しかし、松島氏は「立地によっては、お食事をお楽しみ中であってもお客様にお帰りいただく、予約があってもお断りするといったことも必要でしょう。それは、『お客様の安全を守るため』でもあるということをご理解いただかなければなりません」と話す。
こうした客への対応の際も、店舗ごとのマニュアルやガイドラインは活かされる。
「従業員が店舗の立地リスクを知っていれば、なぜ営業しないのか、しっかりご案内ができます。お客様だけでなく従業員の安全のためにも、マニュアルは作るだけではなく、従業員1人ひとりにしっかり周知することが大切です」(松島氏)
災害後に見えてきた課題と、忘れてはいけないこと
今回取材した2社とも、建物や従業員に直接の被害はなかったものの、災害後は交通網の混乱による影響が大きかったという。「食材が届かない」「従業員が出勤できない」という問題だ。
「自粛ムードもあり、お客様に来ていただけずに在庫を抱えてしまう店舗がある一方で、営業できる店舗でも道路がふさがっていて業者が納品できないといった問題もありました」(A社)
「道路状況で一時、配送網がストップし、食材が届かないという状況になりました。いつもは大阪から仕入れているものを、急遽九州から仕入れたりしました。例えば、商品を作るのに必要な食材が1つでも欠けると、他の食材も捨てることになってしまいます。実際、九州から食材が届くまでの間に、無駄になってしまった食材がありました」
日頃から1社に頼るのではなく、別エリアで数社から仕入れる、また、災害発生時の仕入れの対応を事前に決めておく、などでこれらの問題もある程度は緩和できる。
「従業員の安全と安定した原料の供給と出荷、どれが欠けても困るのだと今回の西日本豪雨では痛感しました。今回、現場と本部が抱いたさまざまな思いを吸い上げた危機管理マニュアルを、今後つくっていきたいと思います」(B社)
西日本豪雨から約2カ月。広島の企業は営業を続け、災害地域に日常を取り戻そうとしている。
「自粛ムードの中でもお店に来てくださるお客様もいらっしゃるので、こんな状況でもお食事を楽しんでいただきたいという思いはあります。断水した地域の店舗では予備タンクがあったので、近隣の方に無料でお配りしました。店舗ごとに地域の一員として、できることがあればやっていきたいと考えています」(A社)
最後に、「今は取材は難しいが…」とアンケートには答えてくれた、広島のある外食企業の回答を紹介したい。「防災」とはなんなのかを、とてもシンプルに、的確に教えてくれている。質問は、『台風や豪雨の事前対策として、もっとも重要または有効と思った対策があれば教えてください』である。
「災害はどこにでも起こりうるという警戒心を持つこと」
自分の店も、いつ被害に合うかわからない。そんな危機感を持って、あらためて対策を検討してもらいたい。
取材協力:災害リスク評価研究所