「焼肉やステーキ、刺し身など、仕入れた食材をあまり加工せずに出すだけでは付加価値がつけにくく、価格もなかなか上げられません。料理とは、手を加えれば加えるほど原価が安くなっていくものです。だからこそ食材をそのまま提供するのではなく、手間をかけたメニューで原価を下げていくことが重要なのです」
たとえば枝豆は、飲食店にとって「あると助かる」メニューのひとつだ。従来は塩ゆでだけで提供する店が多かったが、ここ2年ほどはいろいろ味付けを変えて、創作的な枝豆の料理として提供するケースが増えているという。鉄板焼き店ではバター醤油味、洋食店では枝豆を使ったペペロンチーノなど、味付けや調理方法で売価を上げる店が増えている。
「こうした取り組みは、お店の特色アピールや差別化にもつながります。仕入れ値を安くすることはできなくても、付加価値をつけることで売価に転用し、結果的に仕入れコストを下げられるのです」
メニュー全体の中で、原価率の高いものと低いものを織り交ぜ、メリハリをつけていく。そのためにも、どのメニューがどれくらい出ているのかを数値化することが重要だ。
「商品を出数や売上順でランキング化する『ABC分析』を行い、最もよく出ているAランクの商品を横展開させましょう。たとえばポテトサラダは消費者にとって馴染みのあるメニューですが、ただ盛りつけただけでは付加価値が高くありません。これに手を加えることで売価を上げれば、相対的に原価率を下げられます。アレンジしても、ポテトサラダは馴染みのメニューですから注文数は減らないでしょう。このようにAランク商品を横展開して、売価を少しずつ上げればいいのです」
1皿の量を減らしても、満足度が上昇する秘訣
さらにコロナ禍で、1組当たりの来店人数が減っていることも、メニュー開発に活かせるという。
「大型の居酒屋では、1組当たり平均4名に近い来店人数だったのが、コロナ禍で2名に近い水準まで落ちています。その結果、1皿当たりのボリュームを減らし、売価を調整する飲食店が増えているのです。
たとえば先ほど例にあげたポテトサラダでいえば、通常480円だったメニューの量を半分にする。ただし売価は480円の半額(240円)にはせず、360円にします。消費者から見た値段は下がりますが、利益率は上がるというわけです」
1皿のボリュームを減らし、味付けを変えてバリエーションを増やすことで、1人当たりの注文する皿数は増え、客単価も上がるという。「いろいろなメニューをちょっとずつ食べられる」ことが、顧客満足度につながるからだ。
コロナ禍で増えた小型の飲食店
来店人数の減少に合わせ、飲食店も大型店・総合レストランから小型化、専門店化へシフトしているという。
「コロナ禍で1組当たりの来客数が減ったことから、都心を中心に小型店に切り替える動きも加速しています。これまでのような25~30坪、50~60席もあるような店舗ではなく、10~15坪で30席ほどの店舗でテラス席や立ち席を作り、やや窮屈でも月商300万、400万など十分な売上が確保できるからです。
小さな店舗ではテーブルサイズも限られてきますから、当然大きな皿は置けません。すると必然的にメニューもボリュームダウンし、ある程度少ないポーションの商品が合理的になってきます」
船井総合研究所の調べによると、1人当たりの注文皿数(ドリンクは含まない)が3皿以上であれば満足度が高く、リピートにつながりやすいという。
反対に1人当たりの注文数が2皿台の場合、顧客は「1品当たりの値段が高い」「なんとなく食事を楽しめなかった」と感じ、リピート率も低くなる。これを踏まえてボリュームと価格を調整し、コロナ禍の外食スタイルに合ったメニュー開発を行うことが重要だ。
デジタル化で固定費の削減も
店舗を小型化すれば、家賃も抑えられる。固定費の削減は、仕入れ値を下げるよりもさらに効果が大きいだろう。近年、飲食店の間で進んでいるデジタル化も、固定費を減らすには有効だ。
「アプリによるモバイルオーダーや、発注・経理業務を効率化する受発注システムを導入すれば、これまで時間と人件費をかけてやっていた作業が大きく削減できるでしょう。こうした取り組みはコスト減に直結するため、小規模な飲食店でこそやっていただきたいと思います」
飲食店の利益率に直結する食材費と人件費、さらに家賃の3点をいかに削減するか。高止まりする食材費を、仕入れの見直しだけで改善しようとするには限界がある。付加価値をつけたメニュー開発や、ボリュームと価格の調整、家賃の削減やデジタル化で総合的な利益を確保したい。多方面から工夫すれば、利益率はまだまだ改善できる。コロナ禍の今こそ、収益構造そのものの見直しが必要かもしれない。
株式会社船井総合研究所
ライン統括本部 第四経営支援本部
フード支援部 外食グループ マネージャー 石本 泰崇 氏
公式サイト:船井総合研究所フードビジネス専門サイト『フードビジネス.COM』