不正はなぜ起きるのか。飲食店で発生した事例とは
ほぼすべての事業者にとって、従業員の不正問題は頭を悩ませる種になる。特に本部と現場の距離が遠く、金銭管理が属人的になりやすい中小規模の飲食店は不正の温床になりやすいといえるだろう。実例の一部を列挙しよう。
レジ現金の横領 | ・店舗のスタッフがレジの現金を横領した ・閉店前にレジを閉め、閉店までの売上を着服した |
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経理の不正 | ・経理担当者が遊休口座から現金を引き出して着服していた ・現金払いのアルバイト給与を多く申告して、差額を着服した ・市販の領収書を使って架空の経費精算をした ・購買担当者が実際より多い金額で仮払金を処理して、差額を着服した ・利用していない交通費を精算処理した |
物品の不正 | ・倉庫の食品、食器を運び出して横領した |
業者との癒着 | ・仕入先からのリベートを会社に報告せず着服した ・仕入れ業者に水増し請求させ、その一部をバックさせた |
客との共謀 | ・クレームトラブル処理費用などを架空計上して着服した |
税理士法人メディア・エスの公認会計士・税理士 田口安克氏は、従業員が不正行為に手を染める背景を「“不正のトライアングル”が、リスクを高めるといわれています」と指摘する。
たとえば料理長に『ギャンブルで借金がある』などの動機があったとします。たまたま、『仕入れ担当は自分だけでバレない』という機会もあると、『そもそも安い賃金が悪い、サービス残業をしている、みんなやっていることだ』と正当化してしまう可能性があります。まさかあの人が、と思うような人でも、動機、機会、正当化の3つが同時に揃えば、不正を犯しやすくなるのです」
どんなに優秀で真面目なスタッフでも、環境や条件次第で不正を働いてしまうことがある。では実際に従業員の不正が発覚した場合、どのような対応が考えられるだろうか。
事後対応は3ステップ。基本的に経営者の考え方次第
不正の事後対応は基本的にケースバイケースだ。メディア・エス 白土英成氏は、「経営者の考え方と従業員の態度で決まる」とする。ただ、最も重いペナルティで一生ついてまわる懲戒解雇や刑事告訴は、基本的に難しい。従業員本人も抵抗するだろうし、会社や他の従業員の負担にもなる。
「経営者が『この社員は置いておけない』と判断したなら、自主退職で去ってもらうのが最もいいでしょう。信頼していた従業員を訴えるのは不幸なことです。多額の損害が出てしまったため、回収する手段と捉えるのならば仕方ありません。しかし、懲戒免職・刑事告訴の前に、まず、本人に不正の事実を認めさせることが重要なポイントです。その上で次の3ステップを踏むとよいでしょう」
(1)示談にする
「本人と話し合い、返済計画を立てて順次回収していくケースです。個人の場合、家や土地といった物的保証を押さえるのは難しいでしょう。人的保証(以下の保証人等)で債権を守ることも検討してください」
(2)身元保証人に請求する
「入社の際には、両親や親族を保証人とする『身元保証書』を提出させていると思います。損害額を本人から回収できない場合は、身元保証人に請求することができます」
ただし、「身元保証書」には有効期限がある。特に定めがなければ保証期間は契約成立の日から3年、長くて5年となる点に注意が必要だ。
(3)退職金と相殺する
「不正があった場合、退職金は『支給なし』または『減額』です。しかし、過去の会社への貢献度など、情状酌量の余地があるのであれば退職金と相殺し、回収に充てた方が得策でしょう。法的な損害賠償などは行わずに円満退職してもらい、退職金と相殺という現実的な対応も一考です」