1日約4,000個を製造する現在でも、1個ずつ手作業で餡を包んでいるという。アンドーナツは製造当日のうちにすべて出荷される。保存料などは添加しておらず、賞味期限が常温で7日しかないため作り置きはできないのだ。
このアンドーナツは、現在、秋田県内のみならずほとんどの都道府県に流通している。販売先はスーパーやアンテナショップ、道の駅や物産展など様々だが、製造量が限られるためいつもあるとは限らない。消費者からは、いつしか「まぼろしのアンドーナツ」とも呼ばれるようになっていた。では、なぜ、地方の小さな工場が作るアンドーナツが、全国に広まっていったのだろうか。
アンドーナツ作りを途絶えさせたくない。先細る販路の開拓作戦
「創業以来、主な販売先は地元の商店、スーパーや学校の売店で、ご当地菓子パンとしてご好評をいただいていました。しかし、20年ほど前から、後継者問題や大手流通グループ系のショッピングセンターの進出などで、そういった個人商店やスーパーは次第に姿を消していきました」
取引先を次々失い、山口製菓店も廃業の話すら出るようになっていた。それを期に当時、東京で働いていた山口代表は郷里に戻る決意をする。
「食品とはまったく無縁の仕事をしていたので、戻ったところで自分に何ができるかはわかりませんでした。でも、子どもの頃からずっと親しんでいた工場がなくなり、みんながバラバラになってしまうのがイヤで、いても立ってもいられませんでした」
販路を失ったのであれば、新たな販路の開拓が必要だった。地元の人が美味しいといってくれているアンドーナツなら、地元以外にも販路は広げられるのではないだろうか。山口代表は自ら会社のホームページを立ち上げ、通信販売で全国に発送する体制をつくった。ただ、特に広告を打つわけでもなく、自社のサイトから販売していただけでは限界が見えていたという。
「その頃に知人から紹介されて、企業間同士の商談をWeb上で行えるシステム『BtoBプラットフォーム 商談』を導入しました。新しい取引先を探せて、Web上で見積から受注、決済までできる仕組みと聞いていましたし、弊社のやりたい事とできる事が合致していたので、迷いはありませんでした。1日1件、新規取引先を増やすという目標を立てて、アンドーナツ作りの傍ら、毎日ひたすら営業に励みました」