ECを新たな売上の柱に育て、コロナ禍を乗り越えよう
新型コロナウイルスの収束がいまだ見えてこない中、ローカルエリアのロードサイドなど、立地や業態によってはコロナ禍以前の売上を取り戻している飲食店も出てきた。一方で、都心のオフィス街や繁華街の店舗は苦戦を強いられ続けている。
今後はたとえコロナが収束しても、テレワークなど新たな生活様式の広がりで、特に都市部における飲食店はコロナ以前の売上に戻らない覚悟で備える必要があるとする永田氏。生き残るためには新規事業に積極的に取り組んでいかねばならない。
「新たな事業の柱として、これまで夜営業のみだった店舗がランチ営業をはじめたり、多くの飲食店でテイクアウトやデリバリーに取り組んだりしており、ネット通販(EC)もその方法論のひとつです。どれも正解であり、むしろどれかひとつに頼るべきではありません」
テイクアウト・デリバリーやECは、前回の緊急事態宣言をうけて急遽はじめたという飲食店も多いだろう。実は、準備が整わない状況でとにかくやれることをやろうとした結果、それが法令に違反する行為だった、というケースが多くあったという。
実際、EC運営はどんなことに気をつけねばならないのだろう。気づかないうちに違法行為をしてしまわないよう、やってしまいがちなネット通販の注意点を知り、成功への糸口をさぐっていこう。
知らずに違法行為も? ECで気を付けるべき営業許可とは
焼肉店が、店の味を家庭でも楽しめるようにと、店で出している自慢の肉を「おうちで焼肉セット」「BBQセット」にして生肉を冷凍通販──よく見かける気がするが、生肉の販売は飲食店の営業許可とは別に「食肉販売業」の許可が必要だ。無許可で販売すると、営業停止や行政処分、処罰の対象となる場合がある。
「飲食店の営業許可は、あくまで飲食の店内提供に対する許可です。ネットショップで食品を販売する場合、作るものに応じて製造業や販売業の許認可が必要になります。たとえばオードブルを売るなら<そうざい製造業>、自家製キムチは<つけ物製造業>、ラーメンセットなら<めん類製造業><食肉製品製造業><調味料等製造業>など。また、販売する食品によって<魚介類販売業><乳類販売業>などが必要なケースもあります」
EC運営に必要な許認可は主に「製造業系」「販売業系」
食品関係の営業許可は食品衛生法に基づく34業種のほか、各都道府県の条例で定めているものがある。たとえば東京都の場合、食品製造業等取締条例に基づく「食料品等販売業」などの許可が必要とされる。
■東京都が定める営業許可種類一覧
調理業 | 製造業 |
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処理業 | |
販売業 | |
飲食店営業 喫茶店営業 | 菓子製造業 あん類製造業 アイスクリーム類製造業 乳製品製造業 食肉製品製造業 魚肉ねり製品製造業 清涼飲料水製造業 乳酸菌飲料製造業 氷雪製造業 食用油脂製造業 マーガリン又はショートニング製造業 みそ製造業 醤油製造業 ソース類製造業 酒類製造業 豆腐製造業 納豆製造業 めん類製造業 そうざい製造業 かん詰又はびん詰食品製造業 添加物製造業 つけ物製造業 製菓材料等製造業 粉末食品製造業 そう菜半製品等製造業 調味料等製造業 魚介類加工業 液卵製造業 |
乳処理業 特別牛乳さく取処理業 集乳業 食肉処理業 食品の冷凍業又は冷蔵業 食品の放射線照射業 | |
乳類販売業 食肉販売業 魚介類販売業 魚介類せり売営業 氷雪販売業 食料品等販売業 |
参照:東京都食品衛生サイト「食品衛生の窓 営業許可種類一覧」
「EC通販でやりたいと思っていることが取得する営業許可の範囲でできるかどうかの確認は、とても大事です。必要な許認可は、まずとりやすいものから取得しましょう。すでに飲食店・喫茶店の営業許可があるので販売業系はさほどハードルは高くありません。必要書類を整え手数料と共に所轄の保健所に届け出れば取得できます」
