社員の人手不足割合が63.3%、2023年には82%という調査結果がある。
参考:飲食業界に迫る2030年問題!企業が把握すべき課題と必要な解決策とは?
そこで調理ロボットを導入すれば、これまで人員で行なっていた調理工程を自動化することが可能になる。例えば、肉や野菜のカット、加熱、混ぜ合わせ、盛り付けなどの作業工程だ。これらの作業を調理ロボットに任せることで、調理スタッフの人員と業務負担の削減を実現できる。
高品質な料理の安定提供
プロの料理人などが作業する場合でも、人の手で作っている以上、一貫した品質を保つことは難しい。スタッフのコンディションや長時間の労働による疲労具合などにも左右されるからだ。
しかし調理ロボットは、内部のデータと設定されたアルゴリズムに基づいて動作するため、料理の味や品質といった面で均一化を図りやすい。調理スタッフが交代することの多い店舗やチェーン店などでは、再現性の高い作業を行える調理ロボットの有用性は高いと言える。
生産性向上とコスト削減
調理ロボットは長時間にわたり一貫した作業を行えるため、業務の効率化を図れる。加えて単純作業をロボットに任せることで従業員の業務負担を減らし、接客などへ注力することが可能だ。空いた時間で新しいメニュー開発やサービス改善に取り組めるなど、店舗の生産性向上にも大きく貢献する。
またロボットはタッチパネルで操作できるなど簡単なものなので、新人スタッフの研修や教育コストを抑えられる。一貫した作業により調理を失敗することがなく、食品ロスを減らせるなど様々な面でのコスト削減にもつながるだろう。
飲食店の活用事例
調理ロボットは、飲食店の様々な用途や工程に導入されている。では具体的にどんな事例があるのか紹介していく。
【炒め調理器:ラーメン店、中華料理】
TECHMAGIC株式会社の「I-Robo」は、鍋とヘラが独立で駆動し高火力での調理に適したロボットだ。中華鍋のような高温で短時間の調理を実現し、炒飯や中華丼、マーボー丼のような炒め物を自動で作ってくれる。
タッチパネルによる操作と食材の投入という簡単な操作で、卓越した調理工程を安定して行うことが可能だ。また調理後は自動洗浄まで実施できるため、できる限りの自動化を実現している。
【串刺機:焼き鳥店、居酒屋】
コジマ技研工業株式会社の「串刺機」は、焼鳥や串カツ、おでんなどの様々な串刺し料理に対応したロボットである。料理に応じたトレーを使用し、型に食材をセットするだけで自動的に串を刺す。
1時間に最大1500本もの製造を可能にしており、効率的に作業を実施できる。製造工場向けの大型機器だけでなく小型卓上型もあるため、飲食店などの省スペースで設置しやすい製品も取り揃えている。
参考:コジマ技研
【シャリ玉ロボット:回転寿司】
鈴茂器工株式会社の「シャリ玉ロボット」は、握り寿司の土台となるシャリ玉を製造できるロボットだ。人の手だと繊細な作業が求められるシャリの形成も、ロボットで自動化することにより密度や量の均一化を図れる。
またボタン1つで開始・停止でき、1時間あたり4800カンものシャリ玉を作れるため、簡単操作で作業の効率化を実現しやすい。回転寿司店をはじめ、スーパーマーケットなどで幅広く導入されている。
参考:鈴茂器工株式会社
調理ロボット導入前に知っておくべきこと
ただ闇雲に調理ロボットを導入しても、店舗の経営を改善できる保証はない。では具体的にどういう点に気をつければいいのか、成功するためのポイントについて解説していく。
導入費用の相場とランニングコスト
調理ロボットの導入にあたって、まずは初期費用やランニングコストを知っておかなければならない。なぜならコストに見合ったリターンが得られなければ、無駄な出費になってしまうからだ。
おおよその相場については、初期費用が約50万円~500万円、ランニングコストが(月額費、リース料)5~6年契約で約1万円~15万円程度になる。
とはいえロボットによって料金はピンキリで、調理工程に適した機能や規模感の製品があるかも調査しなければならない。
成功するための3つのポイント
調理ロボットの導入を成功させるためには、意識すべき点や綿密な計画立案が大きなカギになる。では具体的にどういうポイントに気をつければいいのか解説していく。