一方、製造業の許可は、高度な設備が必要で、一般の飲食店が取得するのはかなり難しい。専用の処理室が設置できるなど条件が満たせれば、菓子製造業やそうざい製造業などは取得できるケースがある。ただ、食肉製品製造業は、通常の飲食店設備だけではほぼ取得できないという。
「もし焼肉セットを売りたい場合は、おつきあいのある精肉業者さんに委託製造してもらう方法がいいでしょう。パックして納品してもらえば包装食品として扱えるので、販売業の許可だけで営業できます。オリジナルドレッシング、スープなども同様です」
冷凍して配送する場合の注意点
鮮度を保つため、真空パックにしたり、冷凍・冷蔵して配送する商品もあるだろう。だが、冷凍食品の製造も、許可なく行うことはできない。
「<食品の冷凍業又は冷蔵業>という許可が必要ですが、この営業許可は規格基準が非常に厳しく、セントラルキッチンなど設備がある程度整っていてもまず取得できません。しかし、食の安心・安全のために実際は冷凍・冷蔵して配送する場合もあるでしょう。この場合は“冷凍食品”ではなく“冷凍流通品”と呼称します」
食品表示法は正しく理解 ~アレルギーなど命に関わる重要情報
ECで食品を販売する際には食品表示法に基づいた食品表示基準が適用される。飲食店では表示義務がない原材料名やアレルギー、添加物などを包装容器などに記載しなければならない。実物を手に取って確認できないネット販売の場合は、食品の義務表示事項をサイト上でも確認できるのが望ましい。
■食品表示法の新基準に基づく食品の義務表示事項
表示が必要な項目 | ||
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一定の要件に該当する場合、表示が必要な項目 | ||
名称 | 保存の方法 | 消費期限又は賞味期限 |
原材料名 | 添加物 | 内容量又は固形量及び内容総量 |
栄養成分の量及び熱量 | 食品関連事業者の氏名又は名称及び住所 | 製造所又は加工所の所在地及び製造者又は加工者の氏名又は名称等 |
アレルゲン (特定原材料※の成分を含む食品) | 原料原産地名 (国内で製造したすべての加工食品) | 原産国名 (輸入品) |
遺伝子組換え食品に関する事項 (含有する食品) | 指定成分等含有食品に関する事項 (含有する食品) | L-フェニルアラニン化合物を含む旨 (アスパルテームを含む食品) |
機能性表示食品に関する事項 (当該食品) | 特定保健用食品に関する事項 (当該食品) | 乳児用規格適用食品 (当該食品) |
※特定原材料:えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
参照:消費者庁『早わかり食品表示ガイド(令和2年11月版・事業者向け)』
この他、都道府県が条例で定める食品の品質表示等(例)東京都消費生活条例に基づく食品の品質表示
「飲食店は食品表示法の対象ではないため、苦手分野のようですが、すべての食品に食品表示が義務付けられています。一括表示シールを作成できるラベラーもありますし、コストを抑えるならワードやエクセルで自作もできます。作成マニュアルは多く出回っていますので、しっかり調べて添付するようにしましょう」
確認・質問・アドバイスは積極的に。保健所と良好な関係を築こう
各営業許可申請は、所轄の保健所へ届け出る。基本的には、商品を製造している場所での認可が必要だが、販売許可は商品を発送する店舗や本社などの住所の所轄で取得する場合もある。詳しくは、保健所に問い合わせて確認しよう。
「気になることやわからないことは、必ず保健所に聞いてください。もし知らずに違反行為をしていたとしても、いきなり処罰の対象にはなりません。どうすればいいのかアドバイスしてくれます。
新型コロナウイルスの対応に追われているのに問い合わせていいのかな、という遠慮は無用です。コロナ対応は専門部署で、飲食部門とは違います。むしろ、新規開店の申請などが減っているぶん対応できるとのことです。メール、電話でも面談でも、親切に応じてくださるので、積極的に活用しましょう」
ポイントは柔軟な発想と必然性。成功するECサイト運営のコツ
永田氏は、飲食業がEC事業を考える際、既存の業態に縛られすぎてはいないかと問いかける。
「ハンバーガーショップのECサイトがハンバーガーだけを売る必要はありません。肉を生かした洋食でも牛丼でも、もっと柔軟に複数ブランドを持っていいんです。セントラルキッチンがあれば、稼働させて裾野を広げていきましょう。居酒屋でも、ラーメンやステーキ、チーズケーキも売れるのがECサイトの強みです」
ECサイトで複数ブランドを持つメリットは、既存顧客に加え、それぞれ違った新規顧客層をターゲットにできる点だ。まずもっとも得意な業態を発展させたEC向け商品を開発し、アグレッシブに展開していくべきだと永田氏。
「美味しいものとECで売れるものは違います。美味しいかどうかはネット上ではわからないからです。美味しそうと思ってもらえる写真、キャッチ―なネーミング、飲食店ならではの専門性も必要でしょう。
似たような商品が数多くある中で、あなたの店でなければならない理由は何か。お客様があなたの店を選ぶ理由はあるか、常に問い続けてください。売れ筋商品を小手先で真似しても二番煎じです。この店の、この味でなければという理由がなければ生き残ることはできません」
ただ、EC運営は飲食店のコスト構造とはまったく違う点は念頭に置いておきたい。飲食業の延長線上で考えていると、利益が出ないばかりか売れば売るほど赤字になってしまう可能性もあるので注意が必要だ。ECは原価以外にECサイトや決済の手数料がかかる。また配送コストは特に冷凍の場合、負担が大きい。消耗品コストである包材も、原価の一部と考えたほうがいいだろう。
ECサイトは楽天市場のようなショッピングモールや、BASE(ベイス)のようなネットショップ型プラットフォームが手軽に使える。どちらもパソコンに馴染みがなくても手軽に利用でき、それぞれメリット・デメリットがある。事業規模にあわせて選択しよう。
■ECサイト比較例
ECサイトモデル | 利用手数料 | 始めやすさ | 販促しやすいか |
---|---|---|---|
モール型(楽天市場など) | 比較的高い | △ 多少のITの知識が必要 | ○ ショッピングモールのユーザーがすでにいるので、販促しやすい |
自社型(ザ・ベースなど) | 比較的安い | ○ あまり知識なくてもすぐ始められる、カード決済の審査期間が短い | △ 自身のSNSなどで販促する必要あり |
「コロナ禍でも売上が落ちなかった飲食の二大巨頭は、焼き肉と寿司です。共通しているのは家庭では作れない味。スーパーやデパ地下の総菜ではない、近所のレストランでもない、お取り寄せしてでも食べたいものを消費者は求めています。そのコンセプトであれば業態は焼き肉と寿司には限りません。ぜひ自社の強みと照らし合わせてチャレンジしてください。
この逆風を生き抜いてもう一度、飲食業の真骨頂、お客様と笑顔で対話して『美味しかったよ』とお声をいただき『またお越しください』とお見送りする、あの醍醐味が戻ってくるまで、踏ん張って、がんばっていきましょう」
株式会社ブグラーマネージメント
お話:代表取締役社長 永田 雅乙 氏
主な業務内容:飲食企業へのコンサルタント業務、店舗プロデュース業務。商業施設(飲食フロアプロデュース・監修)、メーカー・流通などへの商品開発。業態開発・商品開発・接客指導・現場オペレーション構築・出店戦略など、飲食店に必要な一切の業務に関するアドバイス・サポート・指導。
公式URL:http://www.bugler-m.co.jp