【ポイント1:導入の目的を明確化する】
まず「なぜロボットを導入するのか?」を具体的にすることで、より目的意識をもって取り組めるようになる。例えば、人手不足の解消や人件費の削減、品質や生産性の向上などが挙げられる。
目的が定められていないと、いざ導入してもどんな効果を得られたのかが把握しづらいからだ。調理ロボットの導入により、「調理場やホール業務に余裕ができた」「従業員の残業が減った」「以前と比べて人件費が○%削減できた」など、成果を実感できる項目を挙げていくことが大切と言える。
【ポイント2:現場の意見を取り入れる】
いくら調理ロボットといえど、完全な業務の自動化は難しく、ある程度は人の手による作業も必要だ。中にはあまり効率化に繋がらず、ロボットのメンテナンスや洗浄作業が発生し、結果として従業員の負担が増えてしまうケースも考えられる。
どの工程を自動化し、どの作業を調理スタッフに任せるかを判断するには、現場で働く従業員の意見も重要だ。特に負担となっている場面を聞くなど、人の手に任せて柔軟性を持たせた方が良い業務を挙げてもらおう。
【ポイント3:信頼度の高いメーカーや代理店を選ぶ】
店舗のメニューにマッチした製品を探すことは大事だが、その中でも信頼できるメーカーや代理店を選ぶことも大事と言える。調理ロボットを導入したものの、すぐに故障したりランニングコストが高いと無駄な出費になりかねないからだ。
選ぶ基準としては、導入後のサポートやメンテナンス体制が充実しているか、料理に合わせてカスタマイズできるかなどを確認する。また市場のシェアが高い企業や導入実績の多いメーカーなども検討するポイントになるだろう。
調理ロボット導入の具体的なステップ
調理ロボットは単に設置して終わりではなく、店舗業務の1つとして調理工程に組み込む必要がある。そのためにも、事前準備から計画、導入後の運用などについて様々な検討を重ねることが重要になるだろう。
具体的な導入ステップとしては、以下のようなものが挙げられる。
- 現状分析と課題の洗い出し
ボトルネックとなる工程や従業員負担の大きい作業など、問題点となる業務や課題などを明確にする - 目的と予算の設定
改善すべき目的を定め、調理ロボットを導入できる場面を模索する。自社の売上や資金に見合った予算を設定する。 - メーカーや製品の比較
導入するロボットについて、各メーカーや販売店の情報収集を行う。機能性や使いやすさ、初期費用やランニングコスト、サポート体制などの様々な部分を比較する。 - 問い合わせと協議
実際にメーカーとヒアリングや相談を行うことで、具体的な導入計画を進める。 - 試験導入
設置場所や導線の確保、実際の稼働状況を検証するために小規模なテスト運用を実施する。現場スタッフからの意見を集め、導入への課題を把握する。 - 最終調整
ロボットの最終的な動作確認や微調整を行う。同時に運用ルールやマニュアルの作成、スタッフへの教育を実施し、稼働準備を進める。 - 導入後の運用と改善
本格的にロボットを導入し、生産性の向上や品質の安定化、従業員の労働時間削減などの効果があるか様々な面で測定を行う。売上動向や人件費などのデータ分析、調理ロボットへの投資回収率などを算出し、業務改善や他店舗への横展開を検討する。また不具合やトラブルへの対応などがあれば、メーカーや販売店へ相談する。
調理ロボットの導入は飲食店の未来を見据えた投資となる
調理ロボットの導入は、単に業務の効率化やコスト削減につながるだけでなく、店舗の話題作りや新たな店舗経営の形を生み出す可能性を秘めている。人材の入れ替わりが激しい飲食業界では、今後の継続的な課題となる人手不足の解消にも大きな進展をもたらす。
もちろん現状の課題として、気温の変化による加熱時間の微調整や原材料の違いによるわずかな作業変更など、臨機応変に対応することが難しい側面も存在する。だからこそ現場の貴重な意見をメーカーへ届けることで、より複雑な作業や多様な料理への対応などの発展を期待できる。
少子高齢化や人口減少が進む日本において、飲食店の新たな働き手になり得る調理ロボットの導入をこの機会に検討してみてはいかがだろうか。